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「おめでとう」を私に

人は人生で何度「おめでとう」と言われるのだろう。学生の頃は入学、卒業、受験、それにちょっとした賞をもらったときなど、その機会は多かった。誕生日も素直に嬉しかった。

でも社会人、それも30代半ばになると、「おめでとう」と言われることは少なくなる。誕生日だって、なんだか恥ずかしい年齢だ。その代わりに、言う機会は増えてきた気がする。毎年のように耳にする、「結婚しました」「子供が産まれました」の報告。

SNSなら、「おめでとう!!!!!」といつもより「!(ダッシュ)」の数を増やしたり、ハートの絵文字やスタンプを存分に使ったりしてメッセージを送る。
直接会っているときなら、「実は・・・」と切り出された瞬間に、最高の笑顔で「おめでとう!!!!!」を、そしてハッピーなエピソードの聞き役に徹する。
しかし、そんな自分にどこかで疲れている自分がいる。

それに「今までずっと頑張ってきたから結婚できたんだよ」という言葉にもモヤモヤ…。いや、私たち独身だって、いろいろ頑張って乗り越えてきたんだよ!その結果が今は結婚になっていないだけ。

34歳独身の私の趣味は旅だ。それも有名観光地ではなく、ガイドブックの片隅に載っていそうな場所。地元の人が一生懸命盛り上げている、そんな場所が好きだ。
いいな、と思った場所をHPで調べたり、観光協会に資料を送ってもらったりして、旅の計画を立てるのは至福の時間。独身なので、時間&天気の条件が揃えば、いつでもふらりと旅立つことができる。

新幹線では流れる景色に身を任せたり、同じ車両の人の人生を想像したり。駅に着いた後も、さらに電車やバスを乗り継いでいく。1時間に1本あればありがたいほう、待ち時間だって旅と思えば許せる。食事場所はあるかわからないので、あらかじめコンビニでパンでも買っておく。

ガイドマップどおりに歩いて、数分ごとに電車やバスがきて、迷うほど飲食店が豊富な旅は楽だ。でも私は、この不便な旅を楽しんでいる。こんな旅ができるのは、きっと独身の今しかないと思うから。

山頂から見下ろした美しい町。閉店間際に駆け込んだ店のあたたかい味。小さな美術館で偶然見つけた1枚の絵。なぜか気になり手にした郷土品。すれ違いざま「こんにちは」と挨拶してくれた小学生…乗りこえた先には、心がときめく数々の瞬間が待っている。

頑張った先にあるものが、今は結婚じゃなくても構わない。旅での出会いの連続に、「おめでとう!!!!!!」という言葉を私は私に贈りたい。

文:たび

第1回「わたしのノンマリライフ」エッセイ募集コンテストにご応募いただいた方々の中から、たびさんのエッセイをご紹介しました。

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