カゴメが配当金を出し渋る理由、過去最大投資で海外収益拡大へ、23年12月期本決算
トマト加工品首位のカゴメは、2月1日に23年12月期の本決算を発表しました。どんな内容だったのか分析していきます。
今期事業利益13%減益へ
前期事業利益52%増益で大きく上振れて着地
23年12月期の業績は増収増益で着地しました。特に事業利益(※)は会社計画の160億円から34億円上振れて、期初に開示した42.2%減益予想から一転して最高益を更新しました。
売 上 9.3%増の2247億円
事業利益 52.1%増の194億円
営業利益 37%増の174億円
当期利益 14.4%増の104億円
※売上から原価、販売費及び一般管理費を控除し、持分法による投資損益を加えたもの
今期事業利益13%減益も、Ingomar連結化で純利益最高益
合わせて今期の業績予想を開示しています。事業利益は原価上昇を見込んで減益を見込む一方で、米国トマト加工会社Ingomarを連結化によって時価評価益を計上することから、親会社に帰属する当期純利益は最高益を更新する見込みです。
売 上 28.6%増の2890億円
事業利益 12.7%減の170億円
営業利益 48.8%増の260億円
当期利益 72.5%増の180億円
価格改定効果が国内増益転換、海外は大幅増益
事業利益は大幅な増益
カゴメの23年12月期は、事業利益が会社計画を大幅に上振れて着地しました。期初に開示した業績予想では原材料価格高騰と販売数量減で大幅な減益を見込んでいましたが、3Qで上方修正した業績予想すら20%も上振れたのはサプライズと言えそうです。
利益率も改善しています。
売上総利益率 34.6%→35.5%
事業利益率 6.2%→8.7%
営業利益率 6.2%→7.8%
事業利益の増減要因を以下の通りで、
- 原価上昇(原材料価格上昇 90億円、エネルギー 1億円など)で93億円押し下げましたが、
+ 契約の見直しや購入先の集約などの企業努力で原価を19億円削減、増収効果で84億円押し上げたことで原価上昇分を吸収し、そこに海外事業の増益分75億円が加わりました。
国内は減益、大幅増益の海外事業が牽引
ここからはセグメント別に見ていきます。国内加工食品、国内農事業、国際事業のうち、増収増益は海外でトマト加工品を生産・販売する国際事業のみで、国内加工食品と国内農事業は増収減益でした。
国内加工食品は飲料と食品が増収効果で増益に転換しています。一方で通販の減速が続いていて、広告費などのコストも増加したことから大幅な減益となり、国内事業の足を引っ張っりました。海外では売上・利益ともに大きく伸びていて、海外事業がカゴメの業績を牽引していることが分かります。
セグメント別売上
国内加工食品 +3.0%
・飲料 △0.6%
・通販 △3.3%
・食品他 +10.6%
国内農事業 +5.5%
国際事業 +25.6%
ゼクメント別事業利益
国内加工食品 △1.5%
・飲料 +1.6%
・通販 △56.5%
・食品他 +27.2%
国内農事業 △74.3%
国際事業 +208.6%
国内の飲料・食品は売上・数量ともに回復、通販は低迷が続く
国内で飲料と通販の売上が減っているのが気になります。
このうち飲料は四半期では増収に転換しています。
国内飲料の四半期売上推移
1Q△3.4% 2Q△2.0% 3Q△0.8% 4Q+3.6%
通販は定期顧客減少によって四半期でも回復傾向が見えず、やや深刻そうです。
国内通販の四半期売上推移
1Q△4.8% 2Q△4.1% 3Q△0.8% 4Q△4.0%
加工食品は価格改定後も増収傾向が続いています。特に4Qの増収率は一桁後半まで伸びていて、こちらは好印象です。
国内加工食品の四半期売上推移
1Q+0.4% 2Q+3.7% 3Q+2.7% 4Q+7.3%
次は販売数量を見ていきます。通期では野菜飲料99%、家庭用食品95%、四半期でも前年割れが続いているものの、回復基調が続いているように見えます。業務用は価格改定後も力強く通期で102%、四半期では3Qからプラスに浮上していることが分かります。
成長著しい海外事業
最後に海外でトマト加工品を生産・販売している国際事業を見ていきます。
