【要チェック】M&A取引における環境デューデリジェンス(環境DD)の本質的な考え方
私の経験上、環境デューデリジェンスは他のDDと同様に非常に奥が深いです。
奥が深い=複雑であると言い換えることもできます。
うん?
環境デューデリジェンスって何?となった読者の方は、以下の記事から読み始めて下さい。
https://environmentalduediligence.site/firsttime/whatiseddsummary
話を戻します。
読者の方にとっては、急に環境デューデリジェンスは奥が深いと言われても困りますよね。
この記事を書くにあたり、私の経験だけを書いていく曖昧な説明のみの記事しなくないと思ったので、私なりに「なぜ、奥が深いのか?」を整理してみました。
奥が深いという理由の1つですが、環境DDの一般的なタスク(作業)は以下のように分類されていて、評価しなければならない範囲が広いという点が考えられます。
・土壌汚染問題の評価
・環境法令の順法状況の評価
・自然環境系の評価
・依頼によっては、労働安全衛生の順法状況の評価
・依頼によっては、社会性面の評価など
評価しなければならない範囲が広いというだけなら、マンパワーや時間をかければ解決できますが、実は上記の各々のタスクには各々の評価に関する専門性が必要となります。
そして、更にこれらの専門性が各々に独立しているという点が環境DDの奥ゆきを広げているポイントなのかもしれません。
例えば、土壌汚染問題と労働安全衛生の順法状況の評価は専門性が全く異なります。
土壌汚染問題は、豊洲の話題で世間に認知された有害化学物質による土壌汚染から発生する健康被害リスクや土壌汚染から派生する経済リスク等に関する評価です。
一方、労働安全衛生の順法状況の評価では、作業環境測定結果に対する措置の妥当性の確認や有機溶剤に関する保護具の着用に関する事業者責任の達成度の確認などを実施し、主に届出文書の提出の有無に関する操業リスクや従業員への暴露リスク等を評価します。
一見、似たようなイメージですが専門性は警察官と消防士ぐらい異なります。
図に整理すると以下のとおりです。
環境DDの一般的なタスク(作業)の奥深さを1つ1つ説明すると、膨大な文章になってしますので、本記事では環境デューデリジェンスの一般的なタスクの1つである「土壌汚染問題の評価」について奥深さを説明していきたいと思います。
改めての説明になりますが、環境デューデリジェンスにおける土壌汚染問題とは以下のとおりです。
工場等の敷地内での化学物質の流出事故によって有害物質が土壌環境に流出し、従業員又は近隣住民に健康被害が発生する、又は発生する可能性が高い状況のことです。
これらの状況から以下のリスクに発展していきます。
・健康被害のリスク
・自然環境破壊のリスク
・経済的なリスク
・風評被害リスク など
土壌汚染問題にスポットが当たると、その影響力は計り知れません。
豊洲の土壌汚染問題は、当時のニュース番組でも多く放送されており、多くの人が影響を受けたと思います。
発覚した際のインパクトが大きいという意味では、「土壌汚染問題の評価」が一般的な環境デューデリジェンスの主なタスクとして認識されており、土壌汚染問題が「環境デューデリジェンスの顔」であるということに私はなんの違和感もありません。
経験上の話になりますが、環境DDでは土壌汚染問題の評価に対してどのようにアプローチするか(どのようなスタンスで調査をするのか)によって、環境DDの作業効率や達成度が大きく異なると私は考えています。
つまり、環境デューデリジェンスにおける土壌汚染問題の「奥深さ」を知った上で環境デューデリジェンスを実施するのと、「奥深さ」を知ることなく環境デューデリジェンスを実施するのでは環境DDの有効性が変わってくるということです。
ここからの記事は私の経験上の話が少し多めになりますが、是非、読んでみて下さい。
一点だけ、補足です。
「奥深さ」という表現は「本質」という言葉に置き換えることができるかもしれません。
環境デューデリジェンスの目的の本質を見極める!
■■■ 土壌汚染対策法の目的 ■■■
「いやいや、土壌汚染問題の奥深さと言っても、所詮は土壌汚染対策法のことでしょ?土壌汚染対策法のガイドラインに調査方法などは全て書かれていますよ!」という人もいると思います。
確かに国内の実践的な環境デューデリジェンスでは、アメリカのASTM 1527シリーズやASTM 1903シリーズが参考規格として適用されることもありますが、土壌汚染対策法の調査方法を参考にデューデリジェンスの作業を進めることが圧倒的に多いです。
しかし、本当に土壌汚染対策法の調査の評価=環境デューデリジェンスの土壌汚染問題の評価なのでしょうか?
あなたはどのように考えていますか?
