映画感想『ドラえもん のび太の恐竜2006』(2006年)
2023年4月23日 Amazon Prime Videoにて鑑賞。
小学1年生のとき生まれて初めて劇場で観た映画作品であり、思い入れが強すぎる。
改めて観ると、絵柄があまりにも普段と違うので驚く。アニメ表現としては間違いなく面白いんだけど、普段見慣れているキャラクターが極端に崩したタッチで描かれるのは困惑する。非現実的でぶっ飛んだ表現も多くて、砂浜に埋まった5人が這い出る場面の描写なんか常軌を逸している。シリーズ作品の一つとして見るよりは『STAND BY MEドラえもん』シリーズみたいな位置づけの単体の実験的な作品として観た方がしっくりくる気がする。
全体的に原作のセリフを極度に削ぎ落としていて、特に説明的なセリフはほぼ全部絵的な表現に置き換えられている。
序盤で特に目を引くのは、のび太が見つけた化石を恐竜の卵だと気づくに至る描写の周到さ。
ゴミバケツの中から落ちた卵の殻を見て「これも埋めると化石になるのかな」と連想するという自然な流れは原作からのブラッシュアップとして秀逸で唸らされるし、さらにその前にはのび太の机の上に恐竜と卵のおもちゃが落ちる描写があって絵的な伏線も張っている(この場面はドラえもんが転ぶカットからの繋ぎで強調されてもいる)。本当に上手い。
崖の下のおじさんも味わい深いキャラクターになってた。麦茶持ってきてくれたのに気の毒だったな…。
あたたかい目のギャグはその後のシリーズでもイースターエッグ的に使われるけど、本作でのこれに関してはただの変顔ではなくて、ちゃんとフリとダメ押しといった文脈のある、それなりに完成度の高いギャグだなと思う。ついでに原作の独白ゼリフの省略の役割になってたり、さらに、あるタイミングであたたかい目から自然な笑みになることでドラえもんののび太への眼差しが教育から共感に変わるという心情描写にもなってる。
恐竜、未来のロボット、現代の少年という3者が同じポーズでボール遊びに興じる絵面がそこはかとなく良い。この並びが1回目の別れのときに反復されるのもグッとくる。
冒険が始まって以降も、海中で遊ぶシーンやオルニトミムスなど最高に幸せな場面がたくさんある。欲を言えば原作の「万能加工ミニ工場」が好きなので食料描写はそのままにしてほしかった。
ケツァルコアトルに追われるシーンの切迫感は、原作の勝手にゴア妄想して気絶するスネ夫はカットされているにしろ(当たり前だろ)、その後撃墜されてしまうのも含めてしっかり怖い。
06年版特有の良さは中盤からクライマックスにかけてもたくさん見られる。
まず80年版になかったスネ夫との対立シーンは、スネ夫が納得する描写が原作よりさらに説得力あるものになっている。
ラストの四次元ポケットからの放水シーンが気持ち良すぎる。本作独自のダイナミックなアニメ表現の喜びがここに極まる。
5人乗せられなかったピー助が成長してるのも伏線がよく効いてて感動する。
そして何より驚いたのは、タイムパトロールがのび太達に敬礼して置いてっちゃう改変。子供を信頼し、子供の夢に誠実な作り手の思いがうかがえて最高だと思った。
のび太役がデビュー作である大原めぐみ初の長編ということも忘れてはいけない。特にクライマックスの熱演は圧倒される。“のび太”の才能を持って生まれた役者だと思った。彼女はこの前にTVシリーズの「どくさいスイッチ」の長い独白ゼリフで鍛えられたらしい。
そしてエンディングの切れ味と、本当の終幕を原作漫画のコマそのもので見せる大胆さ。最後まで特殊で異常な作品だったが、とても興味深くて面白いリメイクだった。