きみを死なせないための物語第1話感想その2
とても意味深な冒頭から始まった「きみを死なせないための物語」。
前回が3ページ分で終わってしまったので、続きの4ページめからの感想を書いていきます。
ここからが実質本編ですね。
そしていきなり出てくるモノローグの「20歳の夏休み」「まだ子ども」「あと20年は子どもの予定だった」
そして遠景の主人公アラタの姿。明らかに子どもで、空港…ではなく宙港の待合室の椅子に足をぷらぷらさせながら座っている姿がキュートです。
窓の外が真っ暗な宇宙であること、下のコマにコクーンのほぼ全景が写っていることで、アラタがいる場所、そして物語の舞台が宇宙空間に浮かぶコクーンであることが示されています。漫画の素晴らしいところの一つって、絵だけでも情景や舞台設定をわかりやすく説明できるところですよね。また、ページ全体を目に入れながら一コマ一コマを追うことができるので、一コマの中で説明を完結させなくてもいいことも漫画の利点だと思います。
アラタの正面には「THKヴィジョン」と書かれた巨大なテレビモニター。次のページで放送中の番組が「THKスペシャル」とあるので放送局名なのでしょう。
NHKが日本放送協会の略なので、THKは東京放送協会とかでしょうか?
ということはそのモニターはTHKしか映らないのかな? もしかして一コクーンにつきTV局は一つしかないとかなのかもしれないですね。
この見開きではアラタが20歳なのに子どもの姿であること、100年以上は生きそうな事、そして周りの反応からそれがこの世界の通常ではない事が描かれていますね。そして出てくる「ネオテニイ」「F 4(4は小文字)」などの意味深な単語も飛び出ます。この数字、第1話の雑誌掲載時は大文字だったんですが、単行本になった時に訂正され。
第一話の最初から、アラタが特異性が明確に示されているのはいいですね。コクーンにネオテニイが何人存在するのかはわかりませんが、その中でもかなり注目を集めている存在なのだと認識させられます。その中で「小学生」という単語があるのが、現代日本とかけ離れすぎた世界ではないんじゃないのかなと思わせて、SF漫画にありがちな読者を突き放した設定による読みにくさ?を軽減させてる気がします。
少し気になるのが「なんで宙港に子ども?」というセリフ。これがセリフ通りに「子供がいることが珍しい」なのか「子供が一人でいることが珍しい」なのかはわかりません。現代日本の空港なら子供がいること自体はありふれた光景ですし、1人だとしたらまあ珍しいけど親が手続きとかで離れてるのかな?程度の認識になりますよね。コクーンの法律がどうなっているのか、ちょっと知りたいところです。
そういえばですけども、この漫画の連載開始2016年ではアラタが日常的にマスクをつけていることは特異な印象を与えていたんですが、今読むと全然普通に見えてしまう… SF設定のあるある?に「架空設定に現実が追いつく」があるようですが、これもそのひとつなんでしょうかね?
次のページではTV放送の内容に被せるようにシーザーが登場。この時のシーザーはすごくやんちゃっぽく描かれていて、アラタの遮音マフ(ヘッドフォンでは無く)をいきなり外す行動と合わせて活発な印象を持たせているように感じます。
そして「親友(パートナー)」と発言させることで、彼がアラタに取って特別な存在であるとはっきりと示しているわけですね。明らかに人種が違う彼が「親友」であること、同じような年に見えることとF3だと周りのガヤに喋らせていることで、シーザーもまたアラタと同じネオテニイだと示し、TV放送の内容で彼らが「進化した人類」だと読者にわからせています。わざわざTVで取材されて放送することや、周りがネオテニイだと騒ぐことで、ネオテニイがこの世界で数の少ない特別な存在であり、かつその存在を名前まで知られていることがわかりますね。
前ページで初登場した「ネオテニイ」、言葉だけ出してすぐには説明せず、ページをめくった最後のコマで「進化した人類」だと答えを示しているのもいいですね。ページをめくるときは2ページ先の外側のコマが最初に見えてくるので、読者は「ネオテニイ」が「進化した人類」だとわかった上でめくった2ページ分の内容を読めるわけです。とはいえこれは紙媒体特有で電子書籍ではできない読み方ですので、紙媒体で読む時にちょっとお得な感じを覚えるのは私だけかも知れません。
また、前ページで出した「ネオテニイ」にひとまずの答えを示した上で、さくっと「親友と書いてパートナーと読ませるのはなぜ?」という新たな謎を提示するのもうまいですよね。読者に新単語の意味の答えを同時には教えない。少し考えさせた上でストーリの進行に沿った情報を小出しにしていくので、読者はわからない単語で頭がいっぱいにならず、内容をわかったつもりになって読み進められるのです。この情報提示の仕方によってSFは読みやすさが変わってくるなとおもうのです。
で、その「進化した人類ネオテニイ」って見た目だけなの?どんな特徴があるの?ってページをめくると、TV放送の内容は描かれずに「真空でも生きていけそう」というシーザーの笑いでTV内容が実際よりもかなり誇張されていることと、ネオテニイがそれほど「宇宙に適応した人類」ではないのだろうなと思わせたところで登場するターラちゃん。はしゃぎ合うアラタとシーザーよりも大人びた印象を持たせています。第1話がこの3人での行動がメインになるので、この先もこの3人をメインに話が進むのだろうと読者に理解させているのかな?
その上でアラタにとってこの2人が重要人物であるとも読めるようになっているのがうまいところだと思います。
3人が合流してさあ話が進むぞ、というところで続きはまた次回。
2000文字を超えてきて、文字を打つのにラグがなかなり出てます。