編み者【夫婦のこと】
今年に入って妻の編み物好きが再燃している。最近、初めて見る編み方を知ったらしくソファーで黙々と手を動かしている。
「やっと来た!ちょっと見てくれる?」
私が隣に座るや否や待ち構えていたように話しかけてきた。
「変わった編み方を動画で見つけてね、それが凄いのよ!今までと全然違う!コレ、その編み方で試し編みしたんだけど凄くキレイじゃない!」
そう言って見せられた毛糸の帯物は編みの目が均等で確かにキレイでした。
「普通はね、こうやって編むの。ここをね、こうやって、これをこうしてね、そうしたらこうなるでしょ。だから、これをこうやってここをこうしたらこう編むのが今までの編み方なのよ。」
”なるほど、わからん…”
妻を庇いますが説明が悪いからではないんです。私に編み物の基礎知識が無さ過ぎる。何のために何を何しているのか全くわからない。ここをこうこうしか言わない妻と何を何しているのか解らない夫。そんな夫婦です。
でも、一つだけわかることがあります。とにかく妻は聞いて欲しいのです。自分の好きなことで凄い発見をしたから人に話したくてたまらないのです。この気持ちはよく解る。私だって将棋で凄い対局を観たらあーだこーだと妻に話します。「突き捨て」がどうとか「捨て駒」がどうとか、妻からすればどうとでも捨ててくださいって話ですが、それでもちゃんと聞いてくれる。正確に言えばちゃんと聞いたふりをして流してくれているのですが、それで十分なんです。話したいだけですから。なので私も妻に倣って誠意を込めて聞き流すことにしました。
「でね、動画の編み方は最初から違って、ここをこうやって、これをこうしてね、そうしたらこうなるのよ。それをこうやってここをこうしたら、こう編めるっていう、アメリカ式っていう編み方なんだって!」
何となくの違いは判るが何が国境を超えたのかまでは解らない。それでもフンフンフンフンと妻の手を見つめて「アメリカ式って凄い!」と頷く。
「前の編み癖が抜けないから難しくってまだ上手くは編めないの。でも動画を上げてる人って凄く速いんだよ。動画も観てくれる!」
妻との違いは判るが平均的に速いかまでは判らない。それでもやはりフンフンフンフンと動画を見つめて「確かに速い!」とまた頷く。
こうこうだけで紡いだ妻の言葉にフンフンだけを重ねて会話を編んでいく。キレイな編み方ではありませんがそうやってずっと日々の仲も編んできた。
そんな丈夫だけが取り柄の我が家の夫婦式編み(めおとしきあみ)。