姫乃たまさんへのラブレター~永遠なるものたち読書感想文~
姫乃たまさんは私にとって、東京という街の象徴のような人です。
私の生まれた町にはなにもありません。
正確には山と狭い空ときれいな川と素朴な人たちが少しいて、街からやってきた人のためのキャンプ場や温泉はあります。
知らない家の灯りも見えないし、音楽スタジオもライブハウスも、おしゃれなレストランもバーも、まして風俗店もない田舎です。
そんななにもない町の、なにもない部屋の布団の中、携帯の画面越しに姫乃たまさんに出会いました。
とあるアイドルのファンだった私は、当時地下アイドルをしていた姫乃さんをインターネットで知りました。
文章が上手な人だと聞いて読んでみたのが、連載が始まったばかりの「永遠なるものたち」だったような気がします。
落ち着いた文章の底に潜んだ、素手で触れるのがためらわれるような、やさしさや切なさに惹かれたのを覚えています。
なにもない町を抜け出し、県庁所在地へ引っ越した私は、東京へ行ってみることにしました。
地元にいるときは、物理的にも経済的にも行けないことはなかったのに、行ってみようとは思い付かなかったのです。
東京では姫乃さんの曲にもなっているカフェで小さなカウンターチェアにどう腰かけていいかわからないままカフェラテを飲んだり、
姫乃さんに会いに秋葉原のライブハウスへ出かけたりしました。
その日はよりによってノイズ音楽のイベントで、音に揺さぶられながら所在なく壁際にたたずむばかり。
姫乃さんの姿が現れると、安心とあまりのかわいさに涙が出ました。やさしい声に輪郭がほどけていくような、その場にいることをゆるされているような気がしました。
ライブハウスの舞台上とフロアは、手を伸ばせば届きそうなほど近いのに、とても遠くも感じられます。
この場に生身の姫乃たまさんと私がいることが夢のようで、けれど耳に残る鼓膜の震えはたしかに現実でした。
姫乃さんはその心をいつでもやわらかな愛に包んで差し出してくれます。
うまく眠れない布団の中、姫乃さんの文章を読むと、胸に風邪薬を塗ってもらったみたいにスーッと息がしやすくなった心地がします。
姫乃さんの表現に触れると、自分を主人公の女の子だと感じることもあれば、美しい宝石を外から眺めているように思うときもあります。
きっと私と姫乃さんの心は、かたちは違うけれど、どこかに同じようなしわが刻まれているのでしょう。
私は現場に通う熱心なファンというわけじゃないのですが、
言葉に、声に、姿に触れるたび、気が付いたら姫乃さんをかけがえなく思うようになっていました。
この春、私は生まれた町へ帰ることにしました。
自分で選んだことで、地元に愛着を持ってはいても、息苦しくなって逃げ出したくなるときがきっとあります。
けれど少しだけ遠い東京の街で私に似ているようで違う、姫乃たまさんがいてくれることを思えば、根拠はないけどなんとなく大丈夫な気がしています。
姫乃たまさん、あなたがいてくれることが私はとてもうれしいです。
私とあなたがここにいること、それが私にとっての「永遠なるもの」なのかもしれません。