見出し画像

音読 『感受体のおどり』 第9番

 第9番を音読します。

 名を呼ぶと,とても遠くにいるようなと青折あおーれがおかしがった. (以下は略)

『感受体のおどり』015ページ

第9番: 物書き(私・青折)

 初登場の青折あおーれと「私」との関係は、すでに終わりの予感があります。ここで「私」が呼びかけている青折あおーれは、目の前にいるその人ではなく、「あのころ」のその人だからです。
 
 ある程度長い時間を共に生きた相手がいる方なら、こうやって「あのころ」の相手に遠く小さく呼びかけたくなった時期や、その時の腹の底にかすかに響く哀しみの残響は、身に覚えがあるかもしれません。
 ・・と書くと同時に、自分自身も相手からそう思われていた可能性を思わずにはいられませんが。 


肉へのかかずらいがこれほどのものであり,こちらまでがたえまなくまきこまれようとはおもいおよばないことであった.

本文より

 「肉へのかかずらい」という字面から、最初は性的な関係性のことかと思ってしまいましたが、そうではなくて、人並みな社会生活を送るに必要な身の回りのこと、衣食住全般についての行動についてを指すようです。

 衣食住へのこだわりは一人ひとり違っていますから、一緒に暮らす相手とこだわりの加減が違うのは当然として、その価値観を一つに決めつけられて同じにするように仕向けられたなら、違和感は日々積もってゆくものでしょう。
 ましてやこの主人公のように、物書きとして共に同じ高みを目指していると思っていた相手に、それを強いられたのなら・・。

 齋藤なずなさんの漫画『恋愛烈伝』の中で、高村光太郎と智恵子のことを描いた「二つの空」や、林芙美子と男たちのことを描いた「赤いスリッパ」などを思い出しました。現在は『千年の夢ー文人たちの愛と死』という本で、おなじ作品が読めるようです。

 難しい漢字は、
  睡り(ねむり) 贅(ぜい)



いいなと思ったら応援しよう!