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あらら?(=ショート・ショートストーリー)
1男
4WDのバカでかい車に乗っている。
高い運転台で高速を飛ばすと、気分は爽快だ!
乗用車にちまちま乗っている家族を尻目に優越感に浸れた。
渓流釣りが最近の趣味。
林道に分け入って、山奥の車がやっと入れるところまで進んで、車を止める。
そこから、準備を初めて、沢に降り、渓流を奥に奥へと入ってゆく。
ルアーの糸を伸ばしながら、澱みや瀬を探して沢登りは続く。
釣った魚はカメラに収めてリリースする。
以前はバスフィッシングをしていた。
ブラックバスを釣っては、バケツに入れて、湖や川に放した。
バスフィッシングは最高に楽しい!釣りだった。
日本中の至る所にブラックバスを放流した。
地域の住民や漁民の反対運動も耳にはしたが、かまう事は無い!
生態系なんてオレには関係ない!
皇居のお堀にだって放してやった。
食欲旺盛なブラックバスはどんどん増える。
しかし、釣りはブームになり、釣り人口は増えた。
バスも日本中の川で湖で沼でどんどん増えた。
日本中至る所で釣れる。
あの、日本最大の琵琶湖でさえも、釣り堀状態だ。
笑いが止まらない!しかし、飽きた!
同じ引き、同じ感触の、入れ食い状態に飽きた!
バスフィッシングに急速に飽きてしまった。
渓流のほうが、面白い!
という事で、今日は今シーズン最後のフィッシングだ。
秋も深まり、山には冬の便りも。
寒くなってきたし、魚も喰いが今ひとつに成って来た。
いい天気の秋晴れに恵まれて最高の渓流日和だ!
2.夫婦
隣の家のパーティーに誘われた。
越して来たばかりだし、隣人は中々の素敵な家族だ。
日曜日の午後!イギリスならハイティー?かな。
一品持ち寄りのパーティー私達夫婦は、手作りのキッシュとチーズの盛り合わせを用意した。
それに、お気に入りの赤と白のワインだ。
あっと、子供さん様にクッキーも!
来ていた家族は我が家の反対隣のご家族と3組の夫婦だった。
駐車場が直ぐ隣の家は玄関がその向こうなので、挨拶はしていたが、初めてお会いした。
招いてくれたご夫婦は、建築関係のデザイナーで、自宅での仕事の合間にサーフィンしてる。
最近は夫婦でサーフィンが多い!海岸までは200mくらい!
奥様は波が良ければ一人でも行くらしい。
お子さんは小学生。
反対隣のご夫婦はどうも、夫婦ではないらしい!
奥様はファション関係のどうやら売れっ子デザイナーで多忙らしい。
明るく元気そうなお二人はスペインかイタリアの雰囲気だ。
ご主人はプロのバスフィッシング?それってなに?
ナッツの入ったグリーンサラダも美味しかった!
ツナと合わせた大根サラダも、スペアリブにミートローフにポテトのグラタンにポテトサラダ。
招いてくれた奥様は料理が上手だった。お酒はご夫婦でビール!
車庫がお隣の奥様?はキンピラ牛蒡に蓮根のキンピラ。
それに、牛蒡の牛肉巻き。
バーボンとテキーラを持参でショットグラスで一気のみだった。
私達夫婦はワイングラスを傾けながら今のところ借りて来た猫の状態で様子見!
楽しいパーティーは話に花が咲き過ぎていった。
ブラックバスの話になった。
日本中に無断放流というのを繰り返しているらしい。
そのバス釣りでプロに成ると高額の賞金が貰えるらしい。
ホントかどうかなんと無く怪しい感じがした。
釣った魚をバケツに入れて、帰りがけに川や沼や湖に投げ込んで帰るらしい。
あれは?雑誌の取材で霞ヶ浦に行った時だったか、漁師の人が嘆いていた。
ワカサギも、フナも、多くの日本古来の魚が消えてしまう!
