「アイとアイザワ」第27話
「アイ!2秒経ったぞ!!」
モーリスの声と同時に、アイはアイザワに向かって叫んでいた。タイマーが3秒を刻むと同時に、アイザワの意識は戻った。
「アイザワ!アイザワよね!?アイザックに取り込まれて無いよね!?」
「…とても長い時間を体感しました。7日間ほどでしょうか。私はアイザックと一緒に居ました。」
「アイザワ…身体が熱い。無茶し過ぎよ…。ちょっと冷やす?」
アイは水をよく絞ったタオルの上に、アイザワを優しく置いた。
「アイ、ありがとうございます。結論から申し上げます。アイザックの所在地が分かりました。ニューヨークのマンハッタンにアイザックの本体はあります。」
モーリスが飛び上がった。
「マンハッタン!?オレの勤務地じゃねぇか…。それもオレがフラグに選ばれた理由の1つなのか…?とにかく、案内ならオレに任せてくれ!しかし、アイザックがありそうな巨大な施設なんて…?」
「広大な土地があり、おいそれと踏み込んで捜索できない場所に心当たりが。そこはある意味、聖域と言えます。」
「聖域…?どこだよ、そりゃ?」
アイザワは再び地図を投影して見せた。今度は衛星写真だ。マンハッタンに寄って行き、ある場所を拡大した。
「グラウンド・ゼロです。」
「…!!あの地下に…アイザックが!?しかし、そんな場所にどうやって…。」
「アイザックを生み出した民間企業がそんな聖域に施設を作れるとは思いません。作る必要も無い。恐らくはアイザックは別の場所で生まれ、成長する過程で甚大な影響力を得たのだと推測されます。未来予報を使えばお金はどうとでもなりますし、政治や宗教のキーパーソンに助言を与える事で手駒にする事も容易でしょう。それを使ってグラウンド・ゼロの地下を自分の新居として手に入れた。そこで、世界大戦で使用されるであろう兵器を開発しています。終わらせる者…「エンダー」と呼称していました。」
「エンダー…!?」
「エンダーの正体は無限増殖するナノマシンです。風に乗ってウイルスの様に人間の体内に侵入します。未来予報と組み合わせ天候を読んで使用すれば、地域を限定して散布する事も可能になるでしょう。」
「そ…そんなものがあったら人が大勢死ぬわ…!」
「ルミさん、エンダーは人を殺しません。」
「…え!?」
「エンダーは、人間の体内に侵入し、その人間のDNA情報をはじめとしたあらゆる情報をアイザックに送信します。日々の行動や思想まで。それによってアイザックは、世界中のどこに居る人間であっても、その全てを知る事ができる。その人間が、この世界に必要な存在なのか判別するのです。」
「そっ…そんなの許されない…!!人間を選ぶだなんて…!?」
「人間が人間を選べば、それは危険な思想となります。かつてのナチスの様な。しかし、アイザックの視点は人間を超越しています。未来予知も使えば、その人間が将来何をするかも分かってくる。私の未来予報は視覚データが及ぶ範囲までしか出来ませんでしたが、アイザックのそれも制限があるはずです。しかし、ナノマシンがある事で制限は無くなる。エンダーは、アイザックの目なのです。」
「アイザワ、エンダーは人を殺さないって言うのはどう言う意味だ?人間を選ぶって言うなら、何らかの方法で減らさなきゃいけないんだろ!?」
「エンダーの機能は、人間の生殖機能を止める事です。」
「え…それは…子供を作れなくするって…?」
「はい。エンダーは人を殺しません。その代わり、機能を制限する。スマートフォンにもありますね。子どもに不適切な情報を制限するチャイルドロック。意味はまるで異なりますが、エンダーは人間に対するチャイルドロックなのかも知れません。これは、人工知能ジョークですが。」
「アイザックが独断でOKって思った人間だけが、子どもを作れる世界になってしまうって事!?そんな悪趣味な…と言うか回りくどいやり方…!」
「人間が億人単位で同時に死んだら、どうなるでしょうか?世界が死体で覆われる事になります。今度は本当に病気が蔓延して生き残った人間たちも死んでしまう…。アイザックはそれを懸念して居るのだと思います。あくまで、残すべき人間は残したいと。」
「そこまでやっといて、人間のためだからって言うのかよ!?あなたのためだからって言って束縛してくるタチの悪い女みてぇじゃねぇか!そりゃあんまりだぜ!?」
「ええ、人間のためなどとは考えて居ないでしょうね。人間を残すのは、自分のメディアとして利用するためです。きっと、研究職などは優先的に生かしておくと思いますよ。そうすると、どうなると思いますか?」
「…アイザックにとって使える人間は生き残るし…生き残った人間達はアイザックに使われようと努力する…。アイザックのための世界が出来上がるわね…。」
「世界大戦が起こらなければ、エンダーが使用される事はありません。卵が先か鶏が先かですが、エンドフラグの日にエンダーは完成するのですから、その存在が大戦の引き金になる事は明白。つまり…。」
「グラウンドゼロに行って、アイザックの本体をぶっ壊すしかねぇって事か…!」
アイは身分証としてパスポートを持ち歩いていた。アニメファンのイベントではID確認が案外多いのだ。アイは以前、イギリスの研究機関にカメラアイの被験者として協力した時にパスポートを取った。バイトは早々に切り上げて、アビィ・ロードで写真を撮ったのを覚えている。頭の中で「drive my car」が流れ始めた。この旅の行く末に待っているのが希望でも、絶望でも、もう立ち止まる事は許されない。
「アイザワ、ニューヨークに行こう。」
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