どんな田舎でも毎回100人集まるイベント「地域クラウド交流会」とは?
※2019年8月15日初出の記事をnoteに引っ越ししたものです
4年間で22都道府県137回の開催、イベント開催での持ち出しはゼロ、日本全国のどんな田舎で開いてもほとんどが100人以上の参加、80%以上の満足度を誇るビジネスマッチングの交流会がサイボウズが協賛する「地域クラウド交流会」(ちいクラ)。そもそもIT企業であるサイボウズがなぜにこのイベントを協賛しているか?という疑問をお持ちの方も多いと聞いて、今回はファウンダーであるサイボウズ社長室の永岡にいろいろと聞いてみました。
話し手:サイボウズ株式会社 社長室 永岡 恵美子
聞き手:サイボウズ株式会社 社長室 野水 克也
そもそもはサイボウズ製品の販促イベントのはずだった
永岡さん、いつ入社したんでしたっけ?
2014年の5月に入社して、社長室に配属されていましたが、今までお世話になった方のところに、「サイボウズに入りました」っていう、アポを取って会いに行っていたら、3ヶ月経っちゃったんですよ。
3ヶ月もあいさつ回りする先があるってすごい人脈だね。
それで、青野さん(サイボウズ社長)とミーティングをして、その時に、青野さんから、「永岡さん、サイボウズに入って、楽しく働いてください。それを望んでいます」と。「ただ、仕事はなにも与えないので、自分で作ってください」って言われたんです。
予想通りの放置プレー。(笑
ちょうどその頃、前職での交流会をまたやってほしいというメッセージがいろいろ届いていたのと、地元千葉に帰ってみると、まだkintoneのことをIT系以外の一般の方は名前すら知らない状況だったので、たくさんの人に集まってもらって、kintoneを触ってもらえばいいな。使ってもらってこういうふうに使えばいいんだっていうのを、知ってもらおうと思って作ったプロモーションのイベントがこの交流会なんです。
今では、kintoneはかすりぐらいしかしてないけどね。
いやいや、ちゃんとクラウド勉強会やってるじゃないですか!(笑
どの辺から方向性変わったんでしたっけ?
その最初の交流会に、千葉県庁の田中さんという職員が、普通に参加費を払って参加してくださっていて、「これは、千葉市だけでやるんじゃなくて、千葉県全体でやってほしい」ということで、その後千葉県の事業になったんですね。
で、千葉県の事業として、年間10箇所、10地域ですね。で、このちいクラを開催し、それが好評で2年目も、10地域で開催するということが決まったあたりから、それもまた青野さんなんですが、「これ、好評だから、売りましょう」って言われたんです。
さすが商売人!
「プロモーションでつくったものだから、うちはタダのはず?」と思ったけど、「好評なので売りましょう」と言われて、それで野水さんに「売りましょうと言われたんですけど、値段どうしましょう」って言ったら、「50万円くらいじゃない」って言って(笑)
言ったっけ、そんなこと?
言った。
やばいな。これ書いたら色んな人に刺されそう…。
それで、50万円っていう最初の初期の値付けをして、販売しだしたところ、それもまた好評で、またそこに青野さんが登場し、「永岡さん、これ値上げしましょうよ」と言われて、「そうですか」と思いまして、次は80万円になりました。
値上げしたの、俺じゃないからね。(笑
大人の本気の「ラジオ体操」から始まる「ちいクラ」のメインコンテンツは、開催する地域の創業5年以内の起業家5人によるたった3分間の事業プレゼン。 都会のベンチャー企業と違って、プレゼンはお世辞にもうまいと言えないレベルながら、大勢の前で事業をアピールする数少ない機会なだけに表情は真剣そのもの。こののど自慢のような雰囲気が人気の秘密の一つでもある。
毎回100人集まるイベントってどうやって考えたのか?
