マンモグラフィ「高濃度乳房(デンスブレスト)」が抱える様々な問題

平素より大変お世話になっております。
のーないすこうぷでございます。

今回はマンモグラフィ検診で最近話題に上る「高濃度乳房」についてです。例によって法的にクリアとなっているマンモグラフィ画像を持ち合わせていないので、参考画像に乏しいです(誰か提供してくれませんか?


「高濃度乳房ってなに?」という方は以下のサイトもご参照ください。

高濃度乳腺~デンスブレスト~って? 
(くまもと森都総合病院 乳腺センター)

※本当は高濃度乳腺ではなく「高濃度乳房」を使うよう通知されています。


○マンモグラフィ検査の限界と高濃度乳房

乳房内は乳腺組織と脂肪組織とが混在しています。
そして、マンモグラフィでは乳腺組織が白、脂肪が黒く写ります。
この乳腺組織と脂肪組織との混在がマンモグラフィの白黒グラデーションを生み出し、乳腺・脂肪の割合の違いが白黒コントラストにつながっています。

ところでマンモグラフィの2大所見である腫瘤と石灰化ですが、これらについてもマンモグラフィでは白く写ってきます。

このため、乳腺組織が豊富な乳房内に腫瘤や石灰化がある場合、白い背景の中で白い所見を探すことになり、感度(所見ありを見落とさない確率)が落ちることがわかっています(見落としが増える)。

また、(因果関係は不明ですが)少なくとも高濃度乳房と乳がん発症リスクとに相関関係があることもはっきりしています。


マンモグラフィにおける乳房の構成と特徴は以下の通りです。

下記の分類のうち「不均一高濃度」+「極めて高濃度」=「高濃度乳房」です。

プレゼンテーション2


○日本人に多い高濃度乳房と「Are you dense?」

この高濃度乳房、欧米に比べて日本人に多いとも言われています。
年代別の頻度は以下の通りです。

乳房の構成と割合年代別

高濃度乳房に限ると以下の通り(同報告書より)

年代別高濃度乳房

デンスブレストワーキンググループによる対策型乳がん検診における「高濃度乳房」問題の対応に関する報告書はなかなか興味深いので、PDFリンクも張っておきます。
https://www.qabcs.or.jp/archives/001/201703/170321_2.pdf


このように、マンモグラフィ検診受診者にとっては不利な医療情報(個人情報)ではありますが、これが受診者に伝わらないことは受診者不利益につながるのではないかという社会運動「Are you dense?」が米国で起こり(2007年頃だったかな?)、現在では米国50州のうち36州で告知義務の法制化がなされるに至りました。


『日本も乳がん患者は増えているのに、なんで日本では「高濃度乳房(デンスブレスト)」の告知が法制化されないの??』


これが、マンモグラフィにおける高濃度乳房問題です。


ここまでで一旦(リンク先なども含めて)問題点をまとめておきます。

・乳房内に乳腺組織が豊富な場合、マンモグラフィでは「高濃度乳房」として写し出されるため、検診の感度が落ちる。
・「高濃度乳房」は若年、授乳経験乏しい女性に多い。
・「高濃度乳房」は乳がん発症リスクの一つである。
・日本人女性は特に「高濃度乳房」の割合が多いと言われている。
・米国では大半の州で告知が義務付けられているが、日本ではそのような義務はない。

これらの問題点を読めば、なぜ「高濃度乳房」の告知義務が日本にないのか疑問に思う方が大半ではないでしょうか。


ところが、この「高濃度乳房」問題。別な視点でも様々な問題もはらんでいます。


○「高濃度乳房」の判定基準は読影医ごとに大きく異なる

画像2

                  Ann Intern Med. 2016;165:457-464.

上の図は、読影医によって「極めて高濃度」「不均一高濃度」「散在性」「脂肪性」の分類に偏りがあることを示しています。スクリーニングに対してほとんど「散在性」とつける読影医がいる一方で、ほとんどが「不均一高濃度」という読影医もいることが分かります。

それぞれの分類については定量的な基準があるわけではなく、読影医による定性的な基準(大まかな基準はあるが、最終的には『見た目』で決まる)によって分類されるため、上図のように見る人によって大きな偏りが生じています(これらの偏りは、前述した構成と割合での%に開きがあることや、日本でのマンモグラフィ講習会、自治体乳がん検診*でも確認されています)
*対策型検診のマンモグラフィ検査での,読影医による乳房の構成の判定における偏りについて  日本乳癌検診学会誌/27 巻 (2018) 1 号


