妄想酒場 台風接近中だった日
いらっしゃい。
っていうか、
いいの?寄り道なんかして。
そうよ、天気予報確認してなくたって
いくら何でも知ってるでしょう?
台風が今こっちのほうに向かってんのよ。
まあせっかく来てくれたんだからお酒出さないとね。
はい、どうぞ。
そうそう、台風のことで忘れるとこだった。
三日もお店休んじゃって、ごめんね。
ううん、そうじゃないのよ、
別に体調が悪かったんじゃないの。
ありがとう、
心配したって聞くと申し訳ないんだけど、
あたしね、お祭りに行ってたのよ。
あら、もうホタテ食べ終わったのね。
おいしかったでしょ、特製酢味噌。
ね、自分で言うのもなんだけど、
その酢味噌、ファンが多いの、ふふふ。
え、お刺身ね、はいはい。
はい、おまちどうさま。
ああ、お祭りの話ね。
ううん、違うの。
今年はお店を始めて忙しかったから…
そう、残念だけど。
見るのももちろん楽しいのよ、
でもね…
やっぱりお祭りの中にいたいのよね。
そうね、でもこの仕事してるかぎり
忙しくてお祭りには出られそうにないわ。
どうしても十分なお稽古の時間がとれないのよ。
そうだ、
崩れちゃったお豆腐があるんだけど、
久しぶりにたぬき豆腐、食べる?
そう、よかった。
ちょっと待ってね。
はい、これはサービスね。
いいのよ、
三日も休んじゃったし、話聞いてもらったし。
でも、風も強くなってきたみたいじゃない?
電車が止まっちゃったら帰れないでしょ。
そうよ、
今日のところは、これ食べたらもう帰った方がいいわよ。