【2021-】生ごみ堆肥づくり【#コンポスト #発酵】
なぜ、生ごみ堆肥なのか?
ダンボールコンポストから始まった私のコンポストづくり。
それは、微生物との出会いであり、微生物がもたらす発酵のチカラの凄さの体感であり、私が土づくり、ひいては農業をやってみたいと思うきっかけになった。
コンポストBOXを作っていた当時の私は、まだ福祉就労の段階だった。
発達障害と双極性障害を抱える精神障害者として、B型の就労継続支援、いわゆる「作業所」で働いていた。
だがこの時期から、私は体調を徐々に回復してきており、元々自立度が高いこともあって、作業所の仕事が簡単すぎるように思えてきた。
2021年の1月、私はとある就労移行支援事業所に見学に行っていた。一軒家のようなアットホームな佇まいのその事業所のスタッフの人と話をしていて、
「ところで吉田さん(私の戸籍名)はどんなことに興味があるの?」
という話になった。
私は、ご存知のようにこれまで色々やってきた(やらかしてきた)。その中でどの話をしようか一瞬悩んだ。だが、咄嗟に口をついて出てきたのは
「実は自宅でコンポストをやってるんです」
の一言だった。
それを聞いたスタッフの人がえらく面白がってくれて、
「実は、うちの事業所の裏庭を畑にしようと思うんだよね」
という話までしだすではないか。
私はその言葉を聞いた瞬間、この事業所に即刻、一目惚れをしてしまった。なかなかにクレイジーでフリーダム、最高の事業所だと思った。
かくして、私は働いていたB型の作業所を1年で辞め、その就労移行で就職活動をする傍ら、同時に事業所の畑を担う責任者になることにした。
就労以降に通い出して最初は、私がやっていたようなダンボールコンポストを勧めて事業所で出ていた生ごみを土に還していた。同時に、「農業体験をしたい」ということでとある有機農家さんとつながって早くもそこで体験実習をしていた。
しばらくしてからFacebookで鴨志田農園が主催する「生ごみ堆肥化入門ワークショップ」を知った。
生ごみからいかに良質の堆肥をつくるかを調べていた時、鴨志田農園の鴨志田純さんのこの記事をたまたま読んで、私は感銘を受けた。
生ごみ堆肥作り、公共コンポストを、岩手でもやりたいと思った。
そして、この記事を通して橋本力男という人の存在を知った。堆肥作りに関して、本も出版している。絶版本なのでプレミアがついてしまって入手困難だが、奇跡的に近所の岩手県立図書館に蔵書があるので借りて、今でもたまに借りて読んでいる。
この本から学んだことは数えきれない。何より印象深い箇所は、力男氏が畑づくりでうまくいかず、先輩の自然農をやっている農家にこれこれこうで困っているとを伝えた時、
「お前、それは土が腐っているからだよ」
と言われた、というシーンだ。
これを読んで、私は自分がこれまで1年かけてやってきたダンボールコンポストは間違いだったとはっきり知った。私のコンポストの土は腐っていた。だから、何も育たなかった。
生ごみからいい堆肥を作りたかったら、生ごみを腐敗させるのでなく、発酵させるしかない。
そのやり方を、本当は私も橋本力男氏から直々に学びたいところだったが、何せ三重、岩手からは遠すぎる。
結局、足の届く範囲で学びに行けるところとなったら、東京・三鷹の鴨志田農園ということになり、鴨志田農園は野菜栽培基礎講習をはじめ非常に熱心に講座・ワークショップを開催しているところなので、私も習いに行くことにした。
ちょうどコロナの第5波が到来して波がおさまりつつある頃、3回目の緊急事態宣言がそろそろ明けるか明けないかの頃のことだった。
鴨志田農園で教える生ごみ堆肥作りの特徴は、何と言っても次の3段階を経て完熟堆肥を仕込むという点である。
床材づくり
一次処理
二次処理
床材は、もみがら・米ぬか・落ち葉・壁土の4種類の資材からなる。それぞれ、土壌における炭素分(C)・窒素分(N)・微生物(B)・ミネラル(M)の役割を果たしている(CNBM分類)。これらの資材をサンドイッチ状に積んだ後、切り返しを2回、部分的にサンプルを取って水分調整をする。この時、全体の水分が40%になるように調整をして、サンプルの「全体仕込み量」倍分の水を加える。また2回切り返してから堆肥舎に積む。仕込んでから数回切り返し作業はあるが、だいたい1週間〜10日ほどで出来上がる。
