『かみのノート』
梅子85歳。
は、病室の天井を見ながら考えていた。たぶん、自分の寿命はそう長くないと。
やたら眠い時間が増えて、最近では意識も朧げ。もう充分にやりたい事はやったから、そろそろ現世を離れてもいいかなと思っている。
一つ気がかりなのが、孫の桃香のこと。おばあちゃーんって、嬉しそうに走ってくる孫なんて、このご時世、そういないわ。
小さい頃はまるでお約束かって言うくらい、途中で転けてたわね。ちょっとおバカさんなとこもあってね、大きくなって、遊びに来たときも、何かしら持って帰るのを忘れるのよ。
だからうちは、桃香のものであふれてる。まあ、それもいつも桃香と一緒にいるみたいで、悪くはなかったけどね。
あら、いやだ、桃香のことを考えてたらいつのまにか忘れてた。
私は、死にかけてたんだったわ。
年を取ると忘れっぽくなっていやねー。たぶん、あの子は間に合わないから、手紙でも書きましょう。
デジタルは便利だけど、やっぱり紙が一番。心を込めて書けばなんでも伝わる気がするもの。
それにしても今日はやけに眠いわ。
すぅー…
はっ、ダメダメ。
まだ寝ちゃ…
すぅー…
そのまま逝ってしまいそう!
まずは、何か書くものを持ってきてもらわなくちゃ。
「看護婦さーん!何か書くものをお願い出来る?」
「はーい。梅子さんちょっと待ってて下さいね」
書くものは、頼んだし、何を書くか考えよう…
ダメだわ。まぶたが勝手に閉じようとする。
…なんでしょ、この光。とてもあったかい。
…
..
きっと、その時が来たのね。
天使:
『梅子さま、現世、お疲れさまでした。この人生は間もなく終了です。そこでなのですが、日本には、八百万の神さまがいらっしゃると聞いています。どなたかを選んで一つだけお願いをする事が出来ます。』
「えっ、そうなの?知らなかった。それはありがたい。どうしましょう…」
(梅子、意識が遠のく)
『梅子さま、早く決めてください。眠ってしまうと、そのままこちらに来てしまうので、オーダー出来ませんよ、あと10秒!』
はっ!ダメダメ。がんばれ私。
孫の桃香が幸せになれますように
(パタパタと廊下を走る音
看護士が慌てて梅子に駆け寄る)
「梅子さーん!聞こえますか!
書くもの、持ってきましたよ!
バイタル落ちてます!
しっかりしてください!
すぐにドクターを呼んできますから、ちょっと待っててください!!」
…あ、看護婦さん、ノートを持って来てくれたのね。
いつも良くしてくれてありがとうね。
天使:
『願いは、お孫さんの桃香さんの幸せ、ですね。次にどの神さまにどうやって叶えて頂くか、具体的にお願いします。』
具体的にって言われても、難しいのよね。俳句でもよく言われたわ。
うーん…ダメだわ眠い…
「かみ…」
すぅー…。
天使:
あ、行っちゃった。
"かみ"ですね、丁度そこにいいものが。では、オーダー!
紙の神さまのご加護を受けたノート
(幸せになれる機能付)
おばあちゃんより愛を込めて
上手く使ってね。桃ちゃん。
(1200文字)
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あとがき
デジタルもいいけど、充電もプログラムの立ち上げも要らず、一番すんなりと気持ちを残せるのは、紙ではないでしょうか。メモ書き一つにしても、同じ文章を書いても人によって違う。
デジタル技術もどんどん進化していくのですけどね。
使いこなせ、若者世代&私たち。
やっぱり、文字数を減らすのに時間がかかりました😝
以上、秋ピリカグランプリへの応募です。よろしくお願い致します。