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声を出したいソロ社員

3人とも妊娠!?それは衝撃の告白だった。つまりそれは、同時期に3人が産休を取得するという事だ。ここは零細企業。私たち営業部は5人しかいない。5-3=2。残されるは、上司(50歳・男性・妻子持ち)と私(28歳・独身)。ここから私の地獄生活が始まった。

上司が言った。「3人分の仕事はお前が引き継げ。」独り者は暇でフットワークが軽い、という攻撃理由だった。3人分!?もともと自分の抱えている仕事もある。つまり4人分働けという事だ。

確かに自由に使える時間はあるかもしれないが、独り者はサイボーグではない。これで給料が増えるのならまだ許せる。しかし増えるのは労働時間ばかり。早朝に出勤し、昼ご飯を食べる暇もなくあっという間に時間が過ぎて行き、帰るのはいつも終電間近。土日も出張続きて、休みなんてない。上司が家族と過ごす時間≻私のプライベートな時間、という公式があるようだ。私は習った記憶がないのだが…。
そんな疑問を抱えながら、何とかやり過ごしてきた。

そして待ちに待った産休からの復帰。地獄生活からの解放ー!…と歓喜したのも束の間、ママ社員となった彼女達は最強の武器を手に入れていた。

「子供がいるから、出張出来ません。」
「子供がいるから、残業出来ません。」
「子供がいるから、土日は仕事出来ません。」

じゃあ、誰がやるの?暇なソロ社員でしょ!
結局、私の生活が変わる事はなかった。

そんなある日、既に負傷兵と化した私に、またしてもママ社員は一撃を食らわせて来た。年に一度行われる、1週間の海外出張の担当を決める会議での事、あろう事かママ社員達が立候補したのだ。子供は大丈夫なの?、思わず聞いた。ママ社員達が言った。

「だって今度の海外出張、ハワイでしょ?
 私、ハワイに行ってみたかったんだー。」
「1週間も子育てから解放されるなんて、最高。」

普段の出張も残業も休日出勤も出来ないのに、1週間のハワイ出張には行ける…?もうパニックだ。もう限界だ。社長に答えを教えてもらわなければ。私は社長に相談した。こんな状況、もう耐えられない。社長は言った。

「子供がいる社員は、独り者のお前と違って忙しいんだよ!
   何で暇なお前が協力してやれない。」

分かってるよ、だけどソロ社員が犠牲になるのはおかしいよね…。

「子供がいる社員が働きやすい会社は、良い会社だと思わないのか?」

思うよ、だけどソロ社員が犠牲になるのはおかしいよね…。

本当は声を出したかった。しかし、社会の風潮も後押しして、声を出せない空気を感じて言葉を飲み込んだ。ソロ社員にもはや、発言権は存在しない。そう感じてしまったのだ。それでも勇気を出して声を出していたら、違った未来が待っていたのかもしれない。私は今、会社を退職して、自宅で療養している。病名は、過労によるうつ病だ。

そんな時、「わたしのノンマリライフ」エッセイ募集の記事を見つけた。応募作品の参考事例に「ソロハラ体験記」という言葉を見つけ、思わず心が動いた。ここしかない。出せなかった声を出せるのは。そう思って、ぶちまけるように書いてしまった。

共感されようとは思っていない。むしろ、こんな私のような思いをする社員が存在してはいけない。ソロ社員として、自分のノンマリライフに自信を持っていれば、こんな事にはならなかったはず。気付くのが少し、遅かった。

第1回「わたしのノンマリライフ」エッセイ募集コンテストにご応募いただいた方々の中から、はなこさんのエッセイをご紹介しました。


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