東京製鐵の23年3月期本決算を分析
4月21日、独立系電炉大手の東京製鐵が鉄鋼セクターでいち早く、23年3月期本決算を発表しました。どんな業績だったのか、今後の見通しも含めて分析していきます。
今期最終は32%減益へ
前期実績
売上、利益ともに会社計画をやや下振れして着地しました。23年3月期の売上は33.4%増の3612億円、営業利益は19.8%増の380.6億円、経常利益は392.5億円、最終利益は3.4%減の308.4億円。
最終利益は繰り延べ税金資産の取り崩しに伴い、税金費用が増加した影響で小幅な減益に転じています。
今期予想
同時に24年3月期の業績予想を開示しています。
売上6.6%増の3850億円、営業利益21.2%減の300億円、経常利益21%減の310億円、最終利益31.9%減の210億円、増収減益の見通しです。
売上は過去最高も原材料価格高騰が響く
販売数量と単価増が売上を押し上げる
鉄鋼メーカーの売上は価格×数量で決まります。出荷単価が9.7万円→11万円に上昇し、数量が17.8%増えたことで売上は過去最高を記録しました。
決算短信には、エネルギー価格高騰や中国のゼロコロナの影響で海外市況は軟調に推移したものの、「国内では民間設備投資などによる需要が堅調で、鋼材市況は歴史的高水準で推移」とあり、輸出の出荷単価が前年より下がっているのに対して、全体の単価は1割強上昇しています。旺盛な国内需要が業績を押し上げた要因であることが分かります。
また売掛金が1年前より1.5割ほど増えているので、受注が堅調なことが窺えます。
原材料価格の高騰が響いて粗利率は低下
過去最高の売上を記録した一方で気になるのが利益率の低下です。損益計算書を見ると、売上総利益率(粗利率)が18.5%→17.4%に約1%低下していることがわかります。これは原材料高による原価上昇に値上げが追いついていないことを意味しています。
原材料とは鉄スクラップやエネルギー(電気代)であり、価格は主に市場取引で決まります。しかし、出荷した製品の販売価格は半年に1回や1年に1回など、取引先との価格交渉で決まるため、原材料価格の上昇が製品価格に転嫁されるまでにタイムラグが生じるのです。
そうなるとコストダウンで利益率を維持しようとするのがこの業界の特徴で、決算短信には「全社一丸となったコスト削減の取り組み」とあります。しかし、原価上昇分全てを吸収することはできなかったようです。
今期は売上の伸びが大きく鈍化し減益へ
前期は国内の旺盛な鋼材需要に支えられて大幅な増収増益の決算になりましたが、より重要なのは今後の見通しです。
決算短信によると、今期も国内の鋼材需要が引き続き堅調に推移することを期待するものの、主原料・諸資材価格の高止まりが懸念されるとし、増収減益となる見通しを示しています。まず売上が6.6%増と前期の33.4%増から大きく伸びが鈍化することが目につきます。鋼材需要は引き続き堅調に推移するとしても、価格が上がりすぎるとやがてコスト増を嫌って買い手が減り、販売数量、単価ともに伸びは止まり売上は頭打ちになります。
さらに営業利益が21.2%も減るということは、原材料価格高騰分を転嫁したくても、これ以上の値上げを通すことは難しいと会社は見ているのでしょうか? 売上の伸びが鈍化して、原材料価格が高止まりすると利益は減少に転じることになり、業績のピークアウトを予感させます。
そこで東京製鐵の売上推移を見ると、2~3期増収が続いた後に減収に転じる傾向があることが分かり、景気に合わせて業績が変動することを示しています。この傾向が続くなら来期にも減収に転じるかもしれません。
また増収増益→増収減益→減収減益→減収増益のパターンで推移していることも分かります。これは典型的な景気敏感株のサイクルです。
売上は頭打ち、業績は天井か?
東京製鐵の23年3月期は大幅な増収増益で着地も、今期は売上の伸びが大きく鈍化し、減益に転じる見通しです。価格を上げすぎると買い手が減ってしまうため、これ以上の値上げは厳しそうです。電力料金の値上げが控える中では、省エネなどのコストダウンで吸収することも難しいでしょう。また鉄鋼セクターは競合メーカーが多く、鋼材需要の伸びが止まれば、競争激化で利益の押し下げ要因になります。
国内はやっとコロナ禍が終わって景気回復局面にあるとはいえ、景気によって業績が変動する鉄鋼セクターである以上、いつまでも好業績が続くことはありません。増収減益のあとに減収減益に移行する景気敏感株のサイクルからも、業績は既にピークアウトしているか、天井が近いように感じられます。