氷解
10年以上無視し続け、それでも定期的にきていた彼からのメッセージに、ついに返信をした。
感情に蓋をして縁を切ったつもりでいても、人はどこかで繋がっている。
実際、あの時最終的には私から連絡を絶ったにも関わらず、喉の奥に小骨がつっかえているような感覚が消えなくて、折に触れては彼のことを思い出していた。
でも、そろそろ本当に手放しても良い感情なのかもしれないと思う時期がきて、メッセージを返した。
やりとりは至ってシンプルで、2〜3日かけて、1通くらいずつお互いがメッセージをし合う形で終わった。彼はこのやりとりを「氷解」と表現した。
改めて彼のことが好きだった日々、そのためだけに照準を合わせて生きて、ペースがめちゃくちゃになって、自分らしくなかった頃のことを思い出す。
初めての待ち合わせは歌舞伎座。
彼が人目を避けるように黒い帽子を目深に被りながら、幕間に隣の席に座ってきた瞬間に、私の磁場は狂った。人生を棒に振っても良いって、こういう事かというような一瞬の恋だった。
私にとって彼は紛れもないスーパースターだった。
だけど今、彼が目の前に現れても懐かしい感情しか湧かないだろう。
氷解して、昇華して、後には思い出だけが残って、ちゃんと終われたんだなという感覚。
結構な頻度で何度も人間関係をリセットして生きてきて、いろんなことが細かくぷつぷつと途切れてる人生だったけど、生きてる限り本当は切れてるわけじゃなくて、ただそこで一時停止してるだけで、駒は動かせば何かしら事は進むのかもしれない。
「おわり」というマスの前でうやむやにしていた駒を、きちんとゴールに送ることができた気がする。
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