私の経験上、「環境デューデリジェンスの土壌汚染問題の評価」と「土壌汚染対策法の土壌汚染調査の評価」は異なると考えています。
この段階では、どうしても言葉足らずな説明になってしまいますので、記事を読み進めてみてください。
「なぜ、私は異なると考えるのか?」を私なりに整理してみました。
例えば、土壌汚染対策法の調査ガイドラインでは土壌汚染対策法の目的が以下のとおりに記載されています。
土壌汚染対策法は、土壌の特定有害物質による汚染の状況の把握に関する措置及びその汚染による人の健康に係る被害の防止に関する措置等を定めること等により、土壌汚染対策の実施を図り、もって国民の健康を保護することを目的とする(法第1条)。
適時適切に土壌汚染の状況を把握すること及び土壌汚染による人の健康被害を防止することが、法の主たる目的である。
土壌汚染対策法の目的をシンプルに整理すると、以下のとおりです。
・土壌汚染の状況を適時適切に把握すること
・土壌汚染を適切に管理し、人の健康被害を防止すること
うん...?あれ…??
環境デューデリジェンスの土壌汚染の評価の場合、これでは不十分では?と思ったあなたは既に環境デューデリジェンスを経験されている方なのかもしれません。
一方で疑問を感じなかった読者の方もまったく問題ありません。
あなたにように環境デューデリジェンスに関して知りたいと思っている方の為にこのサイトは存在しています。
まずは、上記の土壌汚染対策法の目的を頭の片隅に置きながら、以下の内容を読み進めて下さい。
■■■ 私が考える一般的な環境デューデリジェンスの目的 ■■■
以下の記事にも記載していますが、私が考える「デューデリジェンス」とは、買収を検討している企業と売却を検討している企業の売買交渉時に生じる情報格差を解消する為の調査です。
環境デューデリジェンスとは?https://environmentalduediligence.site/eddbasic/whatisedd
つまり、デューデリジェンスの目的は、買収を検討している企業と売却を検討している企業の売買交渉時に生じる情報格差を解消することです。
この「情報格差」の情報の部分が環境面の場合、環境デューデリジェンスということです。
例えば、売り手側企業が自社の土地に土壌汚染が存在していると把握しているのに、この事実を開示しないで買い手側企業と交渉すると、売り手側企業と買い手側企業が保有する情報に格差が生まれます。
この格差は、どちらかが結果的に不利になり、対する相手側が有利になるという状況を作り出します。
本来ならば、M&A取引の中でこの土壌汚染の事実は開示され、買い手側企業は土壌汚染の存在の事実を知り得た上で当該取引を検討しなければなりません。
情報格差が生じたまま、M&A取引が進むと必ずどこかのタイミングで大きな問題へと発展します。
つまり、この情報格差は、M&A取引を成功に導かないということです。
では、どうすれば良いのでしょうか?
答えは簡単です。
環境デューデリジェンスによって、土壌汚染の存在の事実に関する情報格差を解消すれば良いのです。
ここであなたに理解して頂きたいのが、私が考える一般的な環境デューデリジェンスの目的は、M&A取引における環境面の情報格差を解消するということです。
さて、一般的な環境デューデリジェンスの目的が理解できたところですが、直ぐに土壌汚染対策法の目的と単純に比較するのではなく、もう少し、環境デューデリジェンスの目的を実務ベースで考えてみようと思います。
あくまでも、私の経験上の考え方なのでこれが正解というわけではありませんが...(笑)。
■■■ 私が考える環境デューデリジェンスの実務ベースの目的 ■■■
現代のM&A取引の環境デューデリジェンスでは、オークション形式による買い手側企業と売り手側企業の交渉のパワーバランスやSPA(Stock Purchase Agreement:株式譲渡契約書)等のボリュームやスケジュールが考慮され、買収価格から環境負債金額(想定される土壌汚染の浄化費用等)を差し引くという手法が用いられる傾向にあります。
つまり、土壌汚染問題が発覚したとしても特別補償等の対象にはせず、金銭解決をするということです。
以下に、買収価格から環境負債金額(想定される土壌汚染の浄化費用等)を差し引くという手法の例え話を記載します。
1)売り手側企業の情報開示により売り手側企業の土地に土壌汚染が存在することを特定した買い手側企業は、特定した土壌汚染の将来的な環境リスクを回避する為に当該汚染土壌の概算浄化費用を算出する。
2)算出された概算浄化費用を買収価格から差し引いて契約に合意する。
3)M&A成立後に、浄化実施の契機に合わせて買い手側企業が土壌汚染の浄化工事を実施する。
私が経験してきた環境デューデリジェンスにおいても、特定された土壌汚染の規模が小さい場合や汚染土壌の拡散リスクを将来的にコントロールできる場合は上述の例え話の手法が適度に用いられていました。
ここで上記でサラっと記載したら土壌汚染の概算浄化費用について少し記載していきます。
算出された概算浄化費用を買収価格から差し引いて契約に合意する場合、当たり前ですが浄化工事等の概算費用を算出しなければなりません。
しかし、この浄化工事等の概算費用の算出は、なかなか一筋縄ではいきません。
なぜ、一筋縄ではいかないのかの理由を整理してみました。
1)土壌汚染や地下水汚染は基本的に地面の下の地下(通常は目に見えない場所)で起こっているのでイメージが困難であり、本質的なリスク(問題点)が理解しづらい。