仕込んだ床材はケースに入れて、その中に日々の生活で出る生ごみを入れていく。これが、一次処理。この段階では、まだ堆肥でも何でもない。
ケースにたまった生ごみの山を集め、追加で米ぬかと壁土(必要に応じて落ち葉)を積み、床材を仕込んだ時のように、2回切り返し→サンプルで水分調整(全体の水分量が50〜60%になるように)→全体の水分調整→2回切り返し、を行う。そして、堆肥舎に積んでから1ヶ月間、60℃以上の温度をキープし続ける。これが、二次処理、生ごみ堆肥作りのキモとなる部分である。
実際にやってみると、これがまた大変な重労働であることがわかる。
とりわけ、二次処理の仕込みの際の切り返しは、そこそこ重量があるせいかかなり腰にくる。写真の二次処理の山も、大の男たちが4人がかりでゼェハァ言いながらやっと切り返すことができたというやつである。堆肥作りって過酷なんだな、ということをまざまざと体感した。まざまざと体感しておきながら、でも話を聞けば聞くほどやりたくてしょうがなくなっている自分がいる。
岩手に帰ってきてから、通っている就労移行支援事業所に頭を下げた。
「裏庭に堆肥舎を作りたいんですけれど」
そして、ワークショップで純さんから教わったことを伝えながら、どうしたら生ごみ堆肥が作れるか、これまでやってみてもらったダンボールコンポスト式のコンポストと何が違うのか、ありったけの熱量で伝えてみた。
例によって、スタッフの人は「吉田さん。いいねぇ〜」と面白がってくれた。いよいよ2021年の10月から、堆肥舎を作る計画を始動させる。
目標・価値・実現方法
目標
事業所の裏庭に堆肥舎を作る
堆肥舎で床材を仕込み、一次処理を始める
二次処理をして、完熟堆肥を仕込む
比較栽培実験をして、仕込んだ堆肥でどれだけ作物が育つのか実験する
価値
私自身の価値:鴨志田農園で学んだ生ごみ堆肥を実践できる。この経験を通して、他のところでも生ごみ堆肥作りをやるために何が必要かを考えられるようになる
事業所にとっての価値:事業所で出た生ごみを堆肥化させることで、
事業所自体の出す生ごみを削減できるとともに、
事業所でやっている畑の土壌が改善し、
結果的に作る野菜の品質をより上げることができ、
野菜の売り上げや、通っている利用者さんのQOL向上につながる
地域にとっての価値:事業所での取り組みが一つの事例となれば、盛岡での生ごみの再活用に新たな可能性が生まれ、サーキュラーエコノミーが盛岡で実現する可能性が一歩近づく
実現方法
まずは、堆肥舎建設のためにどういったプロセスが必要かを、事業所のスタッフの人と検討していった。大まかに分けて、
堆肥舎建設予定地のがれきや石の撤去と計測
堆肥舎の設計
同時に、建築確認申請が必要かどうかも調査
設計図に基づいて、ホームセンターで材料の選定
建設にかかる予算作成
地ならし、水平を取る
堆肥舎組み立て
堆肥舎設置
といったプロセスが必要になる。
加えて、床材を仕込むための材料調達も考えなければならない。
必要な材料と入手できる時期はそれぞれ若干ずれており、米ぬかと壁土以外はタイミングを逃すと入手が困難になる。
もみがら:ライスセンターで手に入る。10月中旬の脱穀時期をピンポイントで狙っていかないと全て回収処分されてしまう。
米ぬか:ライスセンターで手に入るほか、コイン精米機でいつでも手に入れることができる。
落ち葉:11月中旬から木々の落葉が始まる。落ち葉シーズンになる街路樹の落ち葉を掃き集めたり、山に入って落ち葉をかき集めたりして入手する
壁土:そもそも「壁土」とは「古民家家屋の解体現場で出た壁に使われている土」のことだが、そう簡単に手に入らないので、ホームセンターで手に入る赤玉土で代用した
言うまでもないが、大量にこれらの資材を使うため、資材の置き場所をどうするかという問題も当然発生する。
やってみると結構、時間と体力の勝負だった。
