映画感想『ドラえもん のび太の新魔界大冒険 7人の魔法使い』(2007年)

2023年12月16日 Amazon Prime  Videoにて鑑賞。

 リメイクものの中では一番改変の大きい作品。
 原作になかったキャラクターの投入、ゲストキャラ同士の家族愛や絆の強調という要素は本作以降のリメイク作品恒例といってもいい追加要素となっている。
 加えて本作では、追加されたゲストキャラに絡むツイストの効いた展開が新しく用意されて話がやや複雑になっており、それに伴って原作にあったいくつかの重要な場面が大胆に省略されている、リメイク作品としては特殊なアプローチになっていて、原作・旧映画版に思い入れのある人にとっては結構賛否の分かれるところだろう。

 本作の特徴は、情報量の多さだと思う。

 まず、のび太の部屋や、魔法世界になったときの街の様子、終盤の四次元ポケットの中など、絵的な情報量がびっしりで一時停止しないとわからないような小ネタで埋め尽くされた場面が散見される。(部屋に「メロン牧場」なる本があるけど電グルファンなのかのび太!?)作風として翌年の『パコと魔法の絵本』(序盤しか観てないけど)、翌々年の『サマーウォーズ』あたりを思い出して、画面の情報過多+バーチャル感強めなファミリー映画という潮流があったのかな?と思ったりした。

 ストーリーとしても情報量が多い。原作・旧作と比べて大量の要素が変更されているけれど、魔界星の接近が満月家に起因するものだったり、ドラミが駆けつけてくるプロセスがしっかりしていたりと、それぞれの出来事が一つの物語として繋がりを持つようになっていたのが印象深かった。
 これによって、原作のいわゆるツッコミどころは少なくなり、ミステリ的な面白さは増していると思う。ただ一方で、すべての要素が物語の本筋に寄与していることの窮屈さがあるというか、おおらかなダイナミズムが喪失している面もあると思う。これは自分の趣味もあるだろうけど。

 人物の情緒を表す芝居というか動かし方も、足し算で作られてるなと思った。全身で悲しみや怒りを表現したり、冒険に出る前に一人ずつ決意を言葉にしたり、ちょっとくどく感じた。余白を与えず全てが画面上の情報として描かれるという意味では、これも情報量の多さといえるんじゃないか。
 小学生の頃に見たときは、美夜子さんを追いて逃げなくちゃいけないシーンが悲しくてグッときた。これも今観ると情緒演出過多にみえるけど、シチュエーションがけっこう悲惨なのでまあいいかなと思える。

 そんな中、このリメイクで実は一番重大な改変は、メジューサの件ではなく、現実世界(科学文明世界)の満月父子が描かれていることだと思う。
 原作漫画および旧作映画では、満月家は魔法世界にしか存在しない人物かのように描かれている。特に映画版ではそういう解釈がより明確に表されていた。
 一方今回のリメイク版では、冒頭とエンディングに満月“博士”親子が登場し、本編の満月“牧師”親子に対応する形で、科学者として現実世界で困難に対峙していたことが示唆された。
 “博士”サイドが、のび太とドラえもんが残してきた現実世界で巨大隕石に対応するにあたって、どんな物語があったのかは全く描かれていない。(「残してきた」と書いたが、そもそものび太達は現実世界でも“居た”ことになっているのか?ここら辺考え出すとよくわからなくなる。)しかし、本編でののび太達との活躍に対応して、彼らはこちらでも何らかの活躍をしたことになっていたように描かれている。理屈っぽく情報量に埋め尽くされた本作の、一方でこれは巨大な余白である。
 深く考えると納得しかねるように思えなくもないけど、僕は今回この“博士”サイドのわずかな描写に一番グッときてしまった。ギチギチに因果関係で構築された本筋の外で、自分たちが見てきた物語と曖昧につながる全く別の物語の一端を見られたことで、この作品世界が実はおおらかな豊かさを含んでいたことに気付かされて不意を突かれたような感動を覚えたのだと思う。そしてそれはラストカットのエモーションとも通じるものなので、作り手の意図したところだろう。
 同じ真保裕一脚本でリメイク作品である次々作『新・宇宙開拓史』でも、本筋の裏でパラレルに進行していた物語があったと明かされる構造があるので、もしかしたら真保氏の作家性なのかもしれない。今度『新宇宙』を観るときは本作との共通性も注意して見ようと思った。

その他のよかった点は以下箇条書きに。
・魔法の世界になったことに気付いた朝の場面で、ドラが気付く前に窓からの影で観客にわかる演出が良い。
・相武紗季の演技は結構良かったと思う。プロ声優的な演技じゃないぶん旧作と比べて健気に気を張っているようなニュアンスが出ていて、より感情移入できるキャラクターになっていた。
・全くの偶然だろうけど(もしくは共通の元ネタがある?)、モリコーネの『ヘイトフル・エイト』序曲によく似てる曲が雪山の場面で流れるのでかっこいい。

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