身近な存在の背中が教えてくれること[Footwork & Network vol.25]
私が大学2年生の時からキャストの一員として活動している『IKEBUKURO LIVING LOOP』。携わり始めてから約2年、様々な人と出会った。その中の1人に、私にとって頼れるお姉さん的存在の人がいる。昨年の11月に開催されたスペシャルマーケットの際に、私が初めてエリアリーダーを任された時も、不安な気持ちや困ったことを相談し、助けてくれる存在だった。今回はその方、Kさんについて紹介する。
Kさんは社会人4年目で26歳の代である。大学生の頃からIKEBUKURO LIVING LOOPのボランティアキャストとして活動していた。卒業後、大手企業に就職し社会人として働きながらも活動を続け、2年目からはIKEBUKURO LIVING LOOPの関連会社である『まめくらし』との兼業を始めた。現在はパラレルキャリアとしての生活を送っている。
私とKさんの出会いは、2021年10月に開催されたIKEBUKURO LIVING LOOPである。コロナ禍で久々の開催となったマーケットで、初めて参加するキャストが多く、経験者が少なかった。経験者は社会人の方が多く、初めて参加する私にとって、わからないことがあった時に声をかけやすかったのが、比較的年齢の近いKさんだった。明るくて、物腰が柔らかいというのが私の第一印象だった。深く関わるようになったのは、2022年の4月から私がコアメンバーとしてマーケット当日以外もIKEBUKURO LIVING LOOPに携わるようになってからである。コアメンバーは大学生が中心で、役割をそれぞれが担っていて、その役割全体を見てくれているうちの1人がKさんだ。1年以上準備段階からマーケット当日の運営に至るまで一緒に活動をしている。
Kさんは、大学生の頃からまちづくりやサードプレイスに興味があり、研究的な感覚でIKEBUKURO LIVING LOOPのボランティアキャストとしての活動を始めたそうだ。マーケットや自分の振る舞いを通じて、まちがリビングのようにくつろげる空間に変化していく過程に面白さを感じ、現在も活動を続けていると話していた。マーケット当日に、持ち前の明るさとコミュニケーション能力で、キャストだけでなく出店者さんやお客さんと仲良さそうに話しているKさんをよく見かける。何度も出店してくださっている出店者さんからは愛称で呼ばれていることも。まさに居心地のいい空間をKさん自身が作っている光景のように感じる。
さらに当日以外の振る舞いでもマーケットへの貢献を感じることが多々ある。その1つはオンラインで行われた出店者説明会でのことである。出店者説明会では、事前に準備したスライドに沿って説明を行い、当日の集合時間や注意事項などの確認をする。説明の担当がKさんだった時に、スライド全てを1人で説明するのではなく、要所要所で他のキャストに話を振りながら進めていた。1人ではなく複数人が話すことで同じ説明でも、単調なものにならず、雰囲気がよい方向になっていると感じた。また事前に打ち合わせをしていたわけでもない中で、「このスライドはこの人が詳しい」と判断して話を振っていることに同じキャストとして他の人との信頼関係があるのだと感じた。また説明の途中でスライドがうまく表示されないトラブルがあった。その際にKさんは「iPadでZoomをやるのにまだ慣れていなくて、こうやるといいよとかiPadのオススメの使い方とかあれば、マーケット当日教えてほしいです!」と話していた。トラブルがあった時もそれを1つのきっかけとして「関わりシロ」を作っているのが印象的だった。1度の出店者説明会の中だけでも、Kさんは出店者さんに対する場づくりの工夫をいくつも散りばめていた。キャストだけがマーケットを作るのではなく、出店者さんやお客さんと一緒により良くしていきたいという思いが感じられた。
またIKEBUKURO LIVING LOOPは「日常」というワードがよく出てくる。その根底にはマーケットを消費的なものではなく、持続して日常的なものにしていきたいという思いがある。それはKさんの行動にも感じる。やはりマーケットをやっていく上で運営メンバーは欠かせない。もちろん出店者さんやお客さんがあってマーケットは成り立つが、ボランティアキャストやコアメンバーが少なければ成り立たないことが増えてしまう。昨年度の振り返りの際でも、1回のみキャストに参加してくれる人は多いが、継続して参加してくれる人が少ないことが課題点にあがった。それを踏まえ、Kさんがコアメンバーに取材し、すぐにnoteでコアメンバーの仕事内容について紹介する記事を作成していた。また、既存のキャストのやりたいことについても聞いてくれ、これまでまちなかを散策するイベントを行なったりIKEBUKURO LIVING LOOPとしてnoteを始めたりし、最近では「キャストも出店してみたい!」という声を形にしようと検討している。新規のキャストと既存のキャストどちらへ向けた行動にも、持続的にマーケットを続けていくためという思いが一貫している。さらにそのためには、今の状況で満足せず新たな取り組みにも積極的に取り組む姿勢がある。これら全てが居心地の良い空間にするために行動するKさんの凄さだなと感じる。
これまでIKEBUKURO LIVING LOOPを通してのKさんについて綴ってきたが、冒頭にもあるようにIKEBUKURO LIVING LOOPの活動だけをしているわけではない。大手企業とIKEBUKURO LIVING LOOPの関連会社で兼業している。しかも、社会人2年目からである。なんでその道を選んだのか聞いてみると、「自分を通じて実験をしている」という面白い回答が返ってきた。大手企業で1年働くなかで、余白や余力を使って他の居場所で新たな挑戦や新たな繋がりなどができると、より生活が豊かになるのではないかと思うようになったという。そのもう1つの居場所がKさんにとっては兼業先の『まめくらし』であったため、パラレルキャリアを選択したと話していた。Kさんが以前から関心のあった「コミュニティの関わりシロ」と『まめくらし』で行なっていることが一致し、暮らしにおける様々な居場所のあり方を模索したいという思いが決断の決め手となったとのことだった。さらに『まめくらし』は大手企業のような組織を起点としたものではなく、自分の興味関心分野をそのまま活かした個人を起点としたものだったことも1つの要因となったそう。私自身この話を聞くまでは、自分がパラレルキャリアをやるとして置き換えたら、2年目からだと大変そうだから、やるとしてももっと後になってからやるべきだろうと考えていた。しかし実際に話を聞くと、誰から聞くのではなく、両者正反対の企業で同時に働くことを自身の体を通じて体験することに意味があり、それを楽しんでいるように感じた。だからこそ「実験」というワードが出たのだと思う。さらにKさんは自分の今の働き方が今後のキャリアの選択肢の1つになり、今後自身の体現する姿を通じて、兼業や地域活動に興味のある人への後押しができれば嬉しいと話していた。今の自分だけを見つめてキャリアを歩んでいるのではなく、将来の社会を意識してキャリアを考えているのだ。だからこそ、どんなに忙しくても自分ごととして仕事を両立し、マーケットも真剣に携わっているのだと感じた。
今回改めてIKEBUKURO LIVING LOOPの場は社会人や学生の立場関係なく、さらには自分の専門領域も異なる様々な人たちがコラボレーションして成り立っている場なのだと感じた。Kさんももちろんその中の1人である。マーケットに向き合う姿勢を間近で感じることができたり、まだ少数派であるパラレルキャリアを実践する人に直接話を聞けることは貴重だと感じた。経済合理性だけで良し悪しを判断しない働き方のロールモデルが身近にいることで、様々なキャリアについて自分ごととして真剣に考えるきっかけとなる。これからもIKEBUKURO LIVING LOOPをはじめ、越境先で出会う人との繋がりを大切にしていきたい。
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