実現プロセス
すべては、このがれきを片付けるところからスタートした。最大4人くらい手伝ってもらって何とか終わらせたが、結構しんどい作業だった。
片付けながら同時に、私は堆肥舎の図面を描き始めた。
CADソフトの扱い方は、かつて電気工事士になるために通っていた学校で習ったことがあり、図面の描き方は一通りやったことがある。だが、今回は実に8、9年振りに触ったので、結局、検索したりYouTubeを見たりして操作方法を一通り復習する必要があった。でも、図面を描くのは楽しかった。
図面を描く時最も苦労したのは、建築確認を取る必要のない堆肥舎をどう組むかだった。
事業所のある場所は市街化調整区域かつ準防火地域というなかなかに面倒臭い場所にあるため、要するに「建築物」を勝手に建てるとまずい上にものすごく面倒なことになる。
そこで「小規模な倉庫」の要件を満たした堆肥舎であれば建築確認も必要ないはずだ、という方向性のもとで図面を設計していった。こういう制約のある設計作業は個人的にものすごく燃える。
最終的に、堆肥舎というよりは堆肥仕込みBOXを木で作り、それをコンクリートブロックの上に乗っけただけ、という構造にすることで落ち着いた。
この辺りになってくるとある程度必要な部材も固まってくるので、Googleスプレッドシートで予算を出したりもした。材料の価格はホームセンターに足繁く通って算出した。
予算が出ていよいよ事業所からGoサインが出たところで、水平を取る作業が始まった。元建設業のスタッフさんに教わりながら、地道に水平をとっていった。この作業をきっちりやることを怠ると、作業中に堆肥仕込みBOXがガタついたり、思わぬ破損の原因になりかねない。
堆肥仕込みBOXの躯体の作成はそれなりに時間がかかったが、やはり大工仕事が楽しくて、うっかり制作途中の画像を撮るのを忘れて夢中でやった。この状態に前板を取り付けて、堆肥仕込みBOXは完成した。
時に11月下旬。もみがら・米ぬか・落ち葉・壁土(赤玉土)も無事揃えることができた私たちは、床材の仕込みを開始した。
床材が無事60℃を超え、白いカビがびっしり生えたのを見た時は嬉しかった。これだよこれ、これを実現したかったんだと、私は興奮しっぱなしだった。
同時並行で就職活動もしていたので忙しく、あまり床材に構ってあげることが出来なかったが、この表を見ると10℃以下の気温の時でも床材は60℃を超える発酵熱を維持していたことがわかる。
12月13日頃に床材が仕上がってからは、随時生ごみを投入していった。事業所で出た生ごみだけでなく、畑で収穫を終えた作物の枯れた茎や、就労移行の卒業生が働いている魚屋で廃棄された魚のアラを仕入れて入れてみたりもした。
ところで、生ごみ堆肥作りをしていて印象深いエピソードがある。
ある時、堆肥の様子を観に堆肥仕込みBOXに近づいたところ、一斉にスズメが飛び去っていったのだ。
餌となるものを求めていたのかもしれないが、その日は真冬の氷点下-5℃、おそらくスズメたちはそこで暖を取っていたのである。暖を求めにスズメが寄ってくるほど、東北の真冬でも微生物たちは発酵熱を放ちながら生ごみを分解し続けていたのである。
そして、私が堆肥の状態を確かめるべくかき混ぜていたところ、入れた覚えのないスズメの死骸が出てきたのだ。
ここが終の住処にちょうどいいと、スズメには分かったのだろう。私はそのスズメの死骸を堆肥の中に埋めてやった。堆肥葬である。
私は寺で僧侶を経験していたが、この時ほど敬虔な気持ちで死者を見送ったことはなかった。私もいずれ死ぬ時は堆肥の中で葬られたい。
一次処理は大体2月の末に終え、そこから二次処理に移った。
この頃には、実は私は就職が決まってしまい、堆肥の様子を十分に見ることが出来なかった。それでも、後を任せた仲間たちによって、これくらいには正確な温度推移のグラフが出来上がったことには感謝したい。
一応、大体60℃前後の発酵熱を、1ヶ月間キープすることができた。
今年2022年の7月からは山東菜で比較栽培実験もしてみた。茶色い鉢が生ごみ堆肥、白い鉢は鶏ふんである
