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渡る中国にも鬼はなし(20/67)

第4章 中国第3日目 蘇州->上海->昆明 
デッキにて


 日本の列車でもそうですが、通路は狭く私の車イスが通れそうもありません。それでも1度はやってみました。日本の列車の通路よりは広いのですが、やはり車イスは通れません。しかたなく列車のデッキに車イスのままいることにしました。気を使った添乗員さんが私に同行します。

 「あああぁ、こういう場合はなんというのかお荷物だなぁっ」と思ってみたりします。私は車イスに座っているのですが、添乗員さんは立ったままです。これも気の毒でした。「1時間ですから……」ということでしたのでお願いしたのですが、実際この添乗員さんがいないと困ることが出てきました。

 日本の特急列車でもそうですが、売り子が通るのです。それも大きなワゴンを引いてきます。連結部のドアを一杯開けられると、私の居場所は入り口付近に後退せざるを得ません。ところが、入り口付近には、20センチほどの階段が1段あるので、車イスごとこの階段から下に落ちる可能性がありました。

 そのとき、添乗員さんがいてくれたお陰で、安全に後退することができたのです。しかし、特急列車の売り子は商売熱心というか、日本人を階段から突き落としたかったのか、1時間の間に3回ほどドアを開けて行き来します。その都度添乗員さんが私の車イスを安全に配慮しながら後退させます。さらには緑色の制服を着た女性の車掌も何回となく行き来します。

 蘇州は公式訪問ということで、ショッピングの機会はあまりありませんでした。実はこの列車に乗って以降公式訪問を終えたという気安さからか、私たち市民友好交流訪中団はもうよくある買い物を中心とした観光旅行団になり始めていました。列車の中はこの日を初日として「シルク、シルク」と本当かうそか分からない怪しげな代物を売りつける中国人に囲まれていたのですが、私には、正当な品物とお金の交換というふうには見えませんでした。

 ではどう見えたかと言いますと、ニューヨークの深夜の地下鉄で、よろしくない人たちが、旅行者に襲いかかって金品を強奪するようにも見えたのです。日本人に群がり、「シルク、シルク100%」と連呼し、日本人の財布から高額紙幣を巻き上げ、怒濤(どとう)のごとく去っていく中国人。

 いえ!、けっして中国人の悪口を言っているわけではありません。というのも、中国旅行中、至る所で、「シルク、シルク!」の連呼を聞きましたし、その観光価格といいますか、1万円というのが、多くの彼らの月収に等しいことを考え合わせると、その価格設定は「ふんだくっている」と言いますか「巻き上げている」というふうに見えたものですから、つい強奪というイメージが浮かんだのです。

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