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赤いヌンチャク

私が以前結婚していた元旦那は誰にでも優しく、彼を狙う寂しい女達が彼の周りを回遊魚の様に常時ウヨウヨ泳いでいた。

ある日、彼の独身時代の元同僚だった女が家族を連れて私達の町に遊びに来た。SNSで彼を見つけ15年振りに連絡をして来て再会。皆で楽しく食事中に彼女が明るく言い放った。「あのね、私達離婚したの〜!でも今でもお互い良い友達だから〜!」一気にテーブルが凍った。その場に同席していた無言の彼女の元旦那に私は同情した。こういう話は個人的にするものではないのかい?

その離婚報告以来、奴の猛アタックが始まった。他州に住んでいるにも関わらず、月に一回「ライブを見に行く」のを理由に我が家に泊まりに来ては私の旦那を連れ出しディナーを奢りしこたま飲ませて深夜に帰宅した。ヘベレケでベッドに倒れ込む旦那。「こんなに酔わすつもりなかったんだけど〜」と余裕の微笑の女。これが3ヶ月続いた。元旦那に言っても「離婚したばかりで心が荒んでいるだけだよ。」ととりあってくれなかった。

その夏彼女のビーチハウスに招待された。海は美しく素晴らしかったが、その女は目前で相変わらず私の旦那に粉をかけまくる。皆でプールに遊びに行けば滑り台でキャッキャと2人だけで先に滑り降り、彼女の両親のバーベキューでは「私の”大親友”」と旦那を紹介し(彼女の元旦那もいたが非常に冷酷に対応されてた)2人だけでショットグラスで乾杯し酒を飲む。私は完璧におまけ状態だった。私はめんどくなり寝室に引っ込みウクレレで楽しく歌を歌って気分を変えようと思ったが、その女のあまりの露骨な嫌がらせとのらりくらりの元旦那に非常に腹が立ち、気づいたらものすごいハードコアな一曲を書き上げていた。ちなみにこちらがその曲Problemsである。書き上げたら一気に怒りが昇華されスッキリした。ミュージシャンで良かったと思った。どーでも良いが曲のネタをありがとよ。

ビーチハウス滞在中のある晩、その女が友人と飲みに行くと言って準備を始めた。彼女は私にハンドバッグを「ちょっと持ってくれない?」とわざとらしく手渡した。小ぶりの革製ポシェットは見かけによらずズッシリと非常に重かった。「うふふ…。護身用の銃が入っているのよ。」と挑戦的にニヤリとこちらの目を見ながらさりげなく言った。酔っ払いに銃。正にキチガイにナイフである。しかし私は全然怖くなかった。ただただアホだな〜と思った。

その後彼女がまたしても遊びに来た時リトルイタリーで一番古い伝統的なピザ屋に行きニューヨークで一番美味しいと言われるピザを食べた。その後隣町のチャイナタウンでデザートを食べようと言う事になり歩いて向かった。途中で武器屋を見つけた私は「ちょっと立ち寄って良い?」とその店に入店した。皆もゾロゾロと入店。そこでもともと欲しかった赤いフォームに&金の龍の絵の付いたヌンチャクを購入した。おもちゃではなく練習用のものだ。しっかりとした鎖で繋がれていた。女はちょっとビビったらしく引きつった顔で不安気に、「もしかしてそれで私を殴るつもり…?」と聞いて来た。私は素晴らしく明るい笑顔でニッコリと微笑みかけ、「それは、あなたの行動次第よ❤️」と答えた。彼女はすごくすごーく静かになり私への当てこすり攻撃を止めて大人しくなった。私は勝った。そして彼女にはもう2度と会う事はなかった。闘争または逃走(Fight or flight)ならば闘争を。いじめられて泣き寝入りの被害者なんかまっぴら御免である。

アーバンウェイストでの全米ツアー時代もベースのハードケースの中に赤いヌンチャクは私と共にいつも有った。演奏前の手と腕にとても良いウォームアップになったからである。ヌンチャクを振り回していると段々勢いがついて来て時々一本の棒のようになる。バトントワリングと似た感覚があった。各地でケースを開ける度に毎回必ず誰かに「Holy shit, is that your fuckin' nunchuck?(ワーオ、それって君のヌンチャクかい?)」と聞かれた。そうだと答えると一気に尊敬された。日本人ガールベーシストと言う扱いから同胞のハードコア兄弟へ一気に昇進である。女性に対するほっぺたへのキスではなくてガッツリしっかり握手し相手の肩をポンポンと叩き合う男同士の挨拶に変わった。

赤いヌンチャクは私の人生を強く切り拓いた。離婚後私は同じく武術家でミュージシャンの彼と出会い一緒にロックンロールバンド手裏剣を組みとてもハッピーな日々を過ごしている。人生山あり谷ありだが全ては経験なり。人生は本当に面白いなと心から思う。皆様楽しく強く明るくいきましょう!

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