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カラスの友達

私は二十歳の頃一時東京の銀座にある貿易会社で中国語担当として働いていた事がある。行きも帰りもギュウギュウの満員電車に揺られ、会社もイマイチ居心地が悪く(「銀座のOLらしくしろ」と会計課の御局様にバンドマンの私は良く説教された)思い返してみても大変な毎日だった。

私はテレビドラマの話しかしない数人の女性先輩方との昼食を辞め、ウクレレを抱えて毎日ビルの屋上に向かう様になった。誰もいないし静かな屋上で人間から離れて唯一ホッとできる休憩時間に、私は1人で歌を歌って過ごした。

ある日、1羽のカラスが飛んで来て手すりに止まりじっと歌を聴いていた。そしてそれから毎日遊びに来る様になった。私はそのカラスに大好きな細野晴臣さんにちなんでハルオミくんと名付けた。ハルオミ君は黒くてツヤツヤでお行儀も良く本当に本当に可愛い子だった。銀座のど真ん中のオフィスビル屋上で私が歌うと彼も一緒にカアカアとご機嫌に歌ってくれた。屋上に降り立つ姿はこの世のものとは思えない程荘厳だった。「ハルオミくーん」と呼ぶといつもきてくれた。2022年の私は「もしも今の携帯技術が当時あったらビデオに撮れたのにな〜。残念。」なんて思う。カラスと人間のデュオ。無敵だね。でも心の中の思い出は色褪せずにずっと残っている。

その後私は会社を短期で退職しロックの道を選んだ。それ以来もう足を運ぶ事も無くなったが、私が銀座と聞いて今でも思い出すのはハルオミ君と過ごした昼の屋上での時間である。本物の友達に心からの愛とリスペクトを。




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