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タイ・チェンマイで見知らぬタイ人男に追いかけられた話

チェンマイで、見知らぬ男の人に追いかけられた経験がある。1年以上もタイに住んでいれば、多少奇妙なことだってあるものだ。今回は私がチェンマイで経験した、小さいけれども意外と怖いトラブルを紹介する。


土曜の朝、郊外のアンティークマーケットへ

ある土曜日の朝、冷蔵庫には何も食材がなかった。MiniLotus(コンビニスーパー)へ買い物に行くついでに、自転車でぶらぶらしようかな。なんて思いながら外へ出た。そういえば家からそう遠くない場所に、アンティークマーケットがあると聞いていた。自転車で行ける距離だ。ということで、郊外のアンティークマーケットへ向かった。

このマーケットはチェンマイの北側、郊外の空き地に土曜日だけ開催される。一言で言うと、ゴミと区別がつかないようなアンティーク品が山のように並んでいる場所だ。しかし実際はガラクタだけでなく、興味深いものも多い。タイの伝統柄が施された古布、年季の入った木彫りの小箱、掘り出し物が盛りだくさん眠っている。歩き疲れた時には、飲み物やスナックを売っている人もいるので安心。タイティーを飲みながら、延々と広がるガラクタ(よく言えばアンティーク)の見物を楽しんだ。

男の人に声を掛けられる

自転車に乗って帰ろうとしたところ、1人の男が話しかけてきた。ヘルメットを被り、今にもバイクに乗って帰ろうとしている。30代前後の普通のタイ人ロゴの入った白い制服を着ているので、どこか公的機関の職員だろう。何か落とし物でもしたのかと思い、「何?」と返事をした。すると、「あ、タイ人じゃないの?中国人?」と聞いてきた。私のタイ語レベルは高くないのだが、簡単な会話は理解できてしまうのだ。

「中国人?」は、チェンマイでお決まりのフレーズだ。とにかくチェンマイには中国人観光客が多い。従ってそうに質問された時には、決まって「日本人だけど…?」と答えている。するとだいたいの人が、「えー、日本人⁈コニチワー。」などとノリノリで返してくれるのだ。これは私の憶測だが、チェンマイに若い日本人は少ない。リタイア層は多いのだが、日本人の若者が休暇で来るには少し遠すぎる。(2023年にやっと日本からの直行便が飛ぶようになったようだが、以前はバンコクか第3国経由でしか来れなかった。)そう言った具合で、多くのタイ人が若い日本人である私を歓迎してくれる

私はこの男にも「日本人だよ。」と答えた。すると、「えー!?、日本人!ここで何してるの?名前は?」などの質問攻めが始まった。何か違和感があった。だって普通は、見知らぬ人から声をかけられたりしないタイ人は結構シャイなのだ。バイクタクシーのお兄さんや、フードデリバリーのお姉さん。食堂のおばさんなど、何かしら接点がないと会話などしない。落とし物でもしたのならば理解ができるが、私は何も落としていないぞ何なんだこの人は。私は早く帰りたかったので、「タイ語わからない。」と言ってその場を去ろうとした。

バイクでゆっくり後ろをつけてくる

自転車をこぎ始めた。マーケットの前は、比較的大きい道路が通っている。家へ帰るには、この道路を渡らなければならなかった。タイの郊外へ行くと、信号はまばらだ。大きな交差点にしか信号機はついていない。従って道路を渡りたい時は、車が途切れるのを待たなければならない。私は車やバイクが途切れるタイミングを、気長に待っていた

すると先ほどの男が、後ろからバイクでやってきた。そして頼んでもいないのに率先して道路を渡り、誘導を始めたのだ。通っていた1台のバイクが速度を落としてくれて、無事渡り切った。もう一度言っておくが、決して頼んではいないもう嫌な予感しかしなかった。私は「ありがとうー。ばいばーい。」と言って、手を振った。それもだいぶ「ばいばーい」を強めに。男はにこにこと不気味に微笑んでいた

家の方角へと自転車をこぎ進める。しかし男もゆっくりとした速度でバイクを走らせている少し後ろから、私を追いかけているのだ。横に来たかと思うと、ほほ笑むだけ。まだ自転車をこぐと、後ろを追いかける。そんな具合に500メートルほど進んだろうか。これはやばいと思い、私は自転車を止めた。

