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誰に頼まれた訳でもなく。

「左ききのエレン」が50話を迎えました。
読切版を描いたのがずいぶん前に思えます。1年半前でした。

エレンの連載が決まり、会社員のままでは無理だなと思って脱サラする決意ができたんですが
いわゆる商業誌の連載では無いので、ぶっちゃけエレンで食っていくのは厳しいと分かっていました。

しかも、ぼくが注目してもらえたのは「SNSポリス」「おしゃ家ソムリエおしゃ子」などのギャグ漫画路線だったので、いきなり思い切りシリアスな連載を始めても、誰得なんだろうかとも思いました。

あと、ギャグ漫画は1話完結でやれるし、終わらせようと思えば2・3話あれば終わらせることができると思ってましたが、シリアスなエレンに関しては初めてしまえば半端な所では止める事もできないです。

今思えば、誰に頼まれた訳でもない連載なので、休みたければ休めばいいし、終わらせたいなら自分で打ち切ればよかったんですが、描き始めたら楽しくて止められなかったし、キャラクターにも愛着が生まれて「彼らが幸せになるまで描かなきゃ」と思うようになりました。

描き始めて、途中ツラかったのは「SNSポリス」などを描いていた感覚に慣れてしまっていたので大きくバズらない事でした。SNSポリスは公開するたびにツイッターのトレンド入りしていたし、サーバーが落ちたりするレベルの反響があったので、なぜバズらないのか、なぜcakesは落ちないのか(ちゃんとしてるからです)と思ってました。

ニューヨーク編を描いている時がツラさのピークで、自分の中では最高のものが描けたと思った回でも、普段より少し良いくらいの反響。もうダメだ、誰に頼まれた訳でも無いものを、どうしてこんなに必死になってるんだと思いました。ちょうどその時期に、いま「アントレース」をご一緒させていただいているジャンプスクエア担当の林さんから連絡を頂きました。同じ時期に、もともと担当だった少年ジャンプ担当の村越さんからも改めて連絡を頂きました。(暗殺教室などを担当されていた方です)そのあと、糸井重里さんにお会いした時にも「ニューヨーク編から一気に良くなったね」と言ってもらえました。

自分が尊敬する人たち、すばらしい仕事を手がけている人たちに、いいね!と言ってもらえて、自分の中に住んでいるSNSポリスが「そういうこっちゃ、いいね!は数やあらへん。重里さんのいいね!は、いといいね!やで」と関西弁で囁いてきました。

そこから、改めてエレンはバズ狙いじゃ無いもんな、好きに描こうと思いました。

いま、友達がエレンをイメージした音楽をつくってくれています。彼は普通の会社員です。いわゆるクリエイターではありません。
久しぶりに呼び出されて、何やらもじもじしてて、2時間ほど他愛も無い話をしながらご飯を食べた後に、やっと曲を作ってると白状してくれました。恥ずかしかったんだと思います。クリエイターでも無い自分が音楽をつくった事、それをぼくに言う事。それは分かります、ぼくは新卒から大層なクリエイティブ職と呼ばれる仕事をしてきましたが、ぼくのどこがクリエイターなんだと毎日恥ずかしかった。彼がつくってくれている、まだ未完成のエレンの曲は、紛れもなくエレンの曲でした。ぼくも彼も、きっと光一と同じで、光一がエレンに向けて作った音楽でした。完成したら、みんなにも聞いて欲しいです。

いくら広告の仕事をしても、なかなかクリエイターである実感なんてなかなか無かった。でも、最近は少しだけ感じる事ができています。音楽をつくってくれた彼も、いま少しだけクリエイターだなって思います。誰に頼まれた訳でもなく、何かを作りたくて仕方が無い時、その実感は生まれるんじゃ無いかと思います。

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先日、50話記念で「左ききのエレン」のオフ会をしました。


いま、どんな人が読んでくれているんだろうって顔を見ながら話したいと思ったからです。
エレンを読んで転職した人、コピーライターになった人、広告会社を志望する就活生、教育について熱く考えている高校教師、美容師、モデル、様々な人が読んでくれていました。

会の合間に「エレンを描いてくれてありがとうございます」と泣いてくれた人もいました。ぼく自身がすばらしいクリエイターで、すばらしい仕事ばかりしていたなら、きっとエレンは描けなかったと思います。掛け値なく人に自慢できる人生を歩んでいたら、漫画を描き始めて無かったんじゃ無いかと思います。

「100話記念オフ会は、ぜひファン主催でやりますよ」と言ってくれた子もいました。本当にありがたい。たぶん、その前にエレンは完結しちゃうけど、完結してもきっとたまに描きたくなって描くんじゃ無いかなと思います。

最終回まで案外まだあるんですけど、描き始めたらあっという間な気もします。


それまで、どうぞお付き合いください。
宜しくお願いします。


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