なかなか、思ったような結果は出なかった。
鶏ふん、やはり即効性がある。その分、虫にもバンバン食われている。
対して、今回仕込んだ生ごみ堆肥はじわじわとしか効かない。だからと言って、虫にも食われにくいかと思いきや、そうでもない。
生ごみ堆肥を少なく撒いてしまったせいもあるのかなとか、土の性質が均一でなかったせいかなとか、色々実験系に問題があったような気もするが、今回の結果は結果だ。
結局、元肥として撒く分にはいいよね、という結論に落ち着いた。
経験したこと
堆肥仕込みBOXの設計と制作を通して、建物を建てるために何を考えればいいのかをざっくり学んだ
堆肥仕込みBOXの設計を通して、CADで建築図面を描けるようになった
図面で具体化しながら予算作成や原材料の価格調査、ヒアリングといったプロジェクトマネジメントの基本を学んだ
生ごみ堆肥の発酵管理を通して、東北の冬でも生ごみ堆肥が仕込めることがわかった
比較栽培実験を通して、生ごみ堆肥の性質の一端を知ることができ、実際に畑に撒く際の使い方をどうするかを考えられるようになった
反省したこと
発酵管理にあたって温度管理をしたが、定点観測でこまめにしっかりとデータを取るべきだった。観測を徹底することで初めて、何が不味かったのか反省できるようになる
比較栽培実験の実験系の組み方をもうちょっと工夫するべきだった。正確な結果が出ているか評価できない状態で実験を始めてしまったのは問題があった
今回のプロジェクトの何においてもそうだったが、発酵ものは手をかけて面倒を見るものだという認識が甘かったように思う。正直、こんなに手間がかかるものだとは思っていなかった
成果
目標達成率
事業所の裏庭に堆肥舎を作る(100%)
堆肥舎で床材を仕込み、一次処理を始める(100%)
二次処理をして、完熟堆肥を仕込む(100%)
比較栽培実験をして、仕込んだ堆肥でどれだけ作物が育つのか実験する(100%)
総括
就労移行支援事業所のスタッフの人と仲間によって、何とかここまでやり遂げることができた。感謝しかない。
この生ごみ堆肥作りを通して一番大きな成果は、私一人ではできなかったことを仲間の力を借りて実現まで漕ぎ着けることができたという体験そのものだと思う。
鴨志田純さんがこういう旨のことを言っていた。
堆肥を発酵させながら、地域を、人と人との間を発酵させましょう、と。
そして、やってみたいま、私は間違いなく通っていた就労移行支援事業所を発酵させることが出来た。
私と同様に人とのコミュニケーションに不安がある人間であっても、切り返し作業の苦労を分かち合ったり、発酵熱を持った堆肥の山に触れて「うわぁ、あったかい!!!」と素直に驚いてくれる姿を見せてくれたりする中で、何か人間的なものを回復している感触がそこには確かにあって、それは純粋に私が生ごみ堆肥作りをやらなかったら生まれなかったことだと思っている。
今後の展望
就労移行支援事業所で1シーズンやって味を占めたので、この冬も生ごみ堆肥を仕込みたいと思っている。シーズン2である。
シーズン2にあたっては、就労移行支援事業所に加えて実家の方の畑でも、同様の生ごみ堆肥BOXを製作して、床材作りからやっていきたいと思う。
今年の課題は、とにかく、資材集め。
特に、もみがらと落ち葉は十分な量を確保したいし、確保するためには時間を十分にとって早期に動いていきたい。
また、生ごみ堆肥以外にも、もみがら堆肥・落ち葉堆肥・土ぼかしといった他の種類の堆肥もあり、そのレシピも『畑でおいしい水をつくる』に載っている。これも、是非とも作ってみたい。
そして、近いうちに鴨志田農園の野菜栽培基礎講座を受講しようと思っている。受講には30万近くするが、純さんから直々に野菜作りを教われる機会だし、結局堆肥を作れるようになっただけでは、野菜を作れるようになるわけじゃないこともやってみて痛感した。野菜作りを本格的に学んで、実家の畑に応用するところから始めてみたい。
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