2)土壌汚染問題は築地の土壌汚染問題により多少なりの認知度があるものの、土壌汚染調査や浄化対策工事の認知度は限りなく低く、また、一般的な土木事業とは異なるため、調査や工事に掛かる費用のイメージが困難である。
3)土壌汚染の浄化工事の概算費用を算出するには、汚染に関する情報を収集する為にいくつかステップを踏む必要がある。
そして、上述の一筋縄ではいかないのかの理由を解消する為に、土壌汚染の浄化工事等の概算費用の算出に必要な要素を私の経験に基づいて整理してみました。
1) 汚染に関する情報を入手する為に詳細な土壌汚染調査の実施が必要
2) 土壌汚染調査結果より汚染の分布範囲や分布深度等を明確にすることが必要
3) 環境DD専門アドバイザー(環境コンサルタントや環境技術者)の豊富な専門知識や経験が必要
例え話になってしまいますが以下の条件だけでは土壌汚染の浄化工事の概算費用の算出は不可能ということです。
1) 鉛の土壌汚染がある土地に存在する。
2) 砒素の土壌汚染が地下タンクの周辺に存在する。
3) 六価クロムの土壌汚染が10m×10mの土地面積の範囲に存在する。
上記の条件において、不足している情報がいくつかあることが理解できると思います。
特に注目すべき点は汚染の分布深度の情報が不足しているということです。
土壌汚染の浄化工事等の概算費用の算出には、最低限の情報として汚染土壌のボリュームが把握できる情報(汚染の分布範囲と分布深度)が必要となります。
この【汚染土壌のボリュームが把握できる情報】を取得する為にステップを踏んで(1)の詳細調査が必要になるということです。
1) 汚染に関する情報を入手する為に詳細な土壌汚染調査の実施が必要
2) 土壌汚染調査結果より汚染の分布範囲や分布深度等を明確にすることが必要
3) 環境DD専門アドバイザー(環境コンサルタントや環境技術者)の豊富な専門知識や経験が必要
また、私は(3)に「環境DD専門アドバイザー(環境コンサルタントや環境技術者)の豊富な専門知識や経験が必要」と記載しています。
なぜか?を記載していきます。
実は汚染土壌のボリュームが把握できる情報を入手したとしても、素人には土壌汚染の浄化工事の概算費用の算出は困難です。
理由としては、汚染土壌のボリュームに関する情報以外にもいくつかの知識や経験に基づく判断が必要だからです。
技術的な話になりますが、例えば、土の単位体積重量や汚染土の掘削方法や地下水の情報などです。
さて、話を環境デューデリジェンスの実務ベースの目的というテーマに戻すと、ここまでの記事で私は環境デューデリジェンスの実務的な成果が「リスク回避の為の費用算出」という感じで文章を書いています。
もっと、シンプルに文書化すると「環境デューデリジェンス=土壌汚染等の概算浄化費用の算出」ということです。
最初に【M&A取引における環境デューデリジェンスの目的は、買収を検討している企業と売却を検討している企業の売買交渉時に生じる環境面の情報格差を解消することです】と記載しているのに【環境デューデリジェンスの実務的な目的は土壌汚染等の概算浄化費用の算出です】と記載しています。
あなたも目的が変わっているじゃないか!?と感じたと思います。
しかし、私はどちらも正論だと考えています。
私の考える一般的な環境デューデリジェンスの目的である【環境面の情報格差を解消すること】は環境DDの全体的な目的と位置付けることができます。そして、本質的と言える実務ベースの環境デューデリジェンスの目的は【土壌汚染等の概算浄化費用を算出すること】ということです。
実務ベースで少し環境デューデリジェンスを深堀りしてみると、環境デューデリジェンスに関する考え方の角度が少し変わってきたと感じて頂ければ幸いです。
では、ここで土壌汚染対策法の目的を改めて記載しておきます。
土壌汚染対策法の目的をシンプルに整理すると、以下のとおりです。
・土壌汚染の状況を適時適切に把握すること
・土壌汚染を適切に管理し、人の健康被害を防止すること
あなたも既に気がついていると思いますが、土壌汚染対策法の目的と環境デューデリジェンスの目的は異なります。
土壌汚染対策法の調査の評価は、土壌汚染の状況を適時適切に把握し、土壌壌汚染を適切に管理し、人の健康被害を防止することを目的としていますが、環境デューデリジェンスの土壌汚染問題の評価は、環境面の情報格差を解消することが全体の目的であり、実務ベースの本質的な目的は土壌汚染等の概算浄化費用を算出することです。
つまり、土壌汚染対策法の目的には経済的なリスクや風評被害リスクなどの評価することが含まれていないということです。
土壌汚染対策法に基づく土壌汚染調査を実施しただけでは、有益な情報を入手できるものの環境デューデリジェンスの目的を達成することはできないということです。
土壌汚染対策法には、土壌汚染等の概算浄化費用を算出しなさいという条項はありません。
この違いをあなた又はあなたのチームが理解せずに、環境デューデリジェンスに関わると効率が良い環境DDを実施できません。
さて、私はこの記事の序章で以下のように記載しています。
【環境デューデリジェンスにおける土壌汚染問題の「奥深さ」を知った上で環境デューデリジェンスを実施するのと、「奥深さ」を知ることなく環境デューデリジェンスを実施するのでは、環境DDの効率性が変わってくると私は考えています】
今、あなたはこの環境DDの奥深さを知ってどう思っていますか?
