パリのレストラン 2. ダヴィット・トゥッタン David Toutain (29 rue Sourcouf)
僕がパリでいままでのところ一番印象に残った店、それがダヴィット・トゥッタンである。
トゥッタンもまた、パリのグルメ通りのひとつ、シュルクフ通りにある。この間紹介したル・ジョンティの目の前だ。もちろんこれまでにたくさんの日本人がここを訪れ、色々な記事を書いている。
トゥッタン氏はアルページュなどで働いたのち、アガペー・シュブスタンスのシェフを経て2014年にこの店をオープン。料理はとっても今風で、クラッシックなフレンチが好きな人にはすこし物足りなく感じるかもしれない。けれどそれを上回る驚きと、あと単純に、おいしいと思った。
何がなんだかわからない見た目をしていることもあるけど、素材本来のうまみや、その組み合わせの妙がとても印象に残った。これはキヌアの(日本風にいうなら)煎餅。とても香ばしく、初夏のパリ、着いてすぐの自分には塩気が心地よく感じられた。
エンドウ豆のアミューズ3種。
白いのはシャンピニョン・ド・パリの薄くスライスされたもの。食べる前はなにかわからず、キノコの香りがむわっと口の中に広がったのを鮮明に覚えている。けど中に何が入っていたか忘れてしまった…
一番感動した季節の野菜盛。驚くほどに瑞々しい。
スペシャリテとされるうなぎ。燻製にされており、黒ごまのソースに合わせるが、どちらもいわゆる「うなぎ」、「黒ごま」ではなく、軽やかで、しかしフランス的な力強さを感じる。日本の素材の扱い方とは異なる世界を見ることができる。
小品の料理がたくさん出てくるので、全部は紹介できない。しかし自分が一番感じたのは、このレストランはいまのフランスの料理を最も新鮮に感じることのできる場所の一つであるということだ。
フレンチも日本的な素材の扱いかたを取り入れて、ソースも軽やかに、火入れも最小限に、といった料理がたくさんある。それに否定的なひともいるが、しかしそれでもなお、トゥッタンの料理を食べた時には、なにか違うものを感じる。繊細さを感じる一方で、無骨な大胆さがある。芸術的というべき美しさのなかにも、どこか粗野で土くさいものがある。そのあたりはアルページュにも通じるものがあるかもしれない。
日本においては削ぎ落とされてしまったりするようななにかが、そこにはある。そしてそれは極めてフランス的なものなのかもしれない。そういうものに立ち会った瞬間に、私たちのなかに刻み込まれるものがある。
トゥッタンの料理を味わったのはこの一度きりだけだったけれど、いまでもお店の雰囲気から、料理の感じまで、濃厚に覚えている。また行きたいなあ。そうして、いま自分がいる場所と時間というものを、もう一度感じてみたい。