起業支援で100人とか集めるって、結構大変じゃないですか。
まず、100人集めるっていうのを最初に決めることですね。なんでもそうだと思うんですけど。
覚悟ですね
そうです、覚悟ですね。あとまず私が、交流会は大っ嫌いな人だったんですよ。
交流会嫌いって…
で、どこが嫌だかな、って考えて、12個嫌なことがあったので、その嫌なことを全部、払拭して作った交流会だったんですね。
それが交流会でいつも紹介している「つながる7つの仕掛け」みたいなところですね。あと、今ではもういろんなオーガナイザー(個々の地域クラウド交流会を主催する人)がそれぞれの地域で開いてどんどん成功させていってますけど、成功の秘訣ってどこなんですか?
人。やりたい人、やる気のある人が1番ですね。あとは、やれそうな人。
やれそう、っていうのは?
この人だったら、最後までやりきってくれるな、という感じですね。
なるほど、やりきること、やっぱり覚悟ですね
スキルは私達にある、スキルというかやるタスクはあるので、やりきってさえくれれば、成功するというのはわかっていたので、やりきってくれるかどうか、です。
もう一つ、すごいなと思うのは、ちいクラって、お金もかけてないのに、2回目も3回目も続いていくじゃないですか。どんな田舎でも。
打ち上げ花火みたいなイベントは、やりたくなかったんですよ。何度もやったからこそ、町に化学変化が起きたりとか、一緒にビジネス始めたりとか、ちょっとした知り合いが、町にいっぱい皆んな増えたって言うんですね。
ちょっとした知り合いが増えるって、具体的にどういう影響があります?
皆んなが好きなことをしていいんだ、とか、やりたいことを人前で喋っていいんだとか、そういう安心感ですかね。
その前までは躊躇してる?
なんかうまくいかなかったら恥ずかしいなとか、馬鹿にされたら嫌だなっていう気持ちがどうしても皆んなあって、あんまり、本当はこういうことしたいって思っているんだよねっていう段階でも、言いづらかったと思うんです。夢の段階の話は。
なるほど!
私自身が開催している時に、思っていたんですけど、やっぱり、必要とされているんですよね、町の人に。オーガナイザーをサイボウズでは育てているんですが、オーガナイザーの負担ってやっぱりそれなりにあるわけですよ。
そりゃあ大変でしょう。毎日、メッセージ打って、電話かけて、なんとかってずっと指導しているんでしょ。
そう。永岡メソッドに、皆んなやられているんですけど。夢見るらしいですよ、開催前に、私が夢に。
しばかれてる…
そう。しばかれている夢を見て、「1週間前に見ちゃった」「それ早くない?」みたいなのが、オーガナイザーの間で、共有されていますけど、そのくらい、一生懸命やっているんですよね。で、その一生懸命な結果が出ているわけなんですよ。100人集まっているとか。輝いている人たちが来ていたとか。
で、その結果を見て、参加者100人から、開催してくれてありがとうとか、また参加したいとか、元気になったとか、またフィードバックをもらえるんですよね。そうすると、オーガナイザーは町の人にそういうふうに思ってもらえるんだったら、またやろうっていう、気持ちになっていくっていう麻薬的な感じ。
オーガナイザーのメリットって、どういうところなんですか。やるメリット。
まずは町の人に知ってもらえることですよね。なので、そこに住んでいない人が開催していることもありますし。知ってもらって、こんな開催が出来る人なら、他のお仕事も頼んでも大丈夫だよねっていう、信用・信頼。で、自分の本業に繋がっている方が多いですね。
そっか、1回に友達100人出来ましたっていうことですよね。
そう、自分でも行政の人を巻き込んで、金融機関の人を巻き込んで、町の人を巻き込んで、こんなイベントが出来て、しかもそれが新聞に載ってしまうとか、テレビで取材されるとか、そういう効果は、きっと、オーガナイザー自身の成長に繋がっているんじゃないかなと思いますね。
その地域が好きな起業家が集まっているから、外から来た人へのホスピタリティがすごい。半日前に到着しても、その地域の観光名所を次々と案内されて気がついたら開始時間になっている。開催地同士の交流が進むことで、地域同士の新しいつながりが生まれてゆく。
なぜちいクラで地域が活性化するのか?
