最高の1日を考えるic

【令和ver】朝起きて、夜寝るまでの「最高の1日」を考える

朝。まだ薄っすらと辺りが暗い時間に目が覚めた。服をすり抜けて肌に触れる空気はひんやりと肌寒いけれど、不快ではない。部屋の時計に目をやると、6時を指している。今日は思ったよりもよく眠ってしまったな。ふわ、と大きなあくびを1つしてから、布団が少し重い事に気づき視線を落とした。茶トラとサビ色猫たちが私と同じく大きなあくびをすると、迷惑そうな目をちらりと向け、もう一度丸くなった。その様子を見届けてから、湿気を含んだ木の床に足を下ろす。隣ですーすーと寝息を立てている彼を起こしてしまわぬよう注意して、窓を細く開けてみると、ホワッホワッと鳥の声と新緑の匂いがふわり舞い込んできた。
もう、夏がそこまで近づいてきている。

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以前はこうして早起きをすると、一目散にPCを開き、Twitterだのinstagramだの、いじくり回していた。今ももちろんインターネットは大好きだ。だけれど私が朝起きて手を伸ばすのは、昨日仕込んだばかりのお茶だったりとか、ブレンドしたハーブの様子だったりとか、そういうものに変わった。こうして「お茶」が私の生活のど真ん中にやってきて、「書く」を追い越し、大好きだった「写真」と肩を並べるようになったのは、ここ2年くらいの話だ。「実は今、仕事としてはライター業をやっていない」と言ったら、過去の私はびっくりするだろうか。だってあんなに毎日飽きもせず、必死に書いていたのだから。

猫たちに餌をやり、キッチンであたたかなお茶を入れる。朝ごはんを作るのは彼の仕事だから、軽いストレッチをして、少しだけ散歩に出かけることにした。
元気に伸びる草たちを足の裏で受け止めると、サクサク小気味好い音がする。そんな事、都会で住んでいる頃は知らなかった。こうして歩いていると、頭がクリアになっていくから、朝の散歩は大切な、自分と向き合うための時間だ。山の奥に家を持ちたい、と言い出した時は本当に大丈夫か、と思ったけれど、ここに越してきて正解だ。だってもしあの頃迷っていた自分に今会えるのであれば「グズグズしてないで早く行きなさい!」と、ぐいぐい肩を押してしまうだろう。


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8時前になり家へ戻ると、彼がのそりとベッドから起き上がってきていた。ごめんね、少し寝坊しちゃった、と慌てて朝ごはんの用意をしている。その後ろ姿に今日はお店開ける?と尋ねると、うーん、写真撮りに行きたいんだよねえ、とキッチンから返答がある。ああそんな事昨日言っていたな、と思い直し、そしたら今日はおやすみにしてしまうね、と続けて声をかけた。

お店を開けないのなら、少し余裕がある。今日は新しい取引先とマネージャーへの連絡と。軽く掃除をして洗濯をするだけなら、午後は研究に時間を当てられるわけだ。そんな事を考えていると「あ、掃除は後でしとくから洗濯だけお願いしてもいい?」とキッチンから声がした。年下なのにだとか、男性なのにだとか、そういうものを引き合いに出すのはあまり好きではないけれど「年下なのに出来た彼だなあ」と頭の中で改めて関心する。本当にこの人は、”支えてもらう”ではなく”一緒に生活をする”をしてくれる人なのだ。


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朝ごはんを一緒に食べ、じゃあ行ってきます、と出かけるのを見送り洗濯を済まし、机の上のPCをぱくっと開けた。確か記憶が正しければ、チャイをいくつか今週中に送る指示と、ブレンドした茶葉を卸す指示をしなければいけなかったはずだ。それこそ2年前に始めたinstagramマガジン「3cm」、チャイブランド「茶癒堂」、オンラインコミュニティ「.colony」は、今や”ときめき”をキーワードに互いが繋がりあい、様々な方面へゆるやかに伸びてゆく事業になった。まだまだ課題も多いけれど、それでも、こうして形にくるんでいけること、そして何より沢山の人と一緒に作って行ける事が、楽しくて仕方がない。
立ち回り方が上手になったわけでは決してない。単純に、私は私を信じてあげられる心の余裕が生まれたのだと思う。

うーんと少し考えた後に「夜少し話せる?」とマネージャーのいけぽんに素早くメッセージを送る。「明日の午前なら」と即座に返答があった。当時、私のライター案件を整理してくれていた会社員だった彼も、今やうちの商品周りの管理や写真の撮影、卸先の手配まで、ありとあらゆる事を手伝ってくれている、敏腕マネージャーだ。あの時は、こんな風に一緒に仕事ができるとは思っていなかったなあと、毎度しみじみ思う。兼ねてから夢だった「地球に還る事業をする」が形になり始めているのも、彼のおかげだ。


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その後何通か英語や日本語で続けざまにメッセージを送り、PCを閉じる。時計はすでに12時を回っていて、うん、と体を伸ばした。軽くお昼を食べて、洗濯物を取り込んだら、午後は研究室にこもる、サービスタイムがやってくる。
新作のブレンドももちろんだけれど、商品の外側についても考え直したい。もっともっと、自然に還るような方法で、手にとった人の心にも還る商品開発をしたい。

テーブルの上に、数種類のハーブと器、茶葉を並べる。外に目をやると、猫たちがじゃれあい走り回っているのが見えて、顔が綻んだ。

この、家の隣にある「研究所」と私が呼んでいる小さなお店は、ちょうど1年前に彼と作ったもので、お茶を売っていたり、時には珈琲を出したり。気が向いたときには焼き菓子を出したりと、なんだかデタラメでヘンテコで、でも居心地の良い巣のような場所になっている。基本金・土・日しかOPENしないのだけれど、気が向いたら他の日も開けたりもする。8時からあいている日もあれば、あいていない日もある。お客さんは「そんな気まぐれ勘弁してくださいよ」と笑うけれど、クレームを受けた事がないのは自慢だ。日本人はきっと先回りの親切が多すぎる。もっとテキトーで、もっと肩の力を抜いたって良いのだ。

「まだやってる?」
夕方近くになって、彼がのそりと戻ってきた。
「美味しいお菓子買ってきたから、湖の近くにテーブルと椅子出して食べようよ」とイタズラに笑う。その顔を見て、さては新しく手に入れたキャンプ用具を試したいのだな、と大体の察しがついた。


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「今日はこんな写真を撮った」
「こんなお茶のブレンドを作ってみた」
と、お互いで報告をしあう。手にはお菓子とお茶を。案の定、新しく手に入れたばかりのキャンプ椅子に腰掛けながら。
そういえばこの彼も、たった3年前は会社員だった。
「お茶屋さんをやりたい」「自然の中に住みたい」と言い出した私に「じゃあ、住もっか?」と朗らかについてきてくれたこの人も、柔軟というかなんというか、私に負けず相当変わっている。こういう、無駄なプライドや見栄だとか。そういう類のものを前世に綺麗さっぱり置いてきている人が、最強の人間なんだよな、としみじみ思う。

ねえ、今日は夕飯一緒に作ろうよ、と誘ってくれたので、研究を切り上げ彼と夕飯を作ることにした。猫に餌をあげて、少しだけ本を読んで。「明日は金曜日だから、お店を開ける日だよね」と、お互いで確認しあい、素早く「明日はあけています」とinstagramやtwitterにOPEN報告をトントン打ち込む。
「明日は珈琲とお茶、どっち出す?」と聞くと「んー、珈琲にする?」と返ってきた。ということは私の明日の役割は、片付け専門だ。

目覚ましを5時30分にかけ、電気を落とす。もぞもぞ布団に潜り込むと、するりと顔の横に何かが当たる。茶トラとサビ色猫たちだ。
ふわふわした毛感触に瞼がだんだんと重くなる。「おやすみ」と猫と彼をぎゅっと抱きしめて、私は静かな眠りへと落ちていった。

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半年前にやったやつ ▼


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古性のち | Noci Kosho
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