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寂しいときは、血を採られにいこう。

今年の5月で30歳になる。未婚・パートナーなしで三十路を迎えることに焦りを感じさせる空気が世間には流れているが、別になんてことはない。結婚願望が無いわけではないが、かといって今すぐにしたいわけでもない。一応「一生を添い遂げる」ことを前提にする結婚。焦って相手を見つけても、どうにも仕方ない気がしている。

そんなわたしは、現在、広島県広島市の1DKマンションで一人暮らしをしている。この街に来る前は、東京都で約5年間、一人暮らしをしていた。

家賃が高く部屋が狭い東京の物件に比べ、広島ではお手頃な家賃で十分な広さもある良い物件があっという間に見つかった。小型のダイニングテーブルを置いてもまだまだゆとりのある8畳のキッチンも、大きな窓がある6畳のフローリングも、とても気に入っている。

マンションの近くには大きな川が流れていて、仕事が休みの日には川沿いのベンチに淹れたてのコーヒーやミルクティー、近所で買った暖かいパンを持っていき、読書しながらのんびりする。これぞ独身ならではの贅沢な「ひとりの時間」と、ついうっとりしてしまう。

そんなこんなで、ひとりの生活を存分に楽しんでいるわたしだが、やはり時々ふと寂しくなる時がある。今日はこのまま帰宅したくない。そんなとき、寄る場所がある。

「献血ルーム」である。

イイ女はひとり、バーに寄るのかも知れない。だけどわたしは、お酒もそんなに飲まないし、酔った状態の初対面の人と話すのが非常に苦手だ。だから、「献血ルーム」。

昔から超健康体のわたしは、受付でお断りされることはほぼない。暖かい飲み物を飲みながら漫画も読めて、暇も潰せて、なおかつ人の役に立つ。一石何鳥だろう。実家の母と近い世代の看護士さんが、採血しながら優しく話しかけてくれるのもほっこりポイントのひとつである。もちろん採血時にチクリとした痛みがあるが、慣れれば大したことはない。

以前職場の同僚たちにこの話をしたら、「献血が好きだなんて、おかしな人だねぇ」と盛大に笑われたが、それでもわたしは献血が大好きだ。

先ほどまでわたしの身体を駆け巡って居たB型の血液が、パッキングされ、誰かの元に運ばれ、命を救う手助けをするかも知れない。そう思うと、なんだか少しうれしい気持ちにも、清々しい気持ちにもなるのだ。

やや貧血を覚えることもあるけれど、さっきまでの寂しさはすっかり忘れ、わたしは、お気に入りのあの部屋へ帰宅する。

「寂しいときは、献血にいく。」
これが、もうじき一人暮らし歴9年目を迎えるわたしの裏技である。

文:大河原 こゝろ

第1回「わたしのノンマリライフ」エッセイ募集コンテストにご応募いただいた方々の中から、大河原 こゝろさんのエッセイをご紹介しました。

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