知って良かったと思って頂ければ幸いです。
環境デューデリジェンスを実施する企業等の担当者は、土壌汚染等の概算浄化費用を算出することを想定して、環境デューデリジェンスを依頼する環境DD専門アドバイザー(環境コンサルタント会社や土壌汚染調査会社)を選定する必要がありますね。
また、環境デューデリジェンスを実施する環境DD専門アドバイザー(環境コンサルタントや土壌汚染調査会社の技術者)は、土壌汚染等の概算浄化費用を算出することを想定して対象企業へのインタビューや質問、情報開示文書の選定をする必要があるということです。
実務ベースでの環境デューデリジェンスの目的が【土壌汚染等の概算浄化費用を算出すること】であるというケースが多いということが土壌汚染問題の奥深さの1つ目です。
これは、M&A産業における環境DDのトレンドです。
既にこの記事でも記載していますが、
・買い手側企業と売り手側企業の交渉のパワーバランス
・SPA(Stock Purchase Agreement:株式譲渡契約書)等のボリューム
・DD期間とスケジュール
上記の条件等が考慮され、買収価格から環境負債金額(想定される土壌汚染の浄化費用等)を差し引くという手法が用いられる傾向にあります。
しかし、土壌汚染問題に関する個人的な考えとしては、土壌汚染等の概算浄化費用を算出して、その費用がある程度の金額であるのであれば【特別補償等でカバーすべきである】と考えています。
ある程度という表現をしていますが、数十万円~数百万円の土壌汚染問題に対して特別補償の検討はあまりにもM&A取引へのインパクトが小さいので対象外と考えるのが一般的だと思います。
参考情報としてですが、Material Thresholdを超過する土壌汚染問題に関しては特別補償等でのカバーを検討することが望ましいのではないかと私は考えています。
私の経験上では、Material Threshold × 2倍~3倍程度の金額が必要とされる土壌汚染問題を特別補償等でカバーした案件が多かったです。
Material Thresholdって何?となった読者の方は、以下の記事を参照ください。
M&A 海外 環境デューデリジェンスのMaterial Thresholdの設定について
https://environmentalduediligence.site/eddplan/material-threshold
次に、なぜ私が特別補償等でのカバーを推奨するのかという理由を記載していきます。
細かい話をすれば、特別補償等によるカバーにも売り手側企業が支払いに耐えられる資金力が有るか等の問題もあります。
また、支払いを請求する相手が存在するか否かも特別補償等を検討する中で議論しなければならないポイントです。
特別補償の他にエスクローの積立や連帯債務という考え方もありますが、M&A取引における交渉の現実的な観点から、まず特別補償でのカバーを私は推奨します。
この「特別補償等でのカバーを推奨する」というアプローチが環境デューデリジェンスにおける土壌汚染問題の「奥深さ」の2つ目ということになります。
「特別補償等でのカバーを推奨する」というアプローチの必要性を私なりに整理していきます。
最終的にはこの記事で環境デューデリジェンスにおける土壌汚染問題の「奥深さ」の3つ目まで記載します。
やはり、全ての「奥深さ」に気がついている方が環境デューデリジェンスを実施する上で良いのではないかと私は考えています。
土壌汚染問題はどのように回避すべきなのか?
ここまでの記事の内容は如何でしたでしょうか?
あなたにプラスに働いていれば幸いです。
ここからは、更に環境デューデリジェンスの実務ベースの「奥深さ」に踏み込んでみようと思います。
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