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永瀬拓矢王座【将棋のこと】

私は将棋を観るのが好きだ。
そして山崎八段ファンです。

私が将棋を観るようになったのは正確には2011年の秋口、ハマりだしたのは2012年からだったと思います。そんな年に新人王戦を制したのが永瀬拓矢現王座。山崎八段の情報ばかりをむさぼり、当時のトップ棋士すらインプット途中だった私の目には永瀬当時五段はまだ入ってきません。将棋フォーカスの特集で今年の新人王だと紹介されましたが「そうなの」程度で追いついていかない。やたらと千日手が多いとの触れ込みにも「そもそも千日手とは何ぞや」という知識レベルの私。どうやら引き分け的なものらしいと解って、珍しくもそれを狙っていく若者だと聞いては、今一つ魅力に欠ける棋士だと思っていた私の方が何も解っていないファンの新人でした。

特集の中で新人王戦を制することはタイトル獲得者の通過点のようなものだとのナレーションが入る。だから今後の活躍を大いに期待と。当時の私はやっかみで少しふくれてしまいます。私の好きな山崎八段は二度も同棋戦を制しています。それでも届かぬタイトル獲得を若くして引き分け狙いをするような棋士が成せる訳もないだろうと。「自分には才能が無い」と言い切ってしまうことにも少し引っ掛かりました。プロ棋士なんて才能集団です。「無い」との言い切りはさすがに謙遜が過ぎる。新人王をして才能が無いと言ってしまっては他の若手の立場はどうなると珍しく気に障っては印象に残ったことを覚えています。

そんな永瀬王座が三年後、電王戦に出てきました。コンピューターソフトにはもう負けられないと勝利を託された布陣の二番手として抜擢されます。私も三年が経って将棋界の知識が随分と増えていました。増えた知識で見れば永瀬当時六段の選出は当然で、千日手こそ減りつつも他の棋士との違いはむしろ増えてきたようにも見える異端の実力者が、勝利に一番近い棋士なのかもしれないと期待して観ていました。

結果は有名な角不成事件です。第一局の斎藤当時五段に続く人間勝勢の評価値に昼からお酒を呑みながらいい気分になっていた私。「放っておくと、たぶん投了しますよ」と言い放った永瀬六段の姿に一気に酔いが冷めては怖いとさえ思いました。あの勝負、賛否両論ありましたが私は圧倒的な賛です。ソフト開発者は敵ではありませんが、ソフト自体は強大な敵として演出されていて対局前から煽りに煽られていました。そんな強敵を圧倒しては不備も示してバッサリと勝負をつけた。勝負の途中なのに反則勝ちを狙ったと罵る人や、ソフトのバグまで晒すのは酷いと非難する人もいましたが、永瀬王座の中では勝負がついていたからこその一手だったと私は思っています。千日手をも厭わないほど長い将棋が好きな永瀬王座が途中で終わらす手を指すとは思えない。バグを示したことについては、珍しくとも将棋の指し手である角不成を認識しないような基本的不備は、将棋をする上で見過ごせないと厳しく対処されたのではないかと個人的には解釈しております。

更に三年後、ナレーション通りにタイトルをも獲得します。そして今ではタイトルの常連。八冠が現実味を帯びてきた藤井六冠のラスボスにまでなりそうな気配ですが、最近ではアンチの多い棋士という一面も目立ってきました。アンチに拍車を掛けたのがABEMAトーナメント。負けた仲間とは全く話さないその姿が目を引いてコメントは結構なボロカス状態です。私も気にはなっていました。あまりにも気になるので控室の様子が観たくてプレミアム会員になったくらいです。私のフォローでは力不足ですが、控室では至って普通に検討しています。屋敷九段とも明日斗五段とも。何故に放送中だけあの態度かは本人じゃないので解りませんが悪意は無いと思っています。ただただ観ているだけでは解り難い人柄なんだと…

でも、十年掛かって解ってきたこともあります。
「自分には才能が無い」は本気で思っていそう。「努力で強くなれる」も本気で思っていそう。実際に努力は皆が認めていますし、強さは実績の通りです。そんな棋士はこの十年で永瀬王座しか見たことがない。賛否を起こす行いも、解り難い人柄も、全て将棋に振り切っている人間の証に見えます。凡人に理解されてるようじゃダメなんです。皆が才能の差だと諦めつつある天才を前にしても、最初ハナから努力だけで勝負してますと戦いを挑んでいく。負けても努力が足りていないと更に努力を重ねそうな強靭なる狂人。ここまで突き抜けた棋士にはアンチがいる方が自然なのかもしれません。

アンチではないけれど気には障っていた昔の私。いまでは気になって課金までして確かめたいほどに好きです。藤井六冠と競い合っては更なる努力の十年後、アンチを含めて何がどれほどに変わっているのか私には解るはずもありませんが、電王戦同様に期待を託して予想もしえない未来を待ちたいと思います。


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