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27クラブか、お達者くらぶか
この文章はタイトルから先に書き始めている。くだらない、ほんとに我ながらくだらないタイトルだが、このまま行くつもりだ。お達者くらぶはともかく、27クラブとは何なのか、古いロックに興味のない人にほとんど馴染みのないクラブだと思うので説明しておくと、60年代後半のロック界ではLSDなどのドラッグやアルコールに耽溺することが流行のようになっていて、若くして亡くなるロッカーが続出した。その享年が「27歳」という不吉な符合がいくつも重なったのである。ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ブライアン・ジョーンズ、ジム・モリソン、あとは誰だっけ、Wikipediaで調べてみよう……
バッドフィンガーのピート・ハム、ビッグ・スターのクリス・ベル、どちらも大好きな70年代パワーポップバンドの主要メンバーだったが、27歳で亡くなっている。そして60年代ロックよりずいぶん前の話だが、エリック・クラプトンをはじめ60年代ブルースロッカーの多くに絶大な影響を与えたブルースマン、ロバート・ジョンソンも1938年に27歳で亡くなったらしい。そして、あまりよく知らないのだけどエイミー・ワインハウスも2011年に27歳で亡くなっている。そして、ここまでわざと触れずにきたが、忘れもしない1994年の4月、ニルヴァーナのカート・コバーンが27歳で自死している。そもそも、そのときに彼の母親が「(息子も)あの愚かなクラブに加わってしまった」と発言したことが、「27クラブ」という言葉が生まれるきっかけだったのだという。それまで「27クラブ」なんてクラブはなかったのか……それは今初めて知った。
生い立ちは不幸だったらしいし、稀代の才能もカリスマも持ち合わせていたのだが、シアトル郊外の田舎で育った一介のロック好き青年に過ぎなかったカートが、既成のロックの流れに対する「代わり(オルタナティブ)」の旗手としてたまたま時代の流れで求められて、世界のてっぺんまで持ち上げられた。自分は音楽がやりたいだけ、こんなロックスターになんかなりたくなかった、という意味のことを何度もインタビューで語っていた。望まぬ環境の激変でドラッグに溺れ、もともと持っていた精神の病を悪化させて、27歳で亡くなってしまった。1991年末、「Smells Like Teen Spirit」のブレイクでニルヴァーナのことを知り、1994年4月に至るまでの成り行きをリアルタイムで追いかけていた自分は、この結末について未だに正面から見られない。ただ、人気絶頂のときに27歳で亡くなったことで世界中の注目の的となり、ロック界の新たな「伝説」に祭り上げられ、未だにその視点から語ろうとする人ばかりである現状に、自分はほとほと嫌気が差している。これは故人が望んだこととは正反対であるとよく知っているから。だから、ニルヴァーナやカートについて語る文章でタイトルに「伝説」の2文字が入っていると、その時点でもう読む気をなくす。安易にその2文字を使うんじゃねえよ、どうせ何も知らないくせに、と腹が立つのである。
……あれ、こんなに激しい調子の文章を書くつもりではなかったんだがなあ。やはり、カートの死について自分の中ではまだ整理できていないみたいである。もう今年で31年も経つというのに。31年って、どれだけ。もうカートの生涯より4年も長い年月が経つわけである。自分はもちろん27歳なんて余裕でクリアした。あっという間に30歳になり、40歳になり、50歳になった。この調子で、27クラブの4倍は生きてやるさ。待て、4倍って何歳よ……27かける4、108歳か……ちょっときついな。ここは3.5倍ぐらいにしておこう。94.5歳。自分の祖父母では一番長生きだった母方の祖母が93歳だった。まあ途中で大きな病気や事故がなければ自分もそれくらいは生きるだろうと見ている。若くして美しく散って、「伝説」の27クラブ入りなんかするより、お達者くらぶに入って長く生き延びてやろう。無様な姿をさらして、もう明日にでも死にたい、死にたい、とか言いながら、94.5歳までは生きてやろうじゃないか。まったく気が遠くなる話だが、一日一日、闇雲にでも生きのばし続けてみよう。