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フシギおしゃべりP-miちゃん(4)

帰り道の、工場の間から見える夕焼け空が好きだ。


アヤカが出ていって2週間経った。
俺の悲しみはまだ癒えないままだ。仕事に専念している間はアヤカのことを忘れられるが、家に帰るときは否応なしにアヤカを思い出してしまう。あのピンクに染まる夕陽と雲さえも今の俺の心を癒すことは出来ない。

それに……。
家にはアイツがいる。

あの生意気ロボットが。

どこかに寄って時間を潰せればいいけど、何せ俺はあまり趣味がない男なんだ。行くとしたらコンビニくらいだ。
足取りが重い。
色々思考を巡らせているうちに家に着いてしまった。
あの玄関の向こう、俺の部屋の隅っこにアイツがいる。

やはり近くのコンビニに行こうかと思って踵を返すと、ちょうど同じアパートの人が通りかかった。

俺は少し気まずかったが、頭を下げた。
向こうも頭を下げて小声で
「どうも…」
と言いながら、奥の廊下に引っ込んだ。
俺は観念して仕方なくポケットから鍵をとり、鍵穴に差し込んだ。

「ただいま…」
ああ、帰ってきてしまった。部屋はまだ片付け途中で、アヤカの物が散乱していた。アヤカの私物を見るだけで俺の心はへこむ。

「オカエリ」
抑揚のない声が部屋の角に置いてある棚から聞こえた。
「コンナコト イウノモ アレ ダケド…」
P-miは続けて話す。
「アヤカ ノ モノ ヲ ショブンシタ ホウガイイ。ツギ ニ イッタホウ ガ イイ」
こいつ…。ロボットのクセにペラペラと。俺の気も知らんで。
「分かってるって! うるせえな!」
「ダッタラ ハヤク ヤレ」
「ちっ」
俺はわざと大きな舌打ちをした。
「シタウチ ハ ヨクナイ。ヒンセイ ヲ オトス」
あの生意気ロボット、まだ話かけてくる。もう俺のことはほっとけよ!
「あ」
そうだ。何で俺は今まで思いつかなかったのだろうか。

コイツの電源をオフにすればいいじゃん。

そしてコイツはネットで誰かに売ればいいじゃん。ナイスだな俺。
さっそく俺はP-miの側に行って、P-miを手に取ろうとした。
「サワラナイデ。ヘンタイ」
誰が変態じゃ!
俺は構わずP-miを掴んで足の裏のスイッチを見た。
あーこれで精々するわ。

「ア。マダ データ ガ ノコッテイタ。アヤカ ノ データ ガ」
俺は躊躇した。
コイツ今なんて言った?
アヤカのデータがまだ残っているだと?

こ い つ ま だ…。
俺の心をエグる気なのかよ。

「キク?」
P-miは俺に問いかける。

なんでこんな時は俺にお伺いをたてるんだよ!
そんなの…。
「聞くに決まってるだろおおおお!」
はっきり言ってやった。
「アマリ オオキナ コエ ヲ ダスト マタ オトナリ ニ チュウイ サレマス」
「いいから早く!」
「ワカリマシタ。タダイマ アヤカ ノ オンセイ ヲ ナガシマス」



ザザッ。
「ユウマ…」
アヤカの声だ。
アヤカが俺の名を呼んでいる。
くそ、涙が出てきそうだ。次の言葉に期待が膨らんだ。

「牛乳買ってきてくれない?」
ザザッ。


おいウソだろ?
「イジョウ デス」
P-miは、いつもの無機質で感情の篭っていない声で、俺に無慈悲な終わりを告げた。

そう言えばアヤカは、一時期コイツを使って俺にメッセージを残していたーーということを思い出した。あまりに呆気ないメッセージに俺はまた力なく床に座り込んでしまった。
「ザンネン」
P-miはピンクのライトを点滅させて目を瞑った。
もう何もかもが嫌になった。
片付ける気力も食べる気力も失った。
「オチコンデ イルネ」
P-miが話かける。
一体全体誰のせいだよ。
「落ち込んでいるときは、とことん泣くといい。そして次に行け」
余計なお世話だよ。畜生。どうして所々流暢に喋るんだよ。コイツにはもう何も話したくないが最後の気力をふり絞って言った。

「P-mi…」
「ウン? ナニ?」
またいつものロボットらしい口調でP-miが話す。
「…そのメッセージも消しといてくれ」
「ショウチ シタ。ピーーーーー」
これで正真正銘アヤカのデータが、このくそロボットから完全に消えた。


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