映画感想『バビロン』

2023年3月3日鑑賞
※内容のネタバレを含みます


 マーゴット・ロビーがすごく良かった!パーティで怒りをぶちまけるシーンは自分のことのようにに泣いてしまった。ハーレイ・クインとシャロン・テート(ワンハリ)を足したような魅力のキャラだった。
 そして大抜擢のディエゴ・ カルバも、共演の2大スターに全然負けない牽引力で、すごい俳優が出てきたもんだとビックリした。

 マーゴットとブラッド・ピットの主演で昔の映画業界モノなのでどうしてもタランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・インハリウッド』は連想する。『ワンハリ』やスコセッシの『ヒューゴの不思議な発明』と同じように、観たあとでその元ネタとなっている映画史の事実を知るのもセットで楽しい作品だった。そう考えてみると同様のアカデミックな要素がありながらあそこまで変な映画(賛辞)になった『NOPE』のヤバさが際立つ。本作はあれに比べたら全然ヤバくない。

 監督の前作『ラ・ラ・ランド』の反動か、本作はすごく悲劇的な話だった。前半は楽しいように見えるけど、それでも結構人が死ぬ。映画の撮影中に亡くなり、その死を劇中では特に誰からも悲しまれない人達のことだ。
 映画撮影中の事故死やその対応の不誠実というのは現実でも悲しいことに度々聞く話で、自分の好きな作品や監督にもそれがあるのは複雑な気分になる。僕が映画を楽しむ上でノイズになる要素の中でも最悪のものだ。なので本作でブラックユーモア的にそういう描写があると、ある程度面白がりつつとても居心地が悪い気分になった。でもその居心地の悪さを感じるのはたぶん正解で、主人公たちの栄光の裏にはないがしろにされた人々の屍があるということを意識させられ、主人公たちにストレートに肩入れして観ようとするとどうしてもそれがノイズになる。
 この映画は“ノイズ”についての物語だと思った。世界は本来残酷な音、汚い音、猥雑な音に溢れている。それは楽しく生きようとする上では不快なノイズでしかなく、覆い隠されていた方がよかったのかもしれない。しかしそんな不快な音こそが、真に耳を傾けるべき誰かの悲鳴であったり、丁重に弔われるべき死の断末魔であったり、名もなき誰かが奏でた魂の音楽だったりする。結局どこまでも楽しく明るい世界などなく、 “ノイズ”は復讐のようにそれが邪魔な人々につきまとうのだ…という世界観を感じた。
 だから主人公たちの悲劇的な結末はある意味当然で、特にマーゴット・ロビー演じるネリーの成功はそもそもある哀れな女性の死を踏み台にしたものであるため、最初から呪われているのも仕方がない。

 でも、その世界観には共感しつつ…あまりに悲観的すぎる話じゃないか?とも思うのだ。この映画に出てくる誰も、心から幸せな瞬間がないままに死んでいくように見えた。映画という巨大なモノに引き寄せられ、ある者は誰からも顧みられずに死に、ひとたび成功を掴んだ者も一時的な快楽と狂騒にもみくちゃにされ、結局死んだり去っていったり、それって何も幸せじゃないじゃないか。100年後の誰かに見つけてもらうことがそれと釣り合いが取れるほど美しいものだとは僕は思えなくて、じゃあ結局映画ってそんな良いモンじゃないじゃんって思った。でも人生ってそういうものかもね。それを理解させられて「ああ、兵どもが夢の跡…」的な感慨に浸れる、ある意味クールで大人な映画だ。
 でも僕は、自分らしさを損なわず槍で運命を切り拓いていったハーレイクインのような、人生の折返し地点で折れかかった心に再び火が灯ったリック・ダルトンのような魂を、この映画の中にも見たかった。ブラピとかシブくてかっこいいけどなんかずっとションボリしたまんまだし、もっと元気なところ見せてよ!

 グチャグチャすぎる感想文になっちゃったけど、この映画自体がグチャグチャしてるから問題なし!これから『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』のハーレイ脱出シークエンスを観て、元気を出そうと思います。

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