丸紅は非資源の稼ぐ力が高まっている、24年3月期中間決算を分析
大手総合商社の丸紅は11月2日、24年3月期の中間決算を発表しました。どんな業績だったのか、今後の見通しも含めて分析していきます。
今期最終7%上方修正
上期実績
減収減益で着地しましたが、最終利益の進捗率は期初の見通しに対して60%、一過性の損益を除いた実態純利益も55%、いずれも順調な進捗になりました。
売 上 33%減の3兆7506億円
営業利益 34.2%減の1514億円
経常利益 21.6%減の3062億円
最終利益 20.1%減の2513億円
今期計画
同時に業績の上方修正を発表し、最終利益を300億円、実態純利益を200億円増額しています。修正した会社計画に対する最終利益の進捗率は55.8%です。また年間配当も5円増配し、1株78円→83円に修正しています。
最終利益 17.1%減の4500億円
非資源の上振れで減益幅縮小へ
非資源分野が堅調に推移して進捗率60%
丸紅の24年3月期中間決算は、資源価格の下落が影響して減益になったものの、堅調な非資源分野が寄与したことで予想していたよりも良い決算という印象を持ちました。
上期最終利益 2513億円 進捗率60%
1Q 1412億円(-22.9%)
2Q 1100億円(-2.6%)
上期実態純利益 2440億円 進捗率55%
1Q 1340億円(-23.3%)
2Q 1100億円(-12.3%)
1Qよりも2Qの減益幅が小さいことに気づきました。1Qが前年の資源高の反動が大きかった一方で、非資源でしっかり稼いだ結果、2Qは前年比で資源価格の下落幅が小さかったこともあり減益幅が縮小したと思われます。
実態純利益の内訳は非資源分野が290億円減の1650億円、資源分野が510億円減の710億円です。石炭や銅価格の下落などで資源分野の減益幅が大きかった一方で、非資源分野は肥料価格の下落があったものの底堅く推移したことが分かります。また全体の2/3を非資源分野で稼いでいるのも特徴的です。
電力、建機・産機・モビリティが増益、金属、アグリが減益
次はセグメント別に見ていきます。
金属、アグリなど商品価格下落の影響を受けたセグメントが大幅な減益になった一方で、電力や建機・産機・モビリティ、食料など非資源分野で手堅く稼いでいるのが特徴的です。
増益のセグメント
・電力
・建機・産機・モビリティ
・食料第一
・インフラ
・次世代事業開発
・ライフスタイル
・金融・リース・不動産
増益は7セグメント、目立つところで電力が海外発電事業が堅調に推移して56億円増益、建機・産機・モビリティは販売台数が増加した建械事業と自動車関連事業が寄与して38億円増益、食料第一はインスタントコーヒーの製造・販売事業や国内菓子卸事業の増益で26.5億円増益、インフラは海外水事業の増益で25.9億円増益など。
減益のセグメント
・金属
・アグリ
・エネルギー
・化学品
・航空・船舶
・情報ソリューション
・食料第二
・フォレストプロダクツ
・次世代コーポレートディベロップメント
減益は9セグメント、目立つところで金属が豪州原料炭価格の下落などで362.5億円減益、アグリが農薬と肥料価格下落によるHelena社などの減益で197億円減益、エネルギーは原油・ガス価格の下落による石油・ガス開発事業の減益などで96.1億円減益、化学品は石油化学品と無機化学品取引の減益で70.8億円減益など。
電力・エネルギーを上方修正、金属、アグリ、化学を下方修正
セグメント別の利益予想を修正しているので見ていきます。
上方修正したのは9セグメントで、電力、建機・産機・モビリティ、エネルギー、金融・リース・不動産、食料第一、航空・船舶など。下方修正は金属、アグリ、フォレストプロダクツ、化学品、食料第二の5セグメント。
電力を100億円増額し440億円と一転して増益の見通しに変わり、エネルギーも50億円増額して370億円と前期の382億円に近づくのに対して、金属は120億円減で減益幅拡大、アグリも30億円減額で420億円、増益見通しから一転7億円減益に落ち込むことになります。
特にアグリは1Qの決算説明会質疑応答で「今後はリカバリーしていくと考えており、通期では前年比増益で見て いる」と回答していたことを考えると、下方修正の理由を聞きたくなります。
修正後のセグメント別進捗率
※決算資料にないので自分で計算しました。
ライフスタイル 44.5%
情報ソリューション 26.6%
食料第一 63.6%
