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いったい、今、店は?!
昔から、東急ハンズの入り口で待ち合わせをすることが多かった。
そこから近い店を予約していることが多いから、というのもあるし、相手が(又は自分が)遅れた時などに罪悪感を感じないですむ、というのもある。
あまりにも遅れた時、例えば待ち合わせが駅の改札だったらとしよう。
罪悪感から最初の一杯ぐらい奢ることになるかもしれない。
でも、東急ハンズの時にはならない。
老若男女問わず、割と好きな場所なのではないだろうか。
自分の好きな階が必ずどこかにある。
色んな客がいる。わたしのような時間つぶしの人間も多いが、ホストのお兄ちゃんがパーティグッズを見にきたり、カフェのオーナーがランチメニューを書く看板を見にきたりもする。
店内をぶらぶら歩き回りたかったので、その日は待ち合わせ時間より一時間位早めに到着していた。
そこに正面入り口から血相を変えた男が突進してきた。
中華料理屋の亭主のようだ。高さの無い白の帽子、白い長めのエプロンはところどころ頑固そうな茶色いシミがあった。
直前まで何か仕込みをしていてそのままここに来た、という感じだった。
そんなに大きな店ではないように思える。厨房はその男一人でやっているような。
男は右手に蛇口を掴んで立っていた。
設置前の部品としての蛇口、ではなく厨房のキッチンからブッ千切れた再起不能の蛇口。……まさか。
1階フロアの中央まで突進してきた男は血走った目でぎょろぎょろと店内を見回してから振り返って入口側にあった案内カウンターに戻った。
怒鳴るように店員とやりとりし、目的の場所へと猛進していった。
店主たる男の中華料理屋は今、いったいどんな状態なのだろうか……。
蛇口の形状、男の狼狽っぷりから、何故そんなことになったのかは不明だが、たった今、蛇口が千切れてしまったのは明白だ。
元栓は閉めたのだろうか?
まさか、それぐらいは閉めてきてるよな。でも、あの慌てっぷりだぞ。もし出っ放しだったらどうする(どうも出来ないんだけど)。水はシンクから溢れていないだろうか?
時刻は19時前。中華料理屋にも客がいる時間帯だ。客はいたのか? いなかったのか?
常連のおじいちゃんの好物の酢豚は出した後なのか、前か。単身赴任の男が頼んだ焼飯につく小さなスープは出せたのか? 彼の帰りを待つ客の運命は如何に! 自分の注文した品が目の前に現れるのはいつ? 他の店員は今、どうしているのか? 一緒に働くもともとの顔自体がご機嫌斜めな嫁は? いったい……と、その男と東急ハンズ店員とのやりとりをこっそり聞いていたら待ち時間はあっと言う間だった。
蛇口を掴み、店内に突進してくる人を見ることが出来るなんて、やはり、待ち合わせ場所に東急ハンズは最適だ思う。懐かしい。