売上は173億円増、前年から25%も伸びています。為替影響で55億円押し上げましたが、それを除いても120億円近くの増収で現地通貨ベースでも売上が大きく伸びていることが分かります。
事業利益も75.2億円増、こちらは前年の約3倍です。事業利益率も5.3%→13.1%に改善していて、収益性の高さが分かります。なお事業利益には為替影響7.2億円のほか、連結化したIngomarの持分法投資利益が含まれています。
国際事業の成長によって、カゴメの海外売上高比率も上がっています。
海外売上高比率の推移
19年度 24.5%
20年度 24.2%
21年度 26.8%
22年度 33%
23年度 37.9%
保守的な今期見通し、増配が渋い理由は
国内加工食品は41%減益を見込む
気になる今期は売上28.6%増も事業利益は12.7%減る見通しで、前年と同じく原材料価格上昇と販売数量減を想定したかなり保守的な見通しを出してきた印象です。なお連結化したIngomarの影響として売上515億円 、 事業利益31億円を含んでいます。
国内加工食品事業はトマト原料価格高騰により72億円の原価上昇を見込み、41%減益となる見通しです。せっかくコスト増を価格改定で打ち返したのに、また大幅な減益に落ち込むという見通しは悲観的です。
売上も横ばいの見通しで、物価高による買い控えを想定しているのでしょうか? とはいえ前年も悲観的な業績予想を発表したものの、3Qに上方修正をして最終的には大きく上振れて着地しています。物価高で国内景気が悪化して個人消費が冷え込むという、最悪のシナリオを想定した業績予想に感じられます。
今期増配11円のうち10円が記念配当は渋い印象
最後に株主還元ですが、年間配当は前期3円、今期11円増配し、52円とする方針を示しています。
ただし今期の増配分11円のうち10円は記念配当です。今期の予想配当性向は記念配当を含んでも25%で、中期経営計画期間中の総還元性向40%に全く達していません。なぜ11円全て普通配当で出さないのか、なぜ総還元性向40%を掲げながら増配が渋いのか、つい不満を言いたくなります。
いまは株主還元よりも海外事業拡大を優先するとき
配当金を出し渋った理由を考察しました。
まずキャッシュフロー計算書から、
営業CF +46億円
投資CF -60億円
財務CF +156億円
フリーCF -14億円
税引き前利益が前年から約40億円増加したものの、棚卸資産が約72億円増加した結果、営業CFは前年並に留まりました。投資CFは有形固定資産の取得などで前年から約32億円支出が減少しましたが、会社が自由に使えるフリーCFは14億円のマイナスです。また財務CFは借入金の増加で156億円のプラスに転じています。フリーCFがマイナスなので、ここから増配の原資を確保するのは難しそうです。
もちろん手元に360億円の現預金があり、これを活用する方法もあります。
しかし、カゴメはIngomarの出資持分を20%→70%まで高めるために360億円を投資し、この財源を約1年間のブリッジ・ローンなどで確保しています。カゴメにとっては過去最大の投資です。
貸借対照表を見ると流動資産=1年以内に返さないといけない負債が前年から約200億円増えています。(内訳は借入金153億円、その他の流動負債16.7億円、未払い法人所得税8.6億円など)
流動資産 1291億円→1651億円
流動負債 803億円→1004億円
1年以内に現金化可能な流動資産も約360億円増加しています。(内訳は借入金によって増えた現預金と棚卸資産の増加分) Ingomarに投資した360億円と一致します。
これらを考慮すると、今後1年間でそれなりの金額の借入金返済が待っていることから、360億円の現預金は大切に使う必要があります。
つまり、いまのカゴメは海外事業拡大のための投資が優先であり、将来の収益拡大のために、ここで大盤振る舞いすることはできないというのが実情だと推察できます。
今後、カゴメの企業価値が上がるかどうかは、この投資が成功して海外でさらに成長していけるかどうかにかかっています。いまは株主還元が渋くても、将来の収益拡大に繋がるなら理解できるのではないでしょうか。