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1冊の本で5年間楽しむ

作家さんは天才だと思う。
作家さんは自分の思い描く世界観を言葉に表し、文章として残す力がある。ただ面白い設定を思いつくだけでなく、そのストーリーをより具体的に、矛盾のないように仕上げていく。自分の頭の中を自分の語彙力を存分に使って表現する。さらに正当な文章として落とし込む。凡人ではどこかが欠如してしまい、ベストセラーなど書けないだろう。
作家さんというのも本を書く人だけではなく、放送作家なども含まれる。思い描くストーリーを台本に落とし込み、より魅力的な放送の基盤を作り上げている。私はあまり詳しいことは知らないが。(笑)
少なくとも、自分がnoteに文章を書いてみて、作家さんの天才さ、非凡さを痛感させられている。

今回書こうと思ったのは作家さんがすごいといったわかりきっていることを言いたいからではない。

今回は住野よるさんの作品である「君の膵臓たべたい」をめぐる、自分の葛藤を書き残しておきたい。
以下少し、ネタバレが含まれるので、読みたくない人は読まないでください。誰かに読ませようと思って書いてないけど。

「君の膵臓をたべたい」は住野よるさんのいわゆるメジャーデビュー作品であり、住野よるさんのイメージを創り上げるものだった。

私がこの作品に出会ったのはたしか高校1年生のときだったと記憶している。先輩から勧められ、単行本を購入して見ることにした。「一気読みすると、とんでもない感情に襲われるよ。」とのアドバイスもあり、家でじっくり読むことにした。ページ数はたったの281ページで、文字数も多くない印象だったので、すぐ読めるだろうとなんとなく軽い気持ちで読み出した。

読み始め。
「膵臓をたべたい?題名すごいな。あー、僕の名前は出てこないんだ。ん?僕の名前を表すワードが変わっていくのか。これは同じ人でも時と場合によって役割が変わることを踏まえた作者の視野の広さだなあ。」

この人の文章は読む人を世界観に連れ込むのがすごく上手いなと感じた。

福岡?かなんかに旅行に行く話であったり、元カレとのゴタゴタだったり、青春物語は楽しい気持ちになるなあと思っていた。

中盤
「これ、どうやって終わらせるんだろう。大切な人を失うのがわかっていて、どう向き合うのかっていうのを伝えたいのかな。おお、短文繰り返したり似たような表現つなげているな。緊迫した場面である臨場感出したいのか。」

終盤に向けてどう進んでいくのか、なぜ幸せそうな二人に緊迫なムードを流す必要があるのか、わからなかった。

だって、死ぬ時は必ず前兆があるから。

この固定観念をいい意味で崩してくれた通り魔には感謝したい。

女の子本人も「僕」も読者の私も、まさかそのような死に方をするとは思っていなかった。

最後の共病文庫を「僕」が読む際には、グッとくるものがあった。これは初見ではみなが体験できると確信している。

読了感は素晴らしく、好きな本は?と聞かれたらすぐにこの本を答えるようになっていた。

映画化された際も劇場に足を運び、感動的な気分を同じストーリーで2回も味わった。

もちろん、いい作品に世間は気づき、本も売れ、映画も好評で、テレビで流れるほどであった。

ここまでは自分としても誇りであった。いい作品に早くから出会い、早くからオススメすることができていた。そう、狭い世界の中で。

これが世間という広い世界に出たとき、自分はみんながいいと言っている作品にただ共感しただけではないか、という感覚になる。さらにあくまでも青春物語であるため、自分の好きな作品で青春物語を挙げるのはどうかという気持ちになってきた。
文学作品が好きですといつになったら言えるかなとばかりずっと思っていた。ほとんど読んだことないのに。

そしていつからか、心のどこかでそんないい作品ではなかったなと思うようになってしまった。これは明らかに天邪鬼の発想でとてもダサいと思っている。でもどこかで、「世間に批判的な目、持ってますよ?」のスタンスがほしかったのかもしれない。

でも最近になって気付けたことがある。作品の価値はいつになっても変わらないのだ。一瞬でもいいなと思ったならば、自分にとってその作品はいいものなのだ。それが評価されていなくても。

この気持ちになってからはテレビで「君の膵臓をたべたい」が放送されても、じっくり見ている。

こんな長々と書いてきたが、自分の心情の変化など、どうでもいいなと感じてきた。

ただ、オススメの本が何であろうとも絶対に下に見てはいけないということは頭に残しておきたい。その人がいいと思っていることを否定するのは愚である。「わかってない」とかはもってのほかだ。

もし大学のキャンパスで男子大学生が携帯小説を読んでいても、何も思わないだろう。いいと思って読んでいるのだろうから。

「君の膵臓をたべたい」という作品をめぐって、21歳として成長できた気がした。この本は大切に本棚にしまっておこう。

※画像はイメージです。

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