「何?」と言った。男はバイクを止めて、タイ語をしゃべりだした。手でハートの形を作りながら、何か話している。それに、私が首にぶら下げているスマホを指して、「LINE!LINE!」と言っている。ここまで来たらもう恐怖だ。タイ語をしゃべらない人に向かって、タイ語でナンパしているのだろうか。信じられない。それに男の微笑みは、どこか不気味に思える。もしかしたら精神的な疾患があるのかもしれない。もうパニックに陥った。ただ一つ確かなことは、「変に怒らせてしまったら面倒くさそう」ということ。感情的になると恐ろしく暴力的になるタイ人を、ニュースでよく見かけていた。だから余計に心配になった。

最終手段はセブンイレブン

どうしよう。このまま家に帰ったら、家の場所を知られることになってしまう。でも帰らなければ、この男の意味の分からないタイ語のアタックは続くだろう。でも、変にこの男を刺激したくない。どうしよう、どうしよう…。と考えた結果、行きついたのがセブンイレブン。ここから数分ほど行ったところに、セブンイレブンがある。あそこへ行けば、常に複数の店員やお客さんがいる。店の前には屋台だってある。何か最悪の事態が起こっても、周りの人が仲裁してくれるかもしれない

私はセブンイレブンへと爆走した。しかし到着してみると、その男はセブンイレブンの中まで着いてきたなんという執着心なんだ。アイスクリームを指差し「どれが好き?」「プレゼントしてあげるよ。」など、にやにや話しかけてくる。私は必死に次の一手を考えた。店員さんに助けを求めようか。でも何と言ったら良いのだ。タイ語でなんて説明すれば良いのだ。

英語で相談出来たらいいのに…。色々と考えていたところ「彼氏に迎えに来てもらえばいいじゃん!」と、ふと思いついた。起きているかわからないが、電話してみた。すると幸運なことに、彼は電話を取った。通話を始めた瞬間、私は早口で話し始めた。ここ10分の間に起こったことを、超早口で話したと思う。「私も意味わかんないんだけど、変な男が話しかけてきて、そのまま私のこと追いかけてんの。とにかく不気味で精神異常者かもしんない。今すぐ迎えに来て、じゃなきゃ死にそう!」と大声で言っていた。

レジの前で半分怒りながら英語で電話をしている私。何も買わないのにただ電話している私を、レジのお姉さんは不審そうな目で見ていた。この頃になって、その男はあきらめ始めたようだった警察に電話していると思ったのかもしれない。段々と口数が減っていった。そして数分後には、ぶつぶつ言いながらセブンイレブンから出ていった

怖いのでセブンイレブンから外には出ず、私は彼氏を待った。セブンイレブンのお姉さんは、もう私のことは気にせずスマホを見ていた。こんなことは日常茶飯事なのかもしれない。数分すると、彼は寝起きのまま自転車で迎えに来た。もう一度事情を説明して、しばらく駐車場にとどまった。周囲を確認したが、その男はいないようだった。少し遠回りをして家へと帰った

男の制服のロゴは保健所だった

幸いその男をもう一度見ることはなかった。しかし私がアンティークマーケットへ行くことは、二度となかった。なんだか気味が悪いから。家に帰って、その男が着ていた制服を調べてみた。Googleやショッピングサイトの「Lazada」で検索すると、その服は普通に販売されていたタイ国保健所の制服だと書いていた

仕事の制服を着ながらナンパして追いかけまわすって、どういう考えなんだろう。いずれにしてもタイ人の中には、怒らせると怖い人が一定数存在するとよくニュースで目にする。薬物依存や精神的な病気を患っている人だっている。しかしこれはタイ人に限ったことてはない。どこの国へ行っても、変な人は存在する。日本にだって他の国にだって、どこにでもクレイジーな人はいるものだ

困った時は人のいる場所に行く。この決断は、大正解だったと思う。皆さんも、タイでトラブルに見舞われた時には、セブンイレブンをぜひ活用してほしいと思う。24時間365日、常に営業しているのだから安心だ。セブンイレブンは町の110番。それは日本もタイも変わらない。


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