データで見る戯曲「ナイゲン」
アガリスクエンターテイメント冨坂友の戯曲「ナイゲン」は同劇団で何度も再演された非常に評価の高い作品である。2016年からは毎年feblaboがシアターミラクルで上演を行っており、今年は浅草でILLUMINUS版が上演されたほか高校や大学の学祭など各地で上演が行われている近年の会議劇コメディを代表する1作だと言える。
会話劇として台詞量も多く完成度の高いこの作品について台本を分析し、データという観点から見てみたいと思う。
なお、下図は商業演劇で行われたナイゲンの座組一覧となっている
※あらすじ(公式HP[http://www.agarisk.com]より)
“自主自律”を旨とし、かつては生徒による自治を誇っていたが、今やそん
な伝統も失われつつある普通の県立高校、国府台高校。
ある夏の日、唯一残った伝統にして、やたら長いだけの文化祭の為の会議
“ナイゲン”は、惰性のままにその日程を終わろうとしていた。
しかし、終了間際に一つの報せが飛び込む。
「今年は、1クラスだけ、文化祭での発表が出来なくなります」
それを機に会議は性格を変え始める。
――どこのクラスを落とすのか。
かくして、会議に不慣れな高校生達の泥仕合がはじまった…!
◆基本情報
・ナイゲンの台本は大きく分けて3種類有り
●ベースとなる「ナイゲン2012年版」「ナイゲン2013年版」
●プロローグや細かいネタが追加された「ナイゲン全国版」「ナイゲン2016」「ナイゲン2017」
●プロローグの一部カットや台詞の微修正があった「ナイゲン浅草版」「ナイゲン2018」
今回分析に使用する台本は「ナイゲン浅草版」とする
・ナイゲンの上演時間は1幕1場でおよそ120分
・ナイゲンの登場人物は13人
・ナイゲンはプロローグ・エピローグを除いて登場人物全員がほぼ舞台上からハケることが無い構成となっている
◆各種データ
●台本全体について
台詞とト書きの文字数:58,138文字
台詞のみの文字数:53,483文字 ※参考)紅白旗合戦:47,058文字
台詞数(登場人物の総発言回数):2,806回 ※参考)紅白旗合戦:2,503回
一人あたり平均発言回数:216回 ※参考)紅白旗合戦:193回
参考に同劇団の同じくらいの上映時間の作品である「紅白旗合戦」のデータも記しておいたが、台詞の数はだいぶ多くなっている
これはこの作品が基本的に場面の転換が無く、会話のかけあいで進んでいくことによるものであり、さらに会話のテンポも速いため2時間という時間も相まってこのような台詞量となっている
●登場人物ごとのデータ
下の表は各登場人物それぞれの発言回数と台詞の文字数をまとめたものになる。(上位3名は赤文字。下位3名は青文字)
・「議長」は会議を進行する役割のため発言回数、文字数ともトップとなっている
・次に多い「海の~」はほとんどの場面に絡んでおり、発言回数、文字数ともに多くなっている。3位の「アイス~」の2倍近い発言回数となっている
・台詞数だけで見るとナイゲンという作品は、「議長」が主人公で「海の~」が劇中のエース(ポイントゲッター)だと言える
・一方で「3148」は発言回数、文字数とも一番少なく、発言回数は「議長」の5分の1、文字数は9分の1程度となっている
→劇を観ている印象ではそこまで存在感が無いわけじゃないので、ここまでの差がついていることは正直驚きだった
参考)紅白旗合戦だと一番発言数の多い「熊谷」は
発言回数:277回 台詞文字数:5218文字 1回あたり台詞量:18.8文字
なお1回あたりの台詞量順で表を並び替えると
・1回あたりの台詞量では「アイス~」が一番多かった。上位には「おばか屋敷」「どさまわり」と理屈をこね回すキャラが連なっており、「3148」の2倍の量となっていた。
●各登場人物同士の発言関係性
下記の表は各登場人物が誰に向けて発言したかをまとめたもの
(上が回数。下がそれを割合で示したもの)
※ト書きや台詞中に相手の名前が書いていない場合は前後の会話の流れなどで判断。「自分」は誰に言うでもない感想やつぶやき。「全員」は不特定多数に向けて発言した台詞
