乗り越えた先にある「再会」を信じて ~今、音訳ボランティアができること~
「緊張せんでええで」
もう10年も前のことだ。
音訳ボランティアグループの総会で、初めて視覚障がい者(リスナーさん)を介助した。自覚していなかったが、かなり緊張していたようだ。
もう70歳近い男性が、優しく声をかけてくれた。
介助するときには、自分が半歩前を行き、肩に手を置いてもらったり腕を組んでもらったりしながら歩く。
肩に置いた手から伝わる感覚から、私の緊張をいち早く察したYさん。
介助する私は初心者だが介助されるYさんはベテランさん、しかもこのグループの初めの頃からのメンバーだ。固くなっている新人を、和ませてくれる余裕があった。
細身で背が高く、関西人らしく話好きなYさんを懐かしく思い起している。
私が入っている音訳グループは、ある幼稚園の母の会のサークルだ。
当時幼稚園に通っていた子どもは、卒園してから幼稚園に行くことはない。が、母親の私は今でも幼稚園に顔を出している。実際私のように、現役幼稚園ママよりもOGママが中心になって活動している。
このグループのいいところは、リスナーさんに音訳のCDを届けるだけではないところだ。
年に2回、リスナーさんとの交流がある。
1回は「交流会」と称して、一緒に川沿いを歩き海まで散歩したり、動物園に行ったり、口笛奏者の方に特別に来ていただいてコンサートを聴いたこともある。落語を聞きに行ったのも貴重な体験だ。
そんな交流会とは別に、年1回総会を開き意見交換をしている。
録音するときPCの向こう側にいるリスナーさんと、顔を合わせる機会があるのはやはり嬉しい。
直接会って握手をすれば、自然とお互いに笑顔になれる。顔を合わせて話をすることで、リスナーさんを確かな存在に感じられる。
それはリスナーさんも同じことだろう。録音の声のイメージとお喋りしたときの印象は、少し違うらしい。
総会で皆さんが楽しみしているのは、お互いの近況報告。会の運営についてよりも、お互いがどんな風に過ごしているかの方が関心があるようだ。この近況報告が会の大部分を占める。みんな喋りだしたら止まらない。
そんな楽しいお喋りが、リスナさん同士やボランティアとリスナーさんの「絆」を一層深めている。
このグループは発足して50年近くになる。となれば当初20代だったリスナーさんも、今では結構いいお歳になられている。
「今年が最後だから」という思いで総会に来られる方が多い。
でも不思議なもので皆さんと話をするうちに、来年もまた来たいと思われるようだ。帰り際には「来年も、元気に会おう!」が合言葉になっている。
そんなリスナーさんと、今年はまだ会えないでいる。
秋に予定している総会も、いまの状況では開催できるか分からない。
リスナーさんは、外出しようにも介助ボランティアを頼みにくかったり、買い物も慌ただしく済ませたり。随分と窮屈な日々を過ごされているようだ。
「こんな時だからこそ、音訳ボランティアとして何かできることはないだろうか?」
先日ようやく集まったボランティアメンバー。
最初に取り組むのはここになりそうだ。
年配の方が多いので、パソコンが使えない。いま流行りのオンライン会議はハードルが高い。
ボイスレコーダーに近況を録音してもらう?それなら操作が簡単。
電話なら話が聞ける。
少しずつだが、前向きなアイデアが出てきている。
もちろん秋に直接会えたら、それにこしたことはないのだけれど…
今はいつかできる「再会」を楽しみに、今できることを考えている。
こんな時だからこそ「声」の繋がりを大切に、笑顔で再会できる日を一緒に待ちたい。