190602sun 父、サプライズデッド
何かが重なるときは、
これでもかと重なるものらしい。
この日、会社の可愛い派遣さんと昼から飲んでいた。はしご酒のイベント。明るい時間からさくさくとハシゴをして、夕方頃の4軒目。
乾杯してふとスマホを見ると、姉から2件の不在着信と、1件のメッセージ。
「お父さんが大怪我してドクターヘリで運ばれた。もう脈はほとんどないみたい。これから●●病院に行く。今はお兄ちゃんが付き添ってる。」
姉に電話をする。
この時点で既に脈はなかった。
私が今何をしたって、何も変わらない。
そこにあるのは、もう変わらない事実だけ。
一緒に飲んでる子に事情を話す。
正気か疑われそうだけど、
私は出されたつくねを2口で平らげた。
私は出されたお酒のグラスに3口だけ口をつけた。
これで少し、心が落ち着くだろうと思った。
そこからバスに乗り病院へ向かった。
初めて行く病院で、救急の入り口がわからず訳のわからないところから入り、名前を告げて中に案内された。
兄と、姉が、廊下に立っていた。
既に父親の命はこの世からなくなっていて、検死と後処理をしているところだった。
兄弟から経緯を聞いたけれど、それはあっけない終わり方だった。
父親は昔から自分で何でもしてしまう人で、定年後も家で農業や庭仕事に精を出していた。
その中での事故だった。庭での作業中、丸のこで大腿部の大動脈を切ってしまい、そのまま出血性ショックで息を引き取った。幸いまだ息のあるうちに家族が発見した。蚊のなくような声で孫の名前を呼んでいたらしく、偶然網戸にしていたため、その声に気付いたとのこと。ドクターヘリ内で胸部を開き、脳に障害が残らないよう最善の努力をしてくれたらしい。
兄はあちこちに電話をかけていた。田植えの終わった田んぼの面倒を、近所の兄ちゃん的な人に頼んでいた。他にもたくさん電話していた。
待合室のようなところで兄弟3人でいろいろと話した。誰も泣くことはなく、いろいろと話した。時に、思い出話に笑うこともあった。たくさん話して、私はふと「こんな時、兄弟がいて良かった」と言った。兄か姉が「これからが大変だ」と漏らした。
晩婚、シングルマザー、未婚(私)、の三兄弟は、誰も親を結婚式に呼んであげられなかった。
ご、ごめんな。
私はこの日、父の顔を見ることはなかった。
母親の時も、父親の時も、
私は死に目には会えなかった。
母親も5年前に急性心不全でサプライズデッドをしでかした。ふたりでご飯を食べに出掛けた翌日の、明け方のことだった。夫婦揃ってサプライズ。
私は姉に送ってもらい帰宅。
翌日にはマンモとエコーの検査が待っている。
乗り越えなければいけない。