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去年の今頃、利用者さんの旦那さんとサシ飲みしてたな。


私の誕生日は明日。

これから文字に残しておきたいなと思って書くのは去年の今日のできごと。

つまり私の25歳最後の日。

その日、私は仕事の当直の転送携帯を持つ当番だった。定時の仕事が終わり家でのんびりしていると転送携帯のコールが鳴った。自宅近くの利用者さんの家からだった。
緊急コールと言っても、夜に大量の排便があって旦那さんが困っているという、たまにある内容だった。
利用者さんである奥さんのシャワーと着替えの手伝い。

そんなことをしていると旦那さんがいつにもまして
「車で来たの?」とか「家はどこ?」と聞いてくる。
私が歩きで家が近いことがわかるとキッチンに呼ばれた。

そこにはビールとコップが2つずつ並んでいた。

何回か断ったけれど。
「一杯付き合ってくれる?」

ほんとは断るべきなんだろうけど。元々1人で奥さんの介護を抱え込んでいて最初は相談さえしてくれなかった旦那さんだったので正直驚いた。もう10年以上1人で若年性アルツハイマー型認知症の奥さんを看ながら仕事をしていた旦那さん。何か相談したい事でもあるのかなと断り切れず1杯頂いた。

私はひそかにこの夫婦のファンだ。

とっても穏やかでおしどり夫婦でご近所でも有名だ。

奥さんが認知症だと旦那さんが近所の人に話せるようになってからは、昔、この夫婦によくしてもらったからとご近所さんはご飯を届けてくれたり様子を見に来てくれたりする。

70代の旦那さんもまだ現役で仕事をしながら朝、奥さんのゆっくりゆっくり歩くペースに合わせて手を繋いで微笑みながら私たちのいる施設に奥さんを連れてきてくれる。

「僕一人で歩いたら10分でつくのに、お母さんといると20分はかかっちゃうね笑。でもねゆっくり景色を見ながら楽しいよ。」

と旦那さんも仕事前の朝の忙しい時間なのにゆとりのある笑顔でそんなふうに話してくれる。

スタッフにも気遣ってくれて、いつもご苦労様と声をかけてくれたり、差し入れをくれる。

 飲んでいる時も「前はよく仕事仲間と飲んでたんだけど。お母さんがこうなっちゃったでしょ。付き合い悪くなると誘われなくなるもんだね。」と少し寂しそうだったけれど

「でもねお母さんもなりたくてなった訳じゃないからね」と

そんな風にさらっと言って

しきりに「うちのお母さんほんとに優しいんだよ。性格いいでしょ」ってのろけてくれた。ほんとに自慢の奥さんなんだと今まで過ごしてきた中での思い出や息子さんや娘さんとの思い出話をいろいろ話してくれた。

「ほんとは老後、息子がいるイギリスに住みたいねって英語を一緒に勉強していたんだよ。でもね。これはこれで娘も手伝いに帰ってきてくれるし、君たちもこんなに助けてくれるしいろんな人に出会えているから幸せだよ」と眠っている奥さんの頭を撫でている姿はとても美しかった。

改めて素敵な夫婦だなぁと感じてなんだか温かい気持ちになれた。

介護の仕事をしていると色んな家族や夫婦に出会う。どの家も違うし色んな家族の形があるんだなと感じる。そして色んな家族を見るたびに家族っていいものなのかもしれないと思えるようになってきて自分の家族に対しても寛容になれてきた。

25歳最後の日の去年の今日、私は幸せな時間をこの夫婦からプレゼントしてもらった。

そしてこうやって仕事中でも今回はお酒を飲んでもgoodjobと職場のみんなが言ってくれて、大事にしているものが共有されているのがうれしかったな。

さて26歳最後の夜はどんな風に過ごそうかな。

読んでいただいて、ありがとうございます。 自分のために書いた文章が 誰かの心にも何か残ったら嬉しいです。