ひとり芝居テキスト「月に行きたかった男」
男(語り部) 舞台に 現れる
目に見えない絵本を開き、語り始める
これは 月に行きたかった男の お話です
彼がまだ、子供だった頃、
彼は毎日 月を見つめていました。
月にむかって、いっぱい手を伸ばしました。
でも、月には届きませんでした。
何度となく、手を伸ばしましたが
月に届くことはありませんでした。
そうして、いくつかの昼と夜が 過ぎていきました。
ある夜のこと 彼は 近くの山に登りました。
山の上にのぼって、彼は力いっぱいジャンプしました
ジャンプする 語り部
でも、月には届きませんでした。
何度となく、ジャンプしましたが
月に届くことはありませんでした。
そうして、いくつかの昼と夜が 過ぎていきました。
ある夜のこと、彼は手にした石を 力一杯 月に向けて投げました
石つぶてを投げる 語り部
でも、月には届きませんでした。
何度となく、石を投げましたが
月に届くことはありませんでした。
いつも 彼は 月を見つめているのに
どんなに手を伸ばしても、
どんなにジャンプをしても、
どんなに石を投げても、
月には届きはしませんでした。
そうして、幾百幾千かの昼と夜が 過ぎていきました。
彼は子供から青年になっていました。
彼は科学者になっていました。
彼はロケットを設計しました。
彼の造った無人ロケットは、月に向かって狙いを定めていました。
3,2,1 発射
ロケットを発射し、ロケットの軌跡を追う 語り部
彼のロケットは空高く飛んで やがて見えなくなりました。
そして、とうとう ロケットは月に届いたのです
望遠鏡をのぞき 喜ぶ 語り部
次に 彼は 自分自身を月に運ぶ ロケットの研究を始めました。
どうすれば、そんなロケットが 造れるか?
丈夫なボディ、強力なエンジン、正確なコンピューター
彼は研究を続けました。
そのため、たくさんのロケットを月にめがけて打ち上げました。
そして、その月ロケットを完成するために
また幾百幾千かの昼と夜が 過ぎていきました。
彼は青年から大人になっていました。
とうとう、彼の月ロケットは完成しました
3,2,1 発射
彼を乗せたロケットは 轟音をあげて地上から飛び立ちました。
そして、ぐんぐん地球を離れていきました。
そして、彼は宇宙へと飛び出し、そして とうとう 月に到着したのでした
子供の頃から ずっと夢見ていた 月に着いたのです
ロケットを降りる 語り部
彼が ロケットから降り 見たものは
月の大地をえぐるかのように
いたるところに 突き刺さり 横たわる
ロケットの 残骸でした
それは まさに戦場の跡のようでした
彼は気付きました
彼こそ この月をむち打つ者
彼こそ 彼が愛した月を傷つける者
彼は 泣きました。
でも、彼の泣き声は誰にも 届きませんでした。
何度となく、泣き声をあげましたが
誰にも届くことはありませんでした。
本を閉じる 語り部
これが 月に行きたかった男の お話です
暗転
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