金縛り 黒い服の男編
わたしは所謂見える人ではないし、そもそもオカルトを信じてはいないので今まで一度も心霊体験をしたことがない。なのでホラーは完全にエンタテイメントとして楽しめているのだが、そんなわたしでも年に一度くらい金縛りに合う。金縛りは睡眠麻痺という現象だがやはり実際に体験すると怖いものである。
忘れられない金縛りが2つある。どちらも専門学生だった頃のことだ。
学生時代は人生で一番寝れていなかった。服飾学校で課題がやたらめったら多いのと、ギリギリまでやらない性格のせいで二徹三徹は当たり前だった。
その日もなんとか課題を仕上げ提出し、重たいトルソーを背負いふらふらで帰宅した。
夏はとうに過ぎており、東京といえども逢魔時の部屋は薄暗く少し寒かった。
とりあえず社会人の彼氏が帰ってくるまで軽く寝ようと電気もつけずにソファに倒れ込んだ。
違和感を感じて目が覚めた、体が動かない、金縛りだ。どのくらい寝たかしら、久しぶりだなあ、1人の時は嫌だな。と呑気に考えていたら、ふと、視線を感じた。
当時のアパートは1階だが坂の途中に建っているのでベランダは道路よりずいぶん高くなっていた。そう簡単には人は入ってこれないはずだった。なんだか嫌な予感がして少しずつ視線をずらす。鍵が目に入る、閉まってる。
よかった…
ほっとしてすぐ、違和感を感じて喉がヒュッとなった。足だ、細いズボンを履いている、ベランダに人がいる。1人じゃない、複数人いる。心臓が早鐘を打つ、怖い怖い怖い、見たくないのに目が勝手に、わたしの意思に反してどんどん視線が上にいく
目が合う、合っちゃう…
だめだ、
目が合…
…
わなかった。
サングラス。
黒い服のイケイケマッチョ3人組がベランダから真顔でこっちをじっと見ている。ゴツゴツのアクセサリーは窓なんて簡単に割れそう…EXILEだ!
正直わたしはEXILEに疎いので、誰が誰なのか、何人いるのかわからない。黒い衣装、サングラス、ゴツゴツのアクセサリー、マッチョ、そのくらいの認識だ。だが見た瞬間に確信した。それにしても3人は流石に少ないのでは…。そしてわたしは意識を失った。
目が覚めると部屋には電気がついていた。
暖かい、いい匂いもする。
彼氏が帰ってきてご飯を作ってくれていた。働いてきたというのによくできた人だ…。
ベランダのカーテンは閉まっていた。彼氏が閉めたのだろう。そっとカーテンをあけて窓の外を見る、もちろん誰もいなかった。
やっぱり金縛りは睡眠麻痺で、どんなにリアルでも幻覚だ。自分の中にないもの、知らないものは見れないのだ。EXILEの知識が無いなりに捻り出したせいで随分あやふやなEXILE風になってしまった。
昔からなんで古いって言っても武士とかそのくらいの時代の霊の話しか出てこないのかと思っていたが、多分知らないからだ。
土器を抱えた弥生人とかマンモスの霊が出てこないのもそういうことだと思う。英語は喋れないから英語の霊は出ない。知らないもんは見れない。寝ぼけた誰かが見間違えるとしても知らないものには見間違えられない。
以降わたしは何回か忘れられない金縛りを体験するのだがそれはまた今度書こうと思う。
それにしてもあれがわたしのEXILEの限界だと思うと笑える。完全に雰囲気だけだった、ごめんEXILE。