ちいクラの基本って、もう競争するのは終わりで、応援し合おうよっていう、メッセージがあるんですよ。
競争と応援って具体的にはどう違うの?
蹴落とすとか戦うと1個しか残らなくて、もう1つは残れないとか、その世界からはもう抜け出して、どっちも残るためにいい按配を見つけるというか助け合うというか、そういうイメージがあったので、皆んながそれをやってくれているのがすごく嬉しいですね。
そういえば、ちいクラって相互の地方で行き来している人って結構いるじゃないですか。
います。います。皆んな、交通費もかけて、参加費も払って、応援参加してくれていますね。私は「ちいクラ関係人口」って言っているんですけど。
地域が活性化したかどうかの指標って、その関係人口みたいなところかな
うーん、まずはでも、そこに住んでいる人の心持ちというか、心の中が、3度くらい温かくなるような。
体温39.6度は結構高熱だ!(笑) 逆に心が寒い状態ってどういうイメージですか?
まあ「なんかやってら」みたいな他人事ですね。
地域で何かやってるけど、俺はまあいいよね、みたいな、そんな感じ。
そうです。まずは、参加してもらって、え、こんな地域にこんな人いるんだ、しかもそんなに頑張っているんだ、だったら自分も応援しようとか、だったら自分もなんか頑張ってみようっていう、そういう3度温かくなるですね。
つまり、頑張りが見えない状態になっているんですよね。
たぶんそうだと思います。皆んな頑張っているんだけど、その様子を知るところってなかなかないですよね。あと、本来地域だと、知っているっていう状態は、よくあるんですよ。
そりゃ、知っている人ばっかっていうか、町とか村とかいう単位だったら、大概が、小学校か中学校か、どこかで1人重なる、全員知り合いとなっている状態ですね。
そうそう。お兄さんの同級生、とかね。でも、どんな思いで、その事業をやっているとか、どんな思いで、続けているのかっていうことを、知る機会がないんですよ。なまじ知っているからこそ。
なるほどね。思いが、共有されてない。
なんか、あの農家あそこで1人でずっとやっているけど、なんで1人でやっているんだろうね、とか。そしたら、安心・安全な野菜がずっと作りたかったから、とか。そういう思いを、聞ける場所が、ちいクラなんだと思います。
確かに、いきなり、「こんにちは、ところであなたの理想は何ですか」って聞かないよね。(笑
知り合いだったら、余計聞きづらいですよね。それがプレゼンターだったり、応援し隊だったり、投票所だったりの、発表の中から聞けたりするんですよね。
意外な一面を発見するみたいな。
そうですね。そうすると、「あ、理想一緒だったじゃん。だったら一緒にやろう」とか。「あ、あの人、同じ理想だな。紹介してあげよう」とか。そうやってビジネスマッチングが始まるんだと思っています。
職業人は大別すると職人とプロデューサーの2種類があって、筆者(野水)は前者で、今回の話し手の永岡は典型的な後者だと常々思っている。ちなみに職人は「基本的に自分でやりたがる人」でプロデューサーは「基本的に誰かにやってもらう構図を作る人」。
この「地域クラウド交流会」というイベントをドライブする「オーガナイザー」は、このプロデュースのやり方を徹底的に教わって地域というチームをビルディングする人でもある。
地域を活性化するのは地域の人で、その地域の人を活性化させるのがオーガナイザーの役割。
人ってほんのちょっとしたきっかけで変わってゆくし、そのきっかけを与えてゆくプロデューサーの職人芸?の一端を聞けた気がしました。
お金ではなく、わずかなきっかけをどんどん積み重ねて地域は動くのです。