食料第二 55.2%
アグリ 64.8%
フォレストプロダクツ 103.3%
化学品 17.5%
金属 49.3%
エネルギー 51.6%
電力 63.6%
インフラ 53.3%
航空船舶 55%
金融・リース不動産 57.6%
建機・産機・モビリ 54.1%
フォレストプロダクツの進捗率が100%を超えているのは、インドネシアのムシパルプ事業(森林業、パルプの製造及び販売)、ベトナムの段ボール製造・販売事業が不振で、下期1億円弱の赤字を見込んでいるものと思われます。
上期は2712億円を投資、非資源分野の実態純利益拡大へ
総合商社は定期的に事業ポートフォリオの見直しを行い、これから利益が出そうな分野へ投資し、必要のなくなった事業を売却して投資の回収を行っています。種を撒いて、芽が出たら、何年も水と肥料をやって育てて、果実を回収するのが総合商社のビジネスモデルです。
丸紅の投資と回収は以下の通り、通期で4700億円の投資を計画しています。
投資 2712億円
回収 358億円
合計 2354億円のキャッシュアウト
主な新規投資として、米国で航空機⽤部品の販売事業と⾃動⾞アフターマーケット事業、航空機リース事業、国内で菓⼦製造業(旧明治産業、現アトリオン製菓)、ブラジルで農業資材関連事業など。自動車や航空、そして日本でもヨーグレットやハイレモンで馴染みのある製菓事業と非資源分野への投資が大半を占めています。
丸紅はこれまでにも非資源分野に重点的に投資していて、非資源分野の実態純利益は5年前の2000億円弱から、3000億円程度に拡大する見通しです。新規投資が将来的に収益の柱に育てば、丸紅の稼ぐ力はさらに高まることになります。
株主還元を300億円増額し、増配と自社株買いを発表
投資家にとって気になるのが株主還元です。丸紅は1000億円のフリーキャッシュフローを活用して、株主還元を300億円引き上げて1600億円とする見通しを示しています。
丸紅の株主還元方針は以下の通りです。
・減配しない累進配当
・総還元性向30~35%程度
・機動的に自社株買いを行う
この方針に従い、今期の年間配当見通しを5円増額して78円→83円に引き上げ、合わせて上限200億円の自社株買いを発表しています。
これにより総還元性向は35.5%で上限に達しましたが、業績の上振れ次第ではさらなる還元を期待できそうです。
ネットDEレシオは0.55倍と財務は健全
財務基盤を一応確認します。
自己資本比率 36.2%→39.3%
自己資本 2.87兆円→3.24兆円
ネット有利子負債(※1) 1.48兆円→1.77兆円
ネットDEレシオ(※2) 0.52倍→0.55倍
※1 有利子負債から現預金を引いた実質的な有利子負債
※2 自己資本に対してネット有利子負債がどれくらいあるかを示す指標
ネットDEレシオは少し上昇していますが、健全な企業の目安である1倍を大きく下回っています。22年3月末は30%をきっていた自己資本比率は40%近くまで上昇していて、財務基盤が強化されていることが分かります。
最後にキャッシュフロー計算書を確認します。
営業CF +2185億円
基礎営業CF(※3) +2664億円
投資CF -2189億円
財務CF -1440億円
※3 営業CFから運転資金を控除したもの
基礎営業CFは前年から20%減っていますが、それでも2000億円を超える水準にあり、安定して稼ぐ力があることを示しています。フリーキャッシュフローはマイナスですが、今年度のキャッシュインの⾒通しから、2023年度末 のフリーキャッシュの残高は約5200億円としているので、問題なさそうです。
非資源分野が成長し、稼ぐ力が高まっている
丸紅の決算からは資源価格下落で減益になったものの、進捗率は60%と高く、堅調さが伝わってきます。これは資源価格の下落による金属やエネルギーセグメントの減益を、電力や建機・産機・モビリティ、食料などの非資源分野で手堅く稼いである程度穴埋めできているからで、非資源分野の稼ぐ力が高まっていることを示しています。
株主還元にも力を入れていて、累進配当と総還元性向30~35%の方針の通りに、増配と自社株買いを合わせて発表していることも好感が持てます。
また今期は4700億円の投資を行い、その大半が非資源分野です。新規投資した事業が成長すれば、丸紅の稼ぐ力が高まるだけでなく、資源価格に依存しなくても安定的に稼げる企業に変わることになります。まだまだ成長が期待できそうです。