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ひとり芝居テキスト「石鬼」

第一幕 邂逅


・明かりつくと、舞台中央に全身に布にくるまれ、
異形の鬼の仮面をつけた男が座っている。
彼は眠っているかのようにじっとしている。
しばらくして、彼はうなり声をあげる。はじめは低く、やがて大きく。
どうやら、彼は目覚めたらしい

どれくらい眠ったのだろう?


いつから眠ったのだ?何もかも 忘れてしまいそうだ

そうか、あの神サマの馬鹿やろうが、この岩山に俺をとじこめやがって…もうずっと昔の話だ……

今ではこの岩山が、俺の身体そのものだやつのことを考える気もしねぇ。


・歌声が聞こえる


ん、なんだ誰かいるのか?

これは、歌? 歌か

人間がいるのか?

こんなところまで来るとは珍しいな


・歌をうたう人間を見る鬼


なんだ、ガキかなにうれしそうにうたってやがるんだ?


拝んでやがる

俺を神サマと勘違いしているのか?

馬鹿なやつ


…行っちまったか

まったく、人間ていうのは、どうして神サマなんかに祈るんだ?

あいつが何かしてくれるのか?

やれやれ また静かになっちまった。


・再び眠りにつく鬼


第二幕  女の子 


・目覚める鬼


ん、眠っちまってたみたいだな。

誰だ? 俺を起こすのは?

あぁ、あのガキか

なんだ、今日は 何 祈ってるんだ?


馬鹿か?

お前の親父は戦にいったんだぞ

無事に帰ってこれるわけないだろうが

お前は戦ってのを知らないんだよ

殺し合いをするんだ、仲間同士でな

弱いものから順番に消えていく。

すべてを奪っていくんだ

命を、誇りを、大地を、仲間を、そしておまえ自身もな…


それより、あれだ

歌を、そう あの歌を聞かせてくれ


…くそ、いっちまったか


しかし、なんでいつも人間ってのは戦をするんだ。

自分ひとりじゃ何もできないのか?

まったく…


・眠りにつく鬼


第三幕 娘


・目覚める鬼


うん、またお前か?

ずいぶん大きくなったな

昔は 小っちぇガキだったのに、

今じゃ立派な娘だ。

なんか言ってただろ

そういえば…親父は帰ってきたのか?

まぁ、無理だろがな

そんなことより、歌だ

あの歌をうたってくれ


また、祈ってるのか

はははは、今度は夫か?

まったく、

そんな祈っても無駄だってことがわからねぇのかよ。


うん、子供はらんでいるのか?

もしその子供が男だったら、

お前の夫と同じように戦に行くだろうさ。

もし女だったら、

お前と同じように祈るだけしかないさ

結局 同じことの繰り返しなんだよ

神サマなんかに祈っても無駄なことさ。

あいつは、俺みたいな邪魔者を黙らせることしかしねぇんだよ

もしお前ら人間の味方だっていうなら、

殺し合いなんかおこさねぇよ

所詮お前らもあいつと同じさ

自分の都合だけを勝手に押し付けやがるんだ。

そして、力のあるものだけが 威張り散らしているだけさ。

あ~あ うんざりだ


第四幕 母


あいかわらず 来たのか?

しかし よくここまで来れたな

このあたりも、だいぶ景色が変わってしまったな。

まったく、こんなに焼き払っちまったら、

お前らはどこで暮らすつもりか?


だいぶ年をとったな、おめぇも

人間ってのは俺とちがってあっという間に年とるからな。

今日はなんだなにを祈るんだ?

…息子を返してください?

そうか、男だったのか

……だから言っただろうが

男だったら戦に行くってな

もういい加減 祈るのはやめたらどうだ

祈ったところで、何一ついいことがないことぐらい、わかっただろうに。

なにを信じているんだ?神サマか? 仲間か? 奇跡か?

なににせよ、俺のところに来るのは間違いだ。

俺は一切動くことができないんだからな。

ま、動けたとしたも、お前のいうことなんか聞く気もないけどな。


まぁ、あの歌をうたってくれれば、考えなくもないがな

…今日も歌わないのかお前

いつから歌っていないんだ?


最終幕 老婆


よう生きていたのか?

よく無事だったな

このあたりの山々も形が変わっちまった

俺の身体も結構えぐられちまったよ

まったく、なんで祈り続けるんだ?

お前はそのために生きてきたのか?

誰かの力が本当に必要なのか?

動けない俺の力が必要なくらい、お前たちは無力なのか?

いまさら なにを祈るんだ?

早く 世界中の人たちが 笑顔で暮らせますように

…… おい、人間

俺は知ってるぞ

お前たちは生まれたとき、泣いて生まれるんだってな

生まれたときから、死ぬときまで泣き続けてるんだってな

笑顔ってなんだ?

お前たち 本当に笑顔が必要なのか?

だったらなぜ 自ら捨てるまねをするんだ?

おい、人間お前たちは動けるんだろ?

声を出せるんだろ?

どこへでも行けるだろ?

ならなぜ、俺や神サマにすがるんだよ

おまえ、歌はどうした?

あの時 まぶしいくらいの笑顔と一緒にもっていた歌はどこにやったんだ?

あれは 俺も 神サマも持ってねぇよ

だから、だから歌ってくれあの歌を


・歌を聴く鬼


なんだ、歌えるじゃねぇかよ

まったく、出し惜しみするんじゃねぇよ

ん? どうした

こら、もっと歌えよおきろ、こら

そんなところで倒れていないで、歌え!



…どうして、どうして人間ってのは こんなにひ弱なんだよ



まったく、静かに眠らせてくれ。

さもないと、俺はまたこの身体を動かしたくなる。

気に入らないものすべてを黙らせたくなる。

あの神サマのくそ野郎と同じさ。

壊しても、壊しても、いつまでたっても満足しないままになる。

たのむ、静かに眠らせてくれ誰か

歌をあの歌を…あの歌を歌ってくれ


暗転


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