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音楽とは ~叔父の回顧~
「周、なんかセッションしようや!」
3歳、バイオリン始めたての俺に叔父が絡んでくる。
幼い頃の俺は祖母の家によくいた。
ピンクのペンキを塗りたくった意味不明なバイクで美容師の叔父がやって来る。家に入るなり冷蔵庫へ一直線、アサヒの缶が良く似合うドレッドヘアの兄ちゃんだった。
どこで拾ったかも分からんような黄ばんだ皮の太鼓や、トップを無理やり剥がして木肌の見えたアコギを鳴らし、レゲエ調のハッピーな歌をよく聞かせてくれていた。半ば強引に聴かせられていた。SIONのような声だった。
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俺がクラシック以外の魂を知ったのは随分後だ。小6でやっとビートルズを1枚目から順に聴き始めた。その頃の叔父はもう寝たきりだった。
多発性硬化症、俺が崇拝するチェリストのデュプレと同じ病気。叔父は美容師の仕事中に違和感を感じるようになったらしい。腕が上がらない気がする、と。
通院などするうち、叔父はもう髪を切れなくなり、歩けなくなり、やがて寝たきりになった。痰も自分で吐けなくなった。
目線だけで文字盤を指示し、意思疎通をしていた。
そして俺が中学受験をする直前に亡くなってしまった。
俺はロクに礼も言えずだ。
いまいちノリの悪い甥っ子で、ゴメン。
今なら超イケてるセッションが、出来るのに。
関係のあった人達は言う
「真っ白のブリーチが流行る前、アイツだけが本当の真っ白な髪を作れた。どうやってたのか、誰も真似出来やしないよ。」
「あいつよく木屋町のラーメン屋の前の路で寝てたよ」
「怪しい植物育ててたから、目を盗んで洗剤かけてやったよ」
「キノコ図鑑って日記を作ってて、栞代わりに怪しい干からびたキノコが挟んであったよ」
亡くなった少し後、ふと実家のCDデッキのカセットホルダーを開けた。
「にいやんsongs、周へ」
見たことの無いカセットが仕込まれていた。
再生すると風呂場で録音したようなジャブジャブな音のsongsたちが。何度か聴きまくって、その後カセットがどこへ行ったかは分からない。
幼い俺に仕込んでくれたのは音楽?
自由でほどほどに迷惑な生き方か?
今の俺はほどほどに仲良くワルいことのできる仲間に囲まれ、なんとなく音楽を生き様といえるような人生になってきてるぜ。
いい朝には、さっさとビールでも飲もうな。