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なんで戦争がだめかを感じる映画-CIVIL WAR-

ふだん映画評論なんて書かないしネタバレが嫌いだからあまり読まない。
そもそも偉そうに何かを語るほど数を見てもいないし「映画好き」というほど夢中でもない。
そんな人間に感想を書かせる気にさせたのだからこれはすごい映画なんだと思う。

ひとことで言うのならば
「分裂」した行方に起こる戦争の、何が「だめ」なのかを「体感」する映画。

ややこしいことは考えなくても体感できるので正直頭は使わなくてもいい(勝手に使わせてくれる)仕様。
それが広告文句にある「没入感」のひとつだろう。
(広告にあるので書いたものの没入感という言葉があまり好きではないので以下では使わない。)

この体感は、主に「音」が占める部分が大きいので、映画館の音響は必需品だろう。自宅に映画館レベルの音響設備があり、集中できる環境があるなら話は別だが。

たった2時間、確保できるなら明日にでも行ったほうがいいと思う。

観てよかったというより、観るべきだと思った。
全人類が。
グロテスクな内容含めて、義務教育で見せたほうがいいのではと思う。

2時間、ずっと不安が続く。
不安の形は常に変化する。
そして緊張。
あたりまえだ、命がかかっている現場に不安と緊張が伴わないことなどない。それを教えてくれる。

分裂、戦争、内戦、善悪、命。
言葉や映像で知った気になっているものを
「つまりこういうことなんですよ」と体感させる。
世界各地で毎日起こっていることを
ぬるい平和に生きて他人事としている自分たちに警告を鳴らしている。
「こうなったら怖いでしょう?」と脅しにかかっている。
そして争いの先にはびっくりするほど空っぽなものしか残っていないということを示している。
それがこの映画だ。

いわゆる内戦や戦争映画とはひと味違う構成。
舞台はアメリカだったり、テーマは分裂だったりするがたぶんそんなことはほとんどどうでもいいと思う。
この映画では別に戦争で家族を失ってとか人生が壊れてとか、
なんで戦争が起きたのかとか、生き残ってそれからどうなったとか。
そんなことは一切描かれない。
そこがよくある戦争モノのストーリーとは違う。

むしろ、個人の事情は削ぎ落とされている。

戦場カメラマンとして戦地を目指しながら、味方も敵も被害者も加害者も「カメラで写して記録に残す」という究極に第三者の目線。
自分の国のことでしょ、他人事か?とさえ思えるほどの客観視で出来事を追う。
冒頭15分ほどで状況の説明が流れるが、アメリカの政治にも地理にも詳しくないためよく理解ができないまま、普通のビル街で暴動が起きる。
そしてカメラマンたちが戦地様子を追うことになる。
大統領がいるワシントンDCの目的地に至るまで、さまざまな形で戦地を見る。
形は違えど狂気に満ちた各地。
そして上映中ずっと不安を掻き立てる音楽と効果音。

なんのために戦うのか、始まるともう誰にもわからなくなる。
争いを始めた人間は結局どこまでも利己的で自分の命だけが惜しく、どれほど人が死のうが、これっぽっちも傷まない。
狂気は伝染し、蔓延し、暴力となる。
暴力は正当化され、誰もが正義で誰もが悪だ。
そういうことが理解できる。

きっと日本では絶対に流行らないだろうけど。
「アメリカの内戦」って広告がよくないと思う。場所なんてどこでもいい話だ。日本でも韓国でもサウジアラビアでも同じこと。
アメリカと書いてしまうと、日本人の「自分には関係ない・興味ない」がたちまち発動されてしまう。
実際自分もそう思っていたからわかる。
たまたま友人の紹介で、アレックス・ガーランド監督のメッセージ付きyoutubeを観るまでは。
分裂に対する危機感をもっと持たなければならない。
もっと恐怖を知るべきだ。

「私が忘れていたすべてがあったわ」
「私が覚えていることのすべてだったよ」

CIVIL WAR

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