学びをガマンして成長する
一つめのフレームワークはF2LO。青山学院大学のワークショップデザイナー講座で、思わず膝を打った苅宿教授の論です。https://brico.ne.jp/talks/talks_01.html
「どんな仕事をしてるの?」と子供に訊かれたら「会社の先生」と答えていますが、ビジネス界隈の人たちには「ファシリテーター」と答えています。この20年でファシリテーション、ファシリテーターという言葉は市民権を得ましたね。今のところ、ファシリテーターの定義は『周りの人たちに学びや問題解決をしてもらう人』としています。『してもらう屋さん』と略しています。
ファシリテーターの優劣はなかなか説明できません。”周りの”とか”してもらう”とあるように、その場やそこにいる人たちとの相互影響で仕事が進んでいくので、切り取った個別評価は難しいのです。それでもなんとか解説し、分解してトレーニングするファシリテーション研修は延べ13,000人にご提供してきました。
説明が難しくてもあきらめないのが学者さんです。むしろ解き明かす欲求が高まるのでしょうか。苅宿さんはファシリテーションの目的と行動原則をF2LOで説明してくれました。青学の講堂で「そう!これこれ。これだよ!」と膝を打ち、これまで自分が苦労し工夫してきたことがやっと認められた感じがして体温が0.5度くらい高くなった気がしました。
①まずファシリテーター(F)は自らでオブジェクト(O)に向かう行動をする(たとえば議題を示したり、アイデアを出したり、いの一番に行動したり)
②①が効果的なら複数のラーナー(2L)はオブジェクトに向かい始める。同時にラーナー同士の関係を紡ぐ(たとえば問いを出したり、互いの対話を勧めたり)
③ラーナー同士がオブジェクトに集中し始めたらゆっくりと離脱していく、そして見守り最小限の支援に努めながら成果を最大化する
この論の素敵なところは、ちょうどいい抽象度でファシリテーションを説明しているところと、段階で行動を示しているところです。そして多くの方にとって②と③が難しいことが直観的にわかる。
社長も含め経営幹部全員で営業行動を改革するプロジェクトにご一緒したことを思い出します。営業を管掌される役員は常に先陣を切り、また暗礁に乗り上げそうになると明るく大きな声でみなさんを鼓舞する方でした。1年ほどのプロジェクトの終盤、蝉の声がやまない暑い日に、マスクをして登場したのです(10年くらい前ですから、まだマスクがマストじゃない頃です)。
よくみるとマスクには赤マジックで大きく『✖』と書いてあります。「とにかく、おれ、しゃべっちゃうんで。今日は先生に叱られないように黙っときますから!』という固い意志表示をバッテンマスクに込めたそうです。
自ら考え、行動し、成果を出してきた幹部こそ、『してもらう』ことが難しいんですよね。だって”誇らしい成果”は”自ら考え、数多くの率先を引き受けてきというコンテクスト”から成り立っているわけで、だから役員としての期待を受けるまでになられた。簡単に自分のコンテクストを塗り替えることができないんです。それでもこの方は役員定年間近な年齢ながらも自らを変えようと努められた(最後の最後はマスクずらして熱弁されてましたけど)。
F2LOの②と③は誇らしい経験がたくさんある方ほどに難しい行動です。自分が一番学びたいし、成長したいから他に譲ることがなかなかできない(理屈ではわかっちゃいるけど)。でも、そのすぐに自分の手に入る学びをガマンしてみると、俯瞰して周りをみて動けるという違う武器を手に入れることができる。そして他者に学びのチャンスが提供できる。
美味しい学びをガマンしてみると、違う味わいのある学びが得られるということですね。