「マインドハンター」狂気の4周目
気にいると同じものをしつこく見てしまう私。もともと骨太なシナリオのサスペンス系ドラマが好きだが、その中でもNetflixのオリジナルドラマ「マインドハンター」は1番好きな作品かもしれない。アメリカで実在したシリアルキラーと、その行動や心理を研究し、犯人像の仮設を立てるプロファイリングを確立したFBI心理分析捜査部署のスタートアップを描くドラマである。1周目はハイペースで見ていたら終わってしまい、喪失感から2周目を見て、続編が未定という事実に耐えきれず原作を読み、なんとなくドラマを見返したところ、本で読んだ知識からよりドラマが理解できるようになり、再び通して見てしまい3周目、そこから1年のブランクが空く。つい先日、知人に強く勧める機会があって知人も見ると言ってくれたものの、果たして序盤から面白かったか不安になった。しかし見始めたらフツーに面白くて安心したものの現在もその続きを見ている。現在4周目、S2の半ばである。合掌。
サブスクの台頭でこの世は面白いドラマが巷に溢れているけれど、その中で自分好みのものに出合えるかというと、あるようでなかなか無いなと感じる。そんな中、マインドハンターは好みだった。なぜ人間が凶行を…?という疑問と興味がずっとあって、なぜその犯行に至ったのか、というバックボーンを、犯人へのインタビュー(実在の人物・事件を元に作られた脚本)で掘り下げる本作はまさにうってつけであった。
事件当時のことや加害者自身の境遇や半生を話して欲しいと言って、見ず知らずの何の義理も無い相手、しかも強い反発心や警戒心があるFBI捜査官に対し、従順かつ素直に語り始める受刑者はまずいない。犯行にいたった理由、おそらく自身の根深いところ——トラウマや自身が隠したいと思っている弱みなど、核となる部分について聞き出す訳だから、それを引き出すために、テクニックや対話の駆け引きがあるのが本作では丁寧に描かれており、それがスリリングでとても面白い。例えば野卑な言葉を使う相手には、それに合わせた言葉を使い、共感性を高めて相手の興味関心を惹いたり、ときには相手の境遇に寄り添い、捜査官のマイノリティな嗜好などの情報を先に提示するなどの工夫は、実際に優位に働いて見ていて好奇心をくすぐられる。ただ、「マインドハンター」は事実に基づいた構成のため、子どもへの加害についても相当あるので、無理な人も多いと思う。
大抵の映画ではショッキングなシーンを用意して犯人が捕まるまでを描くけれど、個人的に知りたいのはそこではなく〜と思っていただけに、マインドハンターは嬉しい出合いだった。シリアルキラーといえばその残虐性から、全員が会話も通じない相手なのかと思っていたが、それは全く違った。しかもある共通点があり、シリアルキラーの多くが家庭環境に問題があり、ネグレクトされている。幼少期から多感な少年期にかけて自尊心を徹底的に潰されると、その多大なストレスを吐き出すために、弱いものへの加害へと意識が向かうようだ。
シリアルキラーのタイプは多種多様だ。虚栄心や承認欲求が動機で世間から注目を浴びることが動機の、ごく個人的で矮小な人間もいれば、なるべくしてなってしまった別レイヤーに存在する人間もいる。FBIプロファイラーが印象深いと語るシリアルキラーのエド・ケンパーは、まさに「別レイヤーの人」なのだけど、家庭環境や幼少期の話が全て真実であるのなら、同情もしてしまう。彼が話すときに選ぶ言葉の数々は詩的で知性を感じる。実際IQ140で、FBIのプロファイラーが話していても相手の方が遥かに頭が良いと感じることが度々あり、誤解を恐れず言うならば魅力的ともいえる人物だった、と原作で紹介されていた人物。ドラマでも鮮烈な印象を与えていて、初めての対話シーンでは、言葉や態度は柔和で冗談も交えてユーモラスだが、何を考えているのかわからない、底が見えない胡乱な視線が怖かった。
エド・ケンパーが自身の境遇や殺戮に至る理由の情報開示は、FBIプロファイラーたちに知見と今後の指標に大きな影響をもたらす。彼の話をきくと、加害の一つ一つに理由があることがわかる。ケンパーのような「秩序型」に分類されるシリアルキラーたちは、それぞれ独自のロジックに基づいて行動を起こしている。それが何なのか、それはドラマをみて確かめて欲しい。そして一緒に4周しよう。さらには監督デヴィッド・フィンチャーのスケジュールが暇になって、S3の制作が始まる祈祷もお願いします。