○高濃度乳房と乳がん発症リスクに因果関係はあるか

高濃度乳房の乳がん発症リスクが脂肪性乳房に比べて高いことは全世界的に明らかなのですが、その判定基準があいまいであったり、高濃度乳房の比率と乳がん罹患率とが比例しない(高濃度乳房が多いはずの日本人より米国人のほうが乳がん罹患率が高い)など、やや説明のつかない点もあり、説明・指導方法については統一できていません。
高濃度乳房告知の法制化も、なされたのは米国のみで、世界的には特に告知もしない風潮であることも、議論が進まない原因となっています。

*ちなみに個人的見解としては、高濃度乳房と乳がん発症リスクの関係は、高濃度乳房そのものの問題ではなく、歳を重ねても高濃度乳房が維持されるライフスタイル(閉経が遅い、初産年齢が高い、授乳期間が短い)の方がポイントなのではないかと考えている。


○高濃度乳房に対する適切な対応・検診方法ははっきりしていない

『「高濃度乳房」に対しては超音波検査を併用しましょう』というのが、高濃度乳房問題の結論のように語られることが多いが、厳密にはこれについてもエビデンスに乏しいです。

「正しい乳がん検診とはなにか」https://note.com/nonaiscope/n/n84c4e9ef5edd

上記エントリー内で、超音波検診についての臨床試験(J-START)を紹介しましたが、この臨床試験結果で今後明らかになるのは「40歳代女性に対する乳がん検診はマンモグラフィ単独がいいのか、マンモグラフィ+超音波併用がいいのか(どちらがより乳がん死を減らせるか」です。

いくら40代女性に「高濃度乳房」が多いといっても、J-STARTの結果から「高濃度乳房」であった受診者に対しても超音波検査併用がいいと『結論づけることはできません』。
また、「高濃度乳房な場合は超音波検査を併用しましょう」を示した臨床試験もありません。
現状では、高濃度乳房であろうとなかろうと2年に1回のマンモグラフィが最良のエビデンスになります。


○米国と日本とでは乳がん検診の制度が異なる

個人の考えに従い、個人が選んで検診を受ける「任意型検診」の米国と違い、日本のがん検診は自治体が行う「対策型検診」が中心であるため、「高濃度乳房」に関する告知を行うのであればその説明・指導・費用に関する負担は自治体が負うことになります。「高濃度乳房」に関する適切な対応方法もはっきりしない中、これらの負担を自治体は負うだけの余裕は少ないでしょう。
乳がん検診関係3団体が行った提言でも、「対策型検診において受診者に乳房の構成(極めて高濃度,不均一高濃度,乳腺散在、脂肪性)を一律に通知することは現時点では時期尚早である。乳房の構成の通知は、今後検討が進み対象者の対応(検査法等)が明示できる体制が整ったうえで、実施されることが望ましい*」とされています。
対策型乳がん検診における「高濃度乳房」問題の対応に関する提言


あなたが高濃度乳房であるか否かを知りたいのであれば対策型検診としての乳がん検診で問い合わせるのではなく、人間ドックなどの任意型検診を受けた上で医師に確認すべきという意見もあるのですが、これもまた日本の医療保険や検診制度を鑑みると妥当と思われます。


○現実的には併用がよさげ

とはいえ、現場レベルでは「高濃度乳房」であった場合は超音波検査併用を提案することは多く、自分が担当している健診センターでもそのような通知と健診センターの見解として超音波検査の追加をおすすめしている旨の説明を行っています(この場合の超音波検査費用は自費になる)

実際にこの通知を受け、「自費でもいいので超音波検査を追加したい」という方や、マンモグラフィと超音波検査を交互に受けるなどの工夫を行う方もいる一方で、高濃度乳房であることを悪くとってしまう方もいて、伝えることの難しさもまた感じています。

ここまで書いた理由から、自治体による乳がん検診で「高濃度乳房か否か」を確認できる機会は少ないと思われますが、個人にとって重要な医療情報でもありますし、超音波検査のレベルも向上しており、併用のメリットを高く見積もる方もいるでしょう。もし聞けるような環境にある場合は、確認してみるのもいいと思います。

そしてできれば、経年変化なども説明してもらうと、より自分の「乳房」を知ることができていいのではないでしょうか。そのためには、そうです。乳がん検診は同じ場所で受け続けるのです。

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