※台本に無い部分での台詞はカウントせず(それぞれのリアクションなど)
●それぞれ話しかけた回数が多いのは
議長→どさまわり
監査、文化副、おばか屋敷、海の~、ハワイ庵、花鳥風月、道祖神、どさわまり→議長
書記→海の~
Iは~→文化副
3148→アイス~
アイス~→海の~
●話しかけた回数が0回なのは
監査→書記
文化副、書記→どさまわり
3148→監査、海の~、ハワイ庵、花鳥風月、道祖神
アイス~→書記、花鳥風月
花鳥風月→書記
どさまわり→文化副、書記
話しかけた人数が一番少ないのは3148
話しかけられた人数が一番少ないのは書記
→書記に関しては台詞の半分が海の~に向けてのもので
さらに黒板に票を書いたり、途中会議の輪から外れるなどするため
台詞として絡む人が少なくなる結果になったと考えられる
会話の中継地点である議長は話しかけられる回数が多く
道祖神が一番話しかけられた回数が少なかった
また、どさまわりと文化副・書記についてはお互いに全く会話がなかった
●人気指数
話しかけられた回数÷話しかけた回数 で計算した値
数値が高いほうが自分から話すより人に話しかけられる割合が多い人気者
・議長はやっぱり人気者
・3148も人気が高い
・道祖神とどさまわりはあまり話しかけられない不人気…
●各登場人物の一番長い台詞について
それぞれの登場人物の一番長い台詞は下記の表の通り
・一番の長台詞は「アイス~」が11人のエコに新しい価値を生み出す場面で355文字だった。
(この場面、アイス~は実に45秒間一人で台詞を言い続けている)
参考)紅白旗合戦の一番の長台詞は「熊谷」の180文字
●よく出てくるワード
作中によく出てくるワードは以下の通り
・固有名詞である黄色の部分の単語だけでみると、「クラス」が一番多く使われていた。団体名を省くと「文化祭」「クラス」「内容」となり、会議の説明そのものになる
~~~以下完全な内容のネタバレなので注意!~~~
●採決に関するデータ
劇中では議題に対して採決をたびたび行う(採決または票が動く機会は劇中で全19回ある)
採決内容は「どのクラスが節電エコアクションをやるべきか」と「代表者から提案された議題に対する採決」にわけられる。それぞれの内訳は以下の通り
↑「どのクラスが節電エコアクションをやるべきか」の投票推移表
※色がついているのは前回の投票から投票先を変えた時
赤字はその時点での多数派に投票を行ったことを示す
なお、どさまわりはこの議題に対しては投票先を一貫して変えないので
各種分析からは除外する
↑「代表者から提案された議題に対する採決」の投票結果
投票推移や結果から「多数派」に投票した回数などをまとめたのが上の表となる
○多数派に投票してばっかいる「長いものには巻かれろNo.1」は「道祖神」
○逆に少数派にばっか投票している「逆張り野郎No.1」は「おばか屋敷」
○投票相手をコロコロ変える「尻軽No.1」も「道祖神」
○賛成にばっか投票している「イエスマンNo.1」は「花鳥風月」
○反対にばっか投票している「ノーと言えるNo.1」は「Iは~」「アイス~」「どさまわり」の3人が同回数で1位
採決にかんしては「道祖神」が非常にアクティブに行動していることがわかる。また、花鳥風月は提案された議題に対してほぼ賛成しており、どさまわりのカウンターとしての役割を担っているとも言えるかと思う
~随時データは追加予定~
◆まとめ
データで示された数値というのは劇を観ていて感じた印象と大きな違いはなかった。しかし、それぞれの関係性などを可視化することができたと思う
ナイゲンの面白さの一つには各登場人物同士の関係性であったり、かけあいという部分があると思うが、「海の~と書記」の関係性がしっかりと数値で出ていたり、逆に誰と誰は実際劇中ではどれくらいの関係性を構築しているのかといった部分が逆引きできるデータになったかと思う
結論としては身も蓋もないのだけれども、こういったデータを見て楽しめるのも、ナイゲンという作品の面白さが有ってこそだということは分析しながら更に身にしみてわかった