私達も漁師を辞めなきゃ行けない時になった。
全く魚が捕れなく成った。寂しそうな目をして夕日を眺めていた。
黒く日焼けした顔に深い皺がコントラストを強くした。
ブラックバスを放流する釣り人が後を断たないと悲しそうな目をした。
3.女
数日後、お隣の奥様から電話があった。
建築デザイナーのご主人が出掛けているので、お茶に来ませんか?
美味しいロールケーキと紅茶をご馳走になった。
「実は・・・・・」と
相談を受けた。
パーティーの時、酔った勢いでそれぞれの夫婦で携帯メールのアドレスを交換したのだ。
それ以来、バスプロの旦那からお誘いのメールが来るらしい。
あのイタリア男!、全く男はどうしようもない!
彼女は言う、私、あの手の人はどうも嫌い、お宅の旦那の方がずっとタイプだと!
なんとかしたいけど、家の旦那は焼き餅焼きで、こんな事を相談したら怒鳴り込んで喧嘩になる!
どうしたら良いか?彼女は真剣に悩んでいた。
私は、そのバス男と先ほど車庫で車を洗車しているときに話をした。軽率だが、馴れ馴れしく話しかけられたら仕方が無い。
明日、早朝から釣りに行くので数日間留守にすると言っていた。全く思慮深くはないがそれも仕方ない。
この、反社会的で迷惑な男が急に憎たらしく思えた。ここは正義感を振りかざして、断罪に!。
エイ、一思いに少しばかり懲らしめてやろう。
「まー気にしないで、適当にあしらって、元気出して!また相談して!」
その夜。私はキッチンで丁寧にオブラートを二重にして角砂糖を包んだ。
個数は30個。手袋をはめて、お隣の暗いガレージに行く。
隣家のバカでかい4WDのガソリンタンクを開けて角砂糖を投げ込んだ。
しばらくは、ベッドに入っても眠れなかった。
早朝、エンジン音を耳にしてからやっと眠りに付いた。
少し懲らしめてやろう。そんなつもりだった。
4.あれれ?
渓流は谷間の日陰なので、夕方は早い!
帰りを意識して、早めに下り始めてはいたが、すぐに暗く成ってしまった。
ヘッドライトをキャップに付けて歩いていた。
今日の成果は上々だった。あのヤマメとのやり取りはスリリングだった!
あのイワナの引きは凄かった。駆け引きも良かった。
あっと!思った時には水の中に右半身を、右手はどこかの岩にヒットした。
手袋が切れて血が滲んでいた。大した事は無い!
ゆっくりと足を進めた。もう少しだ!
自分自身を鼓舞する為に、そう思ったが、もう少しかどうかは???
暫くすると手がジンジンした。
濡れた体は急速に冷えた。
車に戻って早く着替えて、エンジン掛けて暖房すれば・・・・
帰りがけに温泉に寄って、帰ろう。
見覚えの有る場所に出た。目印も!
車で降りきった場所には、必ず目印を置いている。
さてと、ここからは頑張ってキツい登りだ!
やっと車に着いた!
エンジンキーを差し込んでセルが回る!
寒いので車内で着替えを始めた。
すると、エンジンが止まる。
?ガソリンはまだ有る。
セルを回すが、音が重い。
あれれ!今度はセルが唸ってもエンジンが掛からない。
携帯を取り出すが・・・・?うん?圏外。
寒さの中で震えならがら、彼が思い出した映画は「イン トウ ザ ワイルド」
数日後、凍死した遺体が隣人のご主人だと判った。
渓流釣りで怪我をしていたらしい。
沢で転んで濡れたらしい。
なんとか車に戻ったが、車のエンジンがどうも掛からなかったそうだ。
しばらくしたある日、隣家の奥様から、久しぶりにお茶のお誘いが有った。
今日はショートケーキと珈琲だった。
私自身も、罪の意識の中で、自分の軽はずみな考えが、まさかの事態に。
それを、心の中に仕舞い込むのに必死だった。
だってバスフィッシングだって!山奥に行くなんて知らなかったし!
「実は、携帯のお誘いメールが未だ来るの」
???
彼女も浮かない顔だ!
「どうもお宅のご主人からみたい」
「ごめんなさい!」
「メールの名前に名字が無くて、名前だけだったから、間違えてたみたい」