ロングコートダディ単独ライブ「たゆたうアンノウン」が圧倒的だった

2020年11月20日(金)、よしもと漫才劇場で行われたロングコートダディ単独ライブ「たゆたうアンノウン」を配信で視聴した。

2021年、彼らがM-1グランプリの決勝に進出したことをきっかけに、この単独ライブは再配信されることに。

「再配信」というまたとない機会、未視聴の方は絶対に視聴したほうがいい歴史的単独ライブである「たゆたうアンノウン」。その魅力を存分に伝えていきたいし、視聴済みの人とは言葉にならないほどの感想を、どうにか言葉にして共有できたら嬉しい。

この文章は、実際の単独直後に書いた感想に、再配信のタイミングで加筆修正したものになる。

コント5本と合間Vで60分。

ネタは世相を落とし込んだものから、人間味あふれるネタ、嵐のように笑いをさらって一瞬で終わるネタ、構成の凝ったネタ、心満たされる30分尺コントと盛りだくさん。

そのひとつひとつが全く違った構造や切り口で、演者の2人が纏うキャラクターは自然でありながらも全てのネタで異なる魅力を発揮する。

それぞれのコントの世界線が思いもよらない伏線によってつながり、遊び心にときめいてしまうような場面もあった。

各ネタの感想

「密葬」

世の中を批判的に斬るわけでも強く問題提起するわけでもなく、ただ「みつ」という言葉を可愛がる感覚や、心地いい匙加減の皮肉を感じられる世相の扱い方が本当に好きだった。

「ぶどうも好き」や「ロッカーで」のくだりでは実際の葬儀の親族挨拶の緊張感がフッと緩むような、そんな感覚。まあ実際にあったら緩みすぎかもしれないが。

単独ライブ開始の挨拶ともなる締めの言葉には「ロングコートダディの単独が始まったんだ」と、ワクワクに鳥肌。また個人的に、湯川えつこさんは、これまで見た堂前さんの女装の中で1番可愛かった気がする。そして背景イラスト制作まで、堂前さんの労力えぐい。

「相性の話」

「相性の話」という題名をエンドロールで知り、2度目以降の視聴では「相性悪いんかもね」というセリフに対して「相性の話なの!?!?」と心の中でツッコんだり。

タイミング無視で投げられて地面に転がったプレゼントには大笑いしながらも、はっきり表出したすれ違いにどことなく切なさもあり、複雑な感情にさせられる。

「絶対的に自分がまともだと思っている変な奴」の演技、兎さんにはまりすぎているのも最高だし、兎さんの泣きの演技、本当に好きだ。「…遠く調べます」のセリフにめちゃくちゃ笑った。

また、私はこのコントが彼らの数あるネタの中でもかなり好きだ。

圧倒的にズレた「変な奴」を完璧に演じる兎さんの演者としての力に加え、堂前さんのキャラクターはいつも戸惑いながらも兎さんのキャラクターを強く否定しない。

感覚のズレを笑うネタによくありがちな、「見下し」のニュアンスを決して生まない絶妙なバランス感覚がすごいと思う。

感覚のズレを機微に感じ取りながらもそれを愛でる能力に長けていて、優しくネタに出力する堂前さんと、愛すべき対象としての「変な奴」を完璧に演じられる兎さんの2人にしか表現できないネタだからだろう。

「お家でまったり」

めちゃくちゃ笑った。普段マイネタバトルなどでしか見ることのできない激ショートネタ、大好きなので。地元の観光系の雑誌、確かに美容院か病院でしか読まないなあという気づきも有り。

粘土テクノに気づいたときは感動した。

「業績発表」

少し凝ったネタの構造がとにかく素敵で、だんだんと紐解けていく気持ちよさが最高。

ちくにゃんの由来が分かるくだり、めちゃくちゃ笑った。正当な理由からあだ名をつけようと試みたにもかかわらず、見た目由来の安直で割とひどいあだ名がガンガンつけられていく様も面白い。

最後、小西があだ名を呼ばれてから立ち上がり、それだけで何が起きたか一目でわかる描写には感動。

「たゆたうアンノウン」

「どこに指入れてんだよ!!」「ヤリマン」「IT企業(脳みそ)」のくだりで特に大爆笑して、大家の息子が粘土で作った自動販売機に対して想馬さんが「めっちゃいいじゃん!」と言ってくれるシーンと幕が閉まるラストシーンでは泣きそうになった。

個人的に特に心に残ったのは2人で粘土をこねるシーン。「こねろ!!!」という叫びや粘土テクノへの自己評価の低さにめちゃくちゃ笑ったというのもあるが、想馬さんの創作物に対する自由な感覚から、なぜだか救われたような感覚があった。

自分は創作や表現を生業としているわけではないが、それでも、好きなものを好きと信じることに対する許容のように勝手に受け取ったからかもしれない。

また、他人との溝の存在に怯えたり、嫌われているかもしれないと感じる「想像」と「感受性」から同じように生み出すことのできる可愛い犬のアンちゃんの存在も心に留めておきたい。

この表題作には(作者の意図はどうあれ)あらゆるメッセージが含まれていたように思えたが、中でも特に強く感じたのは「それらのメッセージに対する解釈はあなたの好きにすればいい」という、想像の自由を提示するもの。

だから、私たちは好きに解釈をして、愛おしいコントからあらゆる切り口の救いを享受することができる。こうしてコントを通して、笑いを通して、決して直接的ではない表現で観客に伝えてくれた「想像」への捉え方の1つの提案は、多くの人の心にいろんな形で爪痕を残したのではないだろうか。

「たゆたうアンノウン」が圧倒的だった理由

全体を通して本当に素敵な公演で、自分が2020年に購入したお笑いライブ、それどころか摂取した全ての創作物の中で圧倒的だったのではないだろうか。

アフタートークやエンディングトークも無く終演という構成だったおかげで、コントの世界に浸ったまま心地いい余韻を楽しむことができたのも大きかったかもしれない。

また、兎さんが作中で演じたアーティストが語っていた「余白の美学」は彼らのネタ自体にも感じる。絶対に野暮と感じさせない引き算がいつも美しい。特に表題作に関しては、観客に自由な解釈の余地を与えてくれるような、過不足ない余白を感じ取った。

そしてこのライブを通して勝手に受け取ったものはたくさんあるが、やはり60分の隅々までおもしろ要素が詰まりまくっている。幕間VTRも含め、とにかくたくさん笑った。

どんなに1本の尺が長くなったとしても、2人芝居でも、朗読劇でもなく「コント」というものに落とし込まれたロングコートダディの世界が最高なのだと強く認識した。

未視聴の方へ。私はファンとしてこの単独のDVD化を願ってはいるものの、万が一DVD化されなかった場合、1月10日以降刮目するチャンスはないということを忘れないでほしい。

M-1グランプリをきっかけにロングコートダディが気になった人や、配信ライブを買ったことがない人も絶対に損しないので、ぜひ。

本公演視聴後には、堂前さんが公開してくれている裏話noteも併せて購入するのがおすすめだ。単独とnoteのコンボで、ロングコートダディについていくしかなくなるので。


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