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甲州街道はもう秋なのさ(まだ夏だけど)
思えば国道20号、いわゆる甲州街道とは縁の深い人生である。実家は東京の甲州街道と環状7号線の交差点近くにある。首都高も高架で甲州街道と並行していて交通量が非常に多く、自分が知る限りでは空気汚染の濃度が日本一高いことで有名な交差点である(現在はどうなのか知らない)。真夜中に街が寝静まっても、「しゃーー」という圧縮された交通の音だけは甲州街道の方角から絶えることがなかった。それが普通の当たり前だったので、田舎で暮らしていると夜は本当に無音状態で静かだなあと思う。実家を出てからもしばらくは甲州街道沿いを西へ西へと移動しながら暮らしていた。海外暮らしを経て日本に帰ってきたら、さらにずっと西に移ったけど相変わらず甲州街道は自宅から徒歩ですぐのところにあった。3年ほど千葉に移って甲州街道と一時的に離れたのち、中古の家を買って現在暮らしている場所はやはり甲州街道の西の端にほど近い。あちこち移動しながら暮らしたヤドカリ人生だったけど、予定どおりここが終の棲家になるのなら、結局自分は最後まで甲州街道とともにあることになる。
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今朝は「嘘ばっかり、嘘ばっかり、嘘・嘘・嘘・嘘」というフレーズが頭をぐるぐるしていて、「甲州街道はもう秋なのさ」を思い出したのである。初期RCサクセションの、胸をかきむしられるような鮮烈さが隅々まで澄み渡った純度で叩き付けられる、名曲中の名曲。どいつもこいつも嘘ばっかりついて暮らしているし、自分だって大嘘つきである。このアカウントには「noname420」というユーザーIDを付けているのだけど、ずっと名無しの存在として書き続けたいという「noname」に、インドでは「詐欺師」を意味する「420」を付けたものである(インド刑法で詐欺罪に当たる第420条に由来するらしい)。420はヒンディー語でチャールソービースと読む。大嘘つきだから420、名無しのチャールソービースなのだ。
某スマホのOSにアップデートが出たらしく、「アプデ」という言葉が飛び交うのを見て、どこぞで見かけた「人権感覚をアプデしなきゃね」という言い回しを思い出し、何だかむかむかしてきたのである。「OSをアプデ」は、別にいい。OSのアップデートは必要なファイルをダウンロードしてプロセスを走らせて、再起動すればできる。でも「人権感覚をアップデート」なんて言い方は本当に軽薄で表層的だと思う。みんなが言ってるから、欧米ではそうだから自分もアップデート、というのではなく、もっと人間の根源的な価値にかかわることだ。その時代の人気者があからさまな差別を笑いのネタにしていればホイホイと真似をして、世間的に差別はアウトとなったら「アプデ」だとか何だとか、ずいぶんと軽いものだ。
自分は若い頃に外見のことでずいぶんと色々言われて、ばかにされた苦い経験がある。あれから何十年も経ってようやくルッキズムなんて言葉が一般的になって、よかったねと思うけど、人々は本当に理解して言ってるのかなと思う。人権うんぬん以前に、外見のことで人をばかにしてはいけないなんて、本当に根源的に当たり前のことだ。なぜ何十年もそのことが理解できずに、今さらルッキズムはいけません、アップデートしなきゃ、なんて急に言い出してるのか、自分にはさっぱりわからない。こんな当たり前のことも、世間で大々的に言われなければわからないなんて。だから自分は、人間に対して「アップデート」とか軽々しく口にする連中のことは信用できない。軽薄な嘘つきだ。嘘ばっかり、嘘・嘘・嘘・嘘。