コスモエネルギーがさらに株主還元を拡充、配当2倍でPBR1倍へ
石油元売り大手のコスモエネルギーHDは、11月8日に24年3月期の中間期決算を発表しました。どんな業績だったのか、1Qに続いてさらなる増配も発表していますので詳細を見ていきます。
今期最終を42%上方修正
上期実績
24年3月期4-9月は減収減益での着地になりました。
・売 上4.6%減の1兆3084億円
・営業利益56.1%減の759億円
・経常利益52.2%減の830億円
・在庫影響866億円減の52億円
・当期純利益62%減の360億円
・在庫影響除く当期純利益19億円増の325億円
今期計画
合わせて通期の業績予想を上方修正しています。当期純利益は一転して14.8%増益へ、在庫影響を除いた当期純利益も期初に発表した計画から70億円増額しています。
さらに年間配当を50円増配し250円→300円に引き上げています。
・売 上8.7%減の2兆5500億円
・営業利益10.9%減の1460億円
・経常利益5.8%減の1550億円
・当期純利益14.8%増の780億円
・在庫影響除く当期純利益92億円増の620億円
在庫評価益拡大と円安効果で一転今期増益へ
それでは上期の決算を詳しく見ていきます。
石油事業の回復で在庫影響除く当期純利益19億円増益
決算ハイライトは以下の通りです。
上期累計で減益で着地したものの、経常利益、当期純利益の減益幅は1Qから大幅に縮小し、在庫影響を除いた当期純利益は19億円増と小幅ながら増益に転じています。また四半期で見ると、2Qの7-9月は経常利益が39.8%の増益に転じています。
原油価格上昇によって、在庫影響が1Qの▲171億円→52億円とプラスに転じたことが影響しました。
石油元売りは法令で70日分の備蓄が義務付けられているので、在庫の影響が大きくなります。4-9月のドバイ原油価格は82ドルと、前年の102ドルからは大きく下落しましたが、4-6月の78ドルからは高い水準にあり、プラスのタイムラグが発生した形です。
石油事業はマージン良化で増益、石油化学は赤字
セグメント別の経常利益は以下の通りです。
・石油事業は在庫影響を除くと41%増益の435億円
・石油化学事業は34億円の赤字
・石油資源開発は25%減益の330億円
・再エネ事業は2億円増益の1億円
石油事業は製油所の定修やトラブルの影響があったものの、マージン(※1)良化と経費の改善などで増益になりました。石油化学事業は市況の悪化で減益になりました。石油開発事業は生産数量が減少したことで減益に、再エネ事業は前年よりも風況に恵まれて黒字転換しました。
※1 販売価格から原料コストなどを差し引いた粗利
セグメント別の経常利益への寄与を見ると、石油事業がマージン良化と経費の改善で126億円押し上げました。一方で石油化学事業は価格、数量ともに減少、経費が増えたことで112億円、石油資源開発事業も数量減などで81億円押し下げ、在庫影響除いた経常利益は前期比41億円減益となっています。
今期の在庫影響除いた経常利益を70億円上方修正
23年度の通期計画見通しに変更がありましたので、見ていきます。
修正された通期計画 ()は前期
経常利益 1550億円(1645億円)
在庫影響除く経常利益 1320億円(1429億円)
在庫影響 230億円(216億円)
当期純利益 780億円(679億円)
在庫影響除く当期純利益 620億円(528億円)
前提条件
ドバイ原油価格 84ドル
ドル円 143円
期初の見通しから経常利益は300億円、在庫影響を除く経常利益を70億円増額修正し、当期純利益は一転増益になる見通しです。円安に伴う在庫評価拡大による増益要因が反映されました。
セグメント別の経常利益も以下の通りに修正しています。
石 油 +80億円(在庫影響除き)
石油化学 -90億円
石油資源開発 +90億円
再エネ 据え置き
石油事業は在庫影響を除いても増益幅が拡大し、石油資源開発は減益幅が縮小する一方で、石油化学は期初見通しの20億円から一転して70億円の赤字に大幅に下方修正しています。
特に石油化学の業績悪化が気になります。70億円程度の赤字なら石油事業の増益で吸収できますが、中国などの景気減速で想定以上に市況が悪いのでしょうか。
決算説明会のQ&Aで、需要の低迷に加えて「供給サイドでは中国で新設プラント が計画通り立ち上がっており、需給が著しく悪化している。短期的には簡単に市況が改善するような状況にはない。」と回答しています。競争力を強化して影響を抑制するとしていますが、石油化学については今期中の業績回復は厳しい様子です。
1Qに続いてさらに50円増配して年間配当300円へ
合わせて年間配当予想も修正しています。1Qで50円増配したばかりであるにも関わらず、さらに50円増配して年間配当予想を250円→300円に引き上げています。
ただし配当下限は250円で据え置きです。これについては決算説明会のQ&Aで「今後の業績動向を踏まえて下限を 300 円にできるかどうか、継続して検討していきたい」と回答しているので、来年以降の下限引き上げもありそうです。
それでも今期二度目の増配で、前年から150円も配当を増やしたのはサプライズです。同じ石油元売りでもENEOSと出光興産は何も追加還元を発表していないことを考えれば、コスモが1Qに続いて2Qでも増配を発表したことに少し驚きました。
株主還元に積極的な姿勢を示すことで、「PBR1倍の早期達成およびPBR1倍以上の定着を目指す」という会社側の強い意志が感じられます。「PBR1倍を目指す」と言っている企業はたくさんありますが、実際に株主還元を大幅に拡充する企業は少なく、口先だけではなく実行に移していることは評価できます。
なお引き続き「財務健全性目標達成時の追加還元実施」という注釈を残しています。来年以降のさらなる還元実施を期待できそうです。
コスモが言う財務健全性目標は以下の二つ
・ネットDEレシオ1.0倍
・自己資本6000億円以上
23年9月末時点の自己資本は5634億円でまだ6000億円に達していません。つまり、自己資本6000億円に達したときにはさらなる還元を実施することを意味しています。
さらに株主還元を拡充したコスモ、PBR1倍へ
コスモエネルギーの24年3月期中間決算は、主に石油事業が回復したことで1Qから大幅に業績が上向き、原油価格の上昇と為替が円安に振れたことで通期見通しも上方修正しました。
さらに1Qに続いて50円増配して、年間配当予想を300円に引き上げました。株主還元に積極的な姿勢を示すことで、早期にPBR1倍を達成するだけでなく定着させたいという会社側の意思が感じられます。
もちろん株主還元はしっかりとした財務基盤があってのこと。
コスモは財務基盤が改善していて、フリーキャッシュフローは1466億円の+で増配の原資は確保できています。
コスモエネルギーの財務指標(23年3月末比)
自己資本 5279億円→5634億円
自己資本比率 24.9%→25.8%
ネット有利子負債(※2) 5819億円→4673億円
ネットDEレシオ(※3) 1.1倍→0.83倍
※2 有利子負債から現預金などを控除した実質的な有利子負債
※3 自己資本に対してネット有利子負債がどれくらいあるかを示す指標
株式市場はコスモの株主還元拡充を素直に好感しているようで、株価は決算発表翌日に約9%上昇しました。同業のENEOS、出光興産に比べて収益力は高く、稼ぐ力が向上すればまだまだ増配余地はありそうです。