『ノンデザイナーズ・デザインブック』、25周年迎えました
1998年2月28日。
『ノンデザイナーズ・デザインブック』日本語版の初刷奥付に記載されている日付である。それからちょうど25年が過ぎ、書籍は第四版まで版を重ね、累計で80刷まで来た。
編集者人生33年のうち、かなりの部分を本書と過ごしてきた者として、このnote立ち上げに当たってささやかな思い出話を書いておきたい。
第一版の頃
第一版の時、私はまだ担当ではなかった。私の上司が担当編集者で、かつ翻訳者だった。
私がばたばたと本を編集している横で、我が上司は半年くらい掛けて、こつこつ翻訳し、編集を進めていた。その状況を、真似できないという意味で畏敬の念もあり、自分のペースで仕事ができることが羨ましくもあり、上司がその案件にかまけるぶん私の担当冊数が増えるわけで腹立たしくもあり……なんか複雑な気持ちで見守っていた記憶がある。
担当となって
その本が、自分の担当として降ってきたのは2008年、つまり15年前。
アメリカで3rd Editionが刊行されたのだが、我が上司は別の仕事に移っていて、担当できる状況では無かったのだ。
良い内容の本であり、日本語版をなんとか出したいというのが私の気持ちだったが、第二版の売れ行きが今ひとつだったこともあり、社内には慎重論も多かった。第三版と付けると、第二版よりもっと売れなくなってしまう可能性があるのではないかと指摘され、最終的に書名は「フルカラー新装増補版」となった。第二版と第三版の最大の変更点が本文のフルカラー化だったため、この書名はまあ分かりやすいものではあった。
なんとか第三版日本語版を出せそうな算段をつけて、我が上司(正確にはこの段階では「元上司」だが……)に相談に行った。いくつか実務的な話をした後、最後に
「でもまあ、お前がこの本を引き継いでくれてよかったよ……」
としみじみ言われたことが、忘れられない。元上司としても、この本がどうなるのか、不安に思っていたのかもしれない。
受け取った『ノンデザイナーズ・デザインブック』を形にしていきながら、悩み考えていたのは、継ぐとはどういうことなのか、育てるとはどうすればよいのか、なんとなく、そういうことだったように思う。
10年の歴史がある本を、なんとか立て直し、今の状況に合わせ、また売れるようにしたい。守るべきものは守りつつ、新しいものにしていきたい。
それが十全にできたかどうかはわからない。が、かつてはグラフィックデザインの関連の方に読まれていた本書も、ウェブデザインに関わる人であったり、開発に携わる人であったり、プレゼン資料を作る人であったり、UX関連のお仕事をされている方であったりと、徐々に読者の幅が広がっていった。
これは本書の内容が持つ力がなせる技ではあるのだが、それに微力ながら編集として関わることができたのは、自分にとって誇りでもあり、大きな糧となった。
20周年記念キャンペーン
2016年には第四版が出て、その2年後の2018年には20周年を迎えた。せっかくなのでお祭りをしたいと思い、CSS Niteの鷹野さんと相談して、20周年記念PDF「Missing Pages 2018」を作成。錚々たる執筆者に書いていただいた。鷹野さんが張り切りすぎて80ページものボリュームになってしまったが、このボリュームのものを無料で配布するのは、なかなかインパクトがあったと思う。せっかくなので小冊子として印刷してみたくなり、少部数印刷して、セミナーの参加者にプレゼントしたり、一部の書店さんで同梱して販売したりもした。
どの版を買った方でも応募OKとしたので、「昔買った記憶がある」「自分が持っているのは第一版だ」など、懐かしむコメントも多く聞かれ、キャンペーンをやってみて良かったとしみじみ思った。
このキャンペーンの盛り上がりが楽しかったので、それから一年ごとに、何かしらやってみることにしている。
そして、25周年
2008年、本書の担当を引き継いだときに考えたのが、先ほども書いたように「継ぐ」「育てる」というテーマだった。翻訳書なので、内容は変えられない。デザインの基本部分は変わらないだろうが、トレンドは変化していくし、同じような内容の本もどんどん出てくるだろう。その中で、本書の価値をどのように守り、育てればよいか。いつもその試行錯誤を行ってきたような気がする。
2018年、20周年キャンペーンを仕掛けた年の暮れに、あれこれあって、会社の編集担当役員を任じられた。本と組織を一緒に考えることはさすがに乱暴だろうが、守るものは守りつつ、変えるべきは変え、育てるべきものを育てる、という意味では、編集の視点から何かしら自分にできることはあるのでは、と思い、受けることにした。
そして2023年、『ノンデザイナーズ・デザインブック』25周年の年を、私は会社の代表という立場で迎えている。まさかこういう形で迎えることになるとは想像していなかった。自分の立ち位置の変化と、本書の節目とが合うのはただの偶然に過ぎないだろう。が、自分の中で課題として浮かび上がってきているものと共鳴している部分があって、だから面白いと感じている。
25周年のお祝いもしたいが、単に売れるためのキャンペーンということではなく、これから先につながるようなことをやってみたい。どういうことをやればおもしろくなるだろうか、読者の方がワクワクするだろうか。
これまでの歴史を祝うのでは無く、これからのために仕掛けたい。
歴史はまだ始まったばかり……と書くのはさすがに変だが、ぜひこれからもよろしくお